エピソード1(脚本)
〇村の眺望
ここは関東と東北の境にある村。
〇田舎の学校
県立〇〇高等学校
〇教室
担任「新しいクラスメートを紹介する」
稲葉みさき「転校生・・・」
担任「入りなさい」
担任「挨拶なさい」
広瀬悠一郎「初めまして」
広瀬悠一郎「僕の名前は──」
広瀬悠一郎「「広瀬悠一郎」・・・らしいです」
稲葉みさき「──らしい?」
担任「はいはい、静かに」
担任「実はね──」
担任「彼は記憶喪失なの」
男子生徒「マジか?」
山下くん「学校来てる場合じゃないだろ」
担任「リハビリの為にこの村に越してきたらしいのよ」
担任「じゃあ広瀬くん 奥の空いている席に座りなさい」
稲葉みさき「えっ!?」
稲葉みさき「あたしの隣か・・・」
担任「稲葉、悪いが教科書見せてやってくれ」
稲葉みさき「はい」
机を隣に並べ、教科書を広げる。
広瀬悠一郎「ありがとうございます」
稲葉みさき「・・・いえ」
〇教室
担任「──というわけで 次の問題、広瀬がやってみろ」
広瀬悠一郎「えっ!?」
広瀬悠一郎「は、はい・・・」
広瀬悠一郎「えーと・・・」
担任「わからないのか?」
広瀬悠一郎「す、すみません」
広瀬悠一郎「ああ・・・ 記憶が戻っていれば」
広瀬悠一郎「しくしくしく・・・」
稲葉みさき「・・・」
〇田舎の学校
〇散らかった職員室
稲葉みさき「先生」
担任「おっ、なんだ?」
稲葉みさき「広瀬くんの事で・・・」
稲葉みさき「やっぱり学校はまだ早いと思います」
担任「さっきの事か?」
担任「だったら大丈夫だ」
担任「彼は記憶喪失と言っても自分の生活に関わる事で、学業については問題ないんだ」
担任「普通に転入試験も出来てたしな」
稲葉みさき「でも、さっき・・・」
担任「あれは記憶喪失を言い訳にしてるだけだ」
稲葉みさき「そうなんですか?」
担任「彼は結構ふてぶてしいと思うぞ」
〇教室
稲葉みさき「・・・」
広瀬悠一郎「ふう・・・」
広瀬悠一郎は一人席に座っている。
稲葉みさき「あのー・・・」
稲葉みさき「体とか大丈夫なの?」
稲葉みさき「具合が悪いなら保健室に行く?」
広瀬悠一郎「ありがとうございます」
広瀬悠一郎「・・・」
広瀬悠一郎「あなた・・・ 優しいんですね」
稲葉みさき「別に・・・」
稲葉みさき「クラスメートとして当然の事だし」
広瀬悠一郎「・・・」
広瀬悠一郎「もしかして僕のこと好きなんですか?」
稲葉みさき「はっ!?」
〇学校の屋上
稲葉みさき「だから違うって言ってるでしょ!」
藤森優子「どうしたの?」
稲葉みさき「実は・・・」
広瀬悠一郎「絶対僕のこと好きだと思うんです」
稲葉みさき「そんな訳ないでしょ」
藤森優子「・・・そうよね」
藤森優子「だって、みさきには山下くんが・・・」
稲葉みさき「ちょっと!」
藤森優子「あっ、ごめん」
広瀬悠一郎「だって、そう考えなければ 行動のつじつまが・・・」
広瀬悠一郎「なんなら恋人だった可能性だって・・・」
稲葉みさき「あんたは親切にしてくれる女の子は みんな惚れてるからだと思ってるのか?」
稲葉みさき「だいたい初めて会ったのに彼女の訳ないでしょう」
広瀬悠一郎「そんなの分からないじゃないか!」
広瀬悠一郎「交際の思い出、思い出・・・」
広瀬悠一郎「ああ、記憶が戻れば・・・」
稲葉みさき「あんた本当に記憶喪失なの?」
稲葉みさき「喪失のフリしてナンパしてるだけじゃないの?」
広瀬悠一郎「酷い!!」
広瀬悠一郎「しくしくしく・・・」
稲葉みさき「・・・」
藤森優子「きっと彼は記憶喪失で不安なのよ」
藤森優子「だから、みさきに心の拠り所を求めているのよね」
広瀬悠一郎「!!」
広瀬悠一郎「そうでしょうか?」
藤森優子「きっと、そうよ」
広瀬悠一郎「・・・」
広瀬悠一郎「あなた・・・優しい人ですね」
藤森優子「えっ!?」
広瀬悠一郎「ジー」
