57面 笑おう(脚本)
〇大きな木のある校舎
老人(あの人さえ会ってくれれば・・・)
老人(・・・あきらめよう 人生の枯嘆期に入った私には)
老人(・・・でも)
老人「あっ」
サッカーボールがぶつかって、
お盆にのせていたリンゴを落としてしまう
薄茶色のフォーマル厚地のスーツ
ハット姿のおじいさん。
学校訪れて校門、石柱の間を
通ろうかというときに
老人(やっぱり・・・)
ベンチに座って粒涙流すおじいさん
しかし・・・
〇ビルの地下通路
「おはよーっ」
江藤鉱「おはよーっ、あっ、おはようっ」
泡くっちゃって2回言っちゃう。
あいさつしてくれるなんて思わないし、
あんまりはっきり顔見れたから
〇雨傘
ビニール傘開いた
内側のかさのところに
白い女物の靴が滑り落ちる
(落ちるまではいかないけど
内側をツルンっ
シンデレラはガラスの靴だけど)
〇ビルの地下通路
折中珠未「マイクスタンドは?」
江藤鉱「ああ、そっか 残ってるのか、ごめん」
折中珠未「いやいやいやいや、全然」
江藤鉱((手伝わせて?いやいや?))
〇地下の避難所
コンクリむき出しの倉庫だから
B階地下か、自分も行って、
(外かな、少し空見えたような、
側面コンクリ壁の
裏手っぽいところ通って
ヤオバザも鉄扉口あったよね
スタンドって聞いて、すすんで動く)
〇ビルの地下通路
江藤鉱(いかないと ちゃんと処理しないとな)
江藤鉱(しかし、ほんとに)
江藤鉱(ああ、そうだ、こういう顔だった)
まつげ長くてはっきりした目
唇が突き出た感じ、華奢な体
折中珠未さん
もう一度会えただけでいい・・・
九宝さんも事情は
知ってるんだろうな、それは
それなのに
後ろから追い越して
前に回りこんで覗き込むようにして
あいさつしてくれるなんて
さ、これ以上
迷惑かけられないからな
何だかわかんなくても
何とかしなくちゃな
(歌うとかある?いや・・・)
〇大きな公園のステージ
──ヤオバザステージ
スピーチ、別れのあいさつ
江藤鉱「・・・みんな元気でね、さよなら」
江藤鉱「あんなかたちでいなくなりましたけど」
江藤鉱「みんなよくしてくれて ほんとうにありがとう」
江藤鉱「楽しかったのは本当です」
江藤鉱「後輩の言ってくれたことからいえば」
江藤鉱「ヤオバザでのみんなとのひとときは 自分にとって青春でした」
江藤鉱「だから、つらいけど 明るい思い出、です」
江藤鉱「うまいこといえませんが はい、みんな好きでした」
江藤鉱「嘘ばかりの自分ですが 以上のことは本当です」
江藤鉱「ほんとうにどうもありがとうございました」
江藤鉱「・・・グッドバイ、よいお別れを!」
江藤鉱「どうかみんなお幸せに 健やかなさいますように」
江藤鉱「お祈りしてます」
江藤鉱(最後に、もう一度会えてよかった)
江藤鉱(声かけてくれてうれしかったです)
江藤鉱(迷惑かけてごめんね 負担になる、そんなつもりじゃなかった)
江藤鉱(どうしてほしいの? って、仲良くなりたかった)
江藤鉱(少しできた、してくれたんだよね)
江藤鉱(好きでした 折中珠未さん)
江藤鉱(気持ちを押し付けてしまったけど)
江藤鉱(後姿見たら 駆け足して追いついて)
江藤鉱(変なのー って、笑ってくれた・・・)
江藤鉱(ガラス張りの向こうから コンコンして)
江藤鉱(九宝さんと2人で手振ってくれた)
江藤鉱「・・・振り返ると 1年ちょっとなのにいろいろありました」
江藤鉱「大好き です」
〇風
