待ち合わせの名所

トピノイッシー

読切(脚本)

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〇ハチ公前
  ようこそ、日本一の待ち合わせ名所、渋谷のハチ公前広場へ。
  ご覧ください、僕の左側にあるのは海外でも有名なスクランブル交差点。

〇渋谷の雑踏
  ピークの時は青信号一つで三千人が同時に交差するらしい。

〇ハチ公前
  そして、僕が今向かっている方向には元東急5000系電車、通称青ガエルが設置されていた。
  今は秋田県に移転したらしい、少し寂しくなったものだ。
  僕は長い間、このハチ公前広場の変遷を見てきた。
  誰よりもハチ公前を知り尽くしていると自負する。
  ここは待ち合わせの場所であり、別れの場所でもあることを僕は知っている。

〇ハチ公前
武藤「はじめまして、武藤です。 高梨さんですか?」
高梨「はじめまして、高梨です。 今日はよろしくお願いします」
武藤「こちらこそ、よろしくお願いします。 では行きましょうか?」
高梨「はい、行きましょう!」
  僕は初々しい二人がスクランブル交差点へ歩いていくのを見送った。
  初めての待ち合わせ場所をハチ公前にした二人に、僕は祝福したいと思う。

〇ハチ公前
  夕方になると、少しは慣れたような雰囲気の二人がハチ公前に戻ってきた。
武藤「今日は楽しかったです。 ぜひまた遊びに行きましょう!」
高梨「私も楽しかったです。 ぜひまた誘ってください!」
武藤「もちろんです! では帰りましょうか」
高梨「はい、帰りましょう」
  そう会話しながら二人は駅の方へ向かった。

〇ハチ公前
  ここは待ち合わせの名所、出会いと別れに満ちた場所。
  長くこの場にいる僕は次第に思った、誰かの出会いにきっかけを作ろうと・・・・・・
  ただ僕はこの場から動けない、声も発せない。
  そして今日も見守ることしかできなかった。
  晴れる日も、雨の日も、大雪に覆われても、荒れる台風の洗礼を受けても僕はここから動かない。
  いったい何年過ぎたのか、僕も覚えていない。
  ただ今日も現れないであろう彼を待ち続け、人々の出会いと別れを見守っていく。

〇ハチ公前
武藤「お待たせ、いきなり呼び出してごめんね」
  あれから何度も二人を見かけたので、爽やかな雰囲気が薄れても、僕にはひと目でこの男性が武藤だとわかった。
高梨「ううん、大丈夫。それより話って?」
武藤「もう終わりにしよう。 幸せな思い出のまま別れよう・・・・・・」
高梨「なんでいきなり・・・・・・ 理由は・・・・・・?」
  涙を必死に堪える高梨の言葉に切なさを覚えた。
武藤「ごめん、それは言えない・・・・・・ でも一緒にいて本当に幸せだった こんな俺と付き合ってくれてありがとう」
高梨「わかった・・・・・・」
  静かに涙を落とし、高梨は駅へ向かった。
  そして武藤もまた、静かに涙を落としていた。

〇ハチ公前
  何時間経ったのか、空がしっかり暗くなっていた。
  終電の時間を逃しても、武藤は僕の隣に座り込み、帰る様子はなかった。
武藤「ねぇ、聞いてくれる?」
  周りには誰もいなかった。
武藤「これで良かったのかな・・・・・・」
  僕には声を掛けることはできなかった。
武藤「実は俺、来週に手術するんだ。 成功したとしても、長い間リハビリしなければならない・・・・・・」
  静寂な夜に彼の声はやけに響いた。
武藤「こんな形で彼女を傷つけたくなかった・・・・・・ ただ死に別れや重荷になることもしたくなかった」
  彼はきっと長い間悩んできて、ギリギリのタイミングでつらい選択を決めたのだろう。
  この思い出の詰まった場所で・・・・・・

〇ハチ公前
  朝になり、武藤は疲れ切った足で駅へ向かうのを見届けた。
  僕は見守ることしかできなかったのだから。

〇ハチ公前
  あれから数年、やつれた武藤がここに戻ってきた。
武藤「久しぶり・・・・・・」
高梨「久しぶり・・・・・・」
  出会った頃より距離感を覚えた二人。
武藤「最近は元気だった?」
高梨「わりと元気だったよ。 そっちから連絡くるのって珍しいね。 何かあったの?」
武藤「まぁ、久しぶりに会ってみたいと思って・・・・・・ とりあえず喫茶店でも行こう」
高梨「うん、行こう」
  武藤の手術は成功して、リハビリも頑張ってきたろうな。
  二人がまた幸せになれるように、僕は見守ってあげたい。

〇ハチ公前
  夕方になると、楽しく話しながら二人は帰ってきた。
武藤「今日はありがとう。 楽しかった・・・・・・」
高梨「私の方こそありがとう。 またね・・・・・・」
  二人が駅へ向かっている後ろ姿を見送る時に、僕は高梨の左薬指に指輪がハマっているのを気づいた。
  これっきり、二人を見かけることはなかった。
  そして僕は今日も現れないであろう彼を待ち続け、人々の出会いと別れを見守っていく。

コメント

  • 出会いもあり、別れもある。
    それを見守っているハチ公。なんだか心に刺さりました。
    それなりの時間を共有して、でもそんな人が別の道を歩いていることに、応援の気持ちあり、寂しい気持ちありですね。

  • ハチ公様は人々を見守る事が仕事ですか?いや、ハチ公様は人々の役に十分立っています。待合場所の選定です。しかし、最も重要な事は、人々の幸せに貢献してますね。

  • ハチ公はいつも同じ場所にいて,何も言わず黙って,人々の幸せを見守っていてくれる存在なのですね。武藤くんに関しては,どんまい!

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