藤森優子「やだ、そんなに見ないでよ」
広瀬悠一郎「もしかして 君が僕の彼女では・・・」
稲葉みさき「お前なー・・・」
〇村の眺望
稲葉みさき「はぁ、はぁ」
広瀬悠一郎「あのー どこに行くんですか?」
稲葉みさき「あんたの家よ」
稲葉みさき「家になら記憶に繋がる物があるはずでしょ」
稲葉みさき「とにかく、こいつの記憶を何とかしなきゃ」
稲葉みさき「記憶喪失を理由に言い寄られたら かなわないわ」
広瀬悠一郎「僕の家、分かるんですか?」
稲葉みさき「わからないから あんたが先に行くのよ!」
広瀬悠一郎「は、はい・・・」
〇大きな一軒家
〇古い畳部屋
稲葉みさき「えっ!?」
稲葉みさき「何これ?」
稲葉みさき「何もない・・・」
稲葉みさき「ねえ、引っ越しの荷物が届いてない訳じゃないわよね」
広瀬悠一郎「はい・・・」
広瀬悠一郎「引っ越しする時に要らないものを全て捨てたらしいです」
稲葉みさき「捨てたって・・・」
押入れやタンスの中を見ても過去に繋がるものは何もない。
稲葉みさき「ねぇ、アルバムとかないの?」
広瀬悠一郎「引っ越しのどさくさに紛れてなくなりました」
稲葉みさき「なくなった!?」
稲葉みさき「じゃあ、ちょっとスマホ見せて」
稲葉みさき「・・・」
稲葉みさき「何これ? 写真も何も入ってないじゃない」
広瀬悠一郎「前のは壊れて 買い替えたばかりなんだ」
稲葉みさき「壊れた!?」
稲葉みさき「・・・」
部屋を見回す。
稲葉みさき「なんだろう、この部屋・・・」
稲葉みさき「いくら記憶がないと言ったって──」
稲葉みさき「高校生男子の部屋って、こんなんだっけ?」
???「あら、悠一郎帰ってるの?」
???「お客様でもいるのかしら?」
ガラッ
母親「あら?」
稲葉みさき「お、お邪魔してます」
母親「このお嬢さんは?」
広瀬悠一郎「覚えてないかな? 昔付き合ってた稲葉みさきさんだよ」
稲葉みさき「おい・・・」
母親「あ、ああ みさきさんね お久しぶり・・・」
稲葉みさき「えっ!?」
〇大きな一軒家
父親「いやー 相変わらず奇麗なお嬢さんだ」
「あはははは・・・ うふふふふ・・・」
稲葉みさき「あのー、もしかして 勘違いしてるんじゃないですか?」
稲葉みさき「あたし、広瀬くんとは今日知り合ったばかりなんです」
父親「まぁ、悠一郎との交際期間も短かいし──」
父親「私とも一度会っただけだから覚えてないのも無理はないかな」
広瀬悠一郎「ほら、やっぱり僕たちは付き合っていたんだ」
稲葉みさき「だったら証拠を見せてよ!」
広瀬悠一郎「そんな事言われても」
広瀬悠一郎「引っ越しの時に殆ど処分しちゃったから」
稲葉みさき「何で処分するのよ」
稲葉みさき「記憶喪失なら過去の物は回復に繋がる大事な物でしょ」
父親「まぁまぁ、お嬢さん そう興奮しないで」
父親「過去と言うのは、そんなに大切なものですかな?」
広瀬悠一郎「そうだよ」
広瀬悠一郎「過去なんてどうでも良いじゃないか」
広瀬悠一郎「過去より今 今より未来だよ」
稲葉みさき「はぁ!?」
稲葉みさき「なに言ってんの!!」
稲葉みさき「あんたは記憶喪失でしょ」
稲葉みさき「昔の事を思い出したいと思わないの?」
母親「あのー ちょっと良いかしら」
〇部屋の前
稲葉みさき「言っちゃ悪いですけど 息子さんおかしいですよ」
母親「分かってます」
母親「あなたに迷惑をかけて済まないと思っているわ」
稲葉みさき「何か・・・あるんですか?」
母親「これを読んで下さい」
みさきは差し出された日記を開く。
そこには──
〇名門の学校
〇教室
〇テクスチャ2
稲葉みさき「いじめ!?」
〇高層ビル群
広瀬悠一郎「ううう・・・」
〇開けた景色の屋上
広瀬悠一郎「僕なんか・・・ 僕なんか・・・」
〇高層ビル群
〇部屋の前
稲葉みさき「・・・」
母親「幸い一命は取り留めました」