折中珠未「・・・だから私は 一緒に生きていこうなんていわない」
折中珠未「一緒に写真を なんていわれると気持ち悪い」
一緒に咲こう
折中珠未「それは・・・」
後ろ髪短く結んだ クリ
ピースして写真──
〇堤防
──漁師さんと、
プルンプルンの話してて
昼にレール?各々にひっついている
売り物にならない魚を
食べていいってことで
丸かじりしてるって、
江藤鉱(へー、透明で)
江藤鉱(水饅頭、わらびもち 水色でって感じ)
江藤鉱「なか、タコの足みたいだね通ってんの」
漁師「そうだねー」
外側がどういう質かしらんけど
口はオトシゴみたいに突き出てて
目と同じように丸くて白に黒目がち
(プルンプルンって名前)
江藤鉱「市場に出しても売れそうだけどね」
江藤鉱「運べない、痛みやすいからなんかねー」
漁師「んー、どーだろねー」
何て話してると
江藤鉱(あ、走って戻ってきたのは)
折中さん?か、近い人
コンクリ坂の下から走ってきて──
海岸沿いの漁港、
自家用船をおさめるような
傾斜のついたレールなのかな
向こうからみたら
大花歴亜「手をーあげーてわらーおうー」
葵星羽「手を洗ってわらーおうーっ」
(バンザイで励ますの?
落ち込んでる人を)
あれ、丸かじりするんかー
女性「ねー」
〇宇宙空間
折中珠未「おまえは俺と 添い遂げるんじゃねーのかよっ!」
添い遂げたかったよ
だけどそうならなかった
折中珠未「だったらもういーのかよ」
よくないよ
折中珠未「意地見せろよ」
〇未来の店
折中珠未と添い遂げられたら
どんなによかったかしれない
また、周りのみんなも
いい子たちばっかり
そのなかにいられたら──
〇何もない部屋
──夜、寝ていて、
足元側の窓ガラスに一瞬、
白いパッツン前髪の女性が映って見えて
ハッとして起きて、
江藤鉱(髪型、色は違うけど折中さん?)
もう見えなくなって、
目を覚ました自分の元に、
その女性の映ってた
窓ガラスから現れたように
犬がフワッと一っ飛びで来て、
薄茶色の短い毛並みに黒い鼻、
柴犬とドーベルマンを
合わせたようなシュッとした犬。
うちの飼い犬?(覚えないけど)
いつもそんなことしないのに
こっちの顔に、
正面鼻先の触れるくらい寄せてきて、
真顔で目を合わせてくる。
何か訴えたいことでもあるのかしら
そういえば、大花さんも
正面遠くから駆け寄ってきて、
ボンって体当たりまでいかないけど
胸が当たって弾んで、
大花さんは何も気にしないで
うれしい笑顔みせてくれて
そんなことあったな。
折中さんは夜空の星に?
なんて、使い古した表し方でも何でも
いい方向に終わりを
迎えられたんならいいよ。
それを知らせてくれたのか、守護犬
天の使いなのかな
そうなら、折中さんをよろしくね
大花歴亜「兄さんのこと、誰も悪口言わない」
大花歴亜「珍しい」
って言ってくれたっけ、大花さん。
九宝優梨「神」
川浦 凪「神だよ」
って、九宝さんと川浦さん、
バックヤードの廊下に溢れてた
搬入品を整理したの褒めてくれたり
川浦さんは俺のこと
川浦 凪「兄きー」
って呼んでくれて、
いいことあったな、折中さん以外も
みんなありがとう
みんなと働けてよかったです
あのひとときは
つらいだけのことじゃなくって
ちゃんと楽しかったです
川浦 凪「ワンモア?」
ノー
もう全部 手を離れたから
大丈夫
だいじょばなくないよ
大花歴亜「よかった 兄さん大好き」
よかった 何よりです
折中珠未「面白ーい」