母親「そして昏睡状態から目覚めた時──」
母親「いじめられた記憶を始めとする トラウマに繋がる全ての事を 忘れていたのです」
稲葉みさき「・・・」
母親「私たちはこれを契機に 最初からやり直す 決心をしました」
母親「忌まわしい出来事を思い出させない為に 過去に繋がることは全て廃棄し──」
母親「縁もゆかりもない この地に降り立ったのです」
稲葉みさき「・・・」
稲葉みさき「別にあたしは他人の家庭に入り込むつもりはありません」
稲葉みさき「広瀬くんと恋人同士だったと言う 誤った記憶を訂正してもらえれば 良いだけです」
母親「それは出来かねます」
稲葉みさき「はぁ?」
母親「見ましたか 先程の悠一郎の姿」
母親「とっても幸せそうで──」
母親「あんなに明るい悠一郎なんて 久しぶりです」
母親「ふふふふふ・・・」
稲葉みさき「困ります!」
稲葉みさき「あたし、 好きな人がいるんですから」
母親「その人とは交際をしているのかしら?」
稲葉みさき「いえ、まだですけど・・・」
稲葉みさき「でも、あたしは いつかお付き合いしたいと 思っています」
父親「どうかしたのかね?」
母親「実はこのお嬢さんが 悠一郎と別れたいと言うのです」
稲葉みさき「別れたいではなく 最初から付き合ってないんです!!」
父親「ほう・・・」
父親「まぁ、 別れたいと言うなら 良いんじゃないかな」
母親「良いのですか!?」
稲葉みさき「父親はまともだ」
父親「しかし・・・ お嬢さんも気づいていると思いますが」
父親「私たちは息子に新しい記憶を植え付けている最中でしてな」
父親「くれぐれも余計な情報を与えないように気を付けて欲しいのですよ」
父親「特にトラウマに繋がるような 出来事は・・・」
母親「そうですね」
母親「せっかく明るい悠一郎に育ってきたのですものね」
母親「これを壊すようなことをしたら──」
〇モヤモヤ
「私たちが絶対に許しませんよ!」
「ふふふふふ・・・」
〇学校の屋上
藤森優子「当初のイメージからは想像出来ない 重い過去ね」
稲葉みさき「いじめの記憶がスッポリ抜け落ちてるし」
稲葉みさき「都合のいい記憶を色々と植え付けているからね」
藤森優子「それはそれで問題だと思うけど・・・」
稲葉みさき「ねぇ、どうしたら良いと思う?」
稲葉みさき「山下くんに誤解される前に あいつと別れないと・・・」
藤森優子「そう言われても・・・」
広瀬悠一郎「みさき 何してるんだい?」
稲葉みさき「呼び捨てかよ・・・」
藤森優子「じゃ、じゃあ私これで・・・」
稲葉みさき「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
広瀬悠一郎「ねぇねぇ、なに話してたんだい?」
広瀬悠一郎「ふふふふふ・・・」
稲葉みさき「ちょっ、ちょっと 近寄らないでよ!!」
広瀬悠一郎「ふふふふふ・・・」
広瀬悠一郎「ふふふふふ・・・」
読んでいくうちに違和感が出てきて、だんだんとホラーになっていく展開が怖くてよかったです。
彼の記憶を新しくしたい両親の気持ちもわかりますが、このままだと犯罪に発展しそうで!
ラブコメを想像しながら読み始めたので驚きの展開に、最後の彼の笑いが怖かったです。
次々に変わっていく展開に巻き込まれるみさき、狂気に満ちた家族、離れていく友人……今後のみさきにどんな災難が降りかかるのだろうと想像したら、もっと怖くなってしまいました。
これは彼目線でのお話も読んでみたいと思いました。実は彼は何を考えていたのか……気になります(--;)
記憶を失いつつも実はふてぶてしい彼に振り回されるうちに…?みたいなラブコメかと思いきや、重くて少し狂気じみたラストにびっくりで面白かったです😆
実は記憶を失ったのは嘘で、自分の都合のいいように両親や周囲を操作している…?とか妄想しました😨