感情回帰

ラム25

見えない宝(脚本)

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〇明るいリビング
  自慢じゃないが俺は頭がいい。
  学校に通わなくなったのも周囲が幼稚で稚拙極まる人間だからだ。
  俺が偏微分方程式を片手で解くのに、周囲は二次方程式に手を焼いている。
  知能の程度の低い人間とは分かり合えなかった。
内藤(灘高も開成高校もレベル低いだろうしなぁ・・・ でもアメリカに行くのもだるいし)
内藤(いっそ異世界に行けりゃなあ・・・)

〇ファンタジー世界
内藤「あれ、ここは・・・」
シルヴィア「気がついた?」
  周囲を見渡し、空に浮かび水を流している島、見慣れぬ木々、虎の大きさの猫のような生き物を見てある判断に至った。
内藤「なるほど、ここは異世界か」
シルヴィア「察しがいいわね・・・ 私はシルヴィア・エモン・ラファレス・エルエッタ・ヌメド・ペルシー」
内藤「それで何の用だ、シルヴィア・エモン・ラファレス・エルエッタ・ヌメド・ペルシーとやら」
シルヴィア「凄い、私の名前一発で覚えたのあなたが初めて・・・!」
シルヴィア「それでこの世界の王はとんでもない独裁者なの」
内藤「歴史上独裁政権が長く繁栄した前例はないから安心しろ」
シルヴィア「でも王は難題を解けたものに大事なものを譲ると言っているのよ」
シルヴィア「それで頭の良い人を適当に召喚したの」
  適当、と言うのは腑に落ちないが俺に目をつけるとは見る目があると言える。
内藤「仕方ない、協力してやろう」
シルヴィア「ありがとう! 早速いきましょうか」
  シルヴィアは床に陣のような物を描き、作動させる。
シルヴィア「これで行けるわ」
内藤「セキュリティは大丈夫なのか・・・」

〇謁見の間
王「よく来たな、賢き者よ」
内藤(黒い?)
シルヴィア「あの人が王様。 魔法で姿を黒くしてるのよ」
内藤「王なのに随分シャイらしいな」
  即座に側近の男が無礼者、などと怒鳴るが予想通りなので相手にしない。
王「問題を解ければお前にある物をやろう」
内藤「どうせ地位だろう。そんな物は必要ない」
王「お前には欠けている物がある。 それをくれてやると言ってやるのだ」
内藤「・・・」
内藤(なんだ、こいつは。 まさか俺の秘密を知っているのか?)
王「では問題だ」
王「4つの顔を持つが1つしか頭を持たないのはなんだ?」
  それを聞き俺は心底呆れた。
  この程度のチープな問題が難問だと言うのか。
内藤「答えは時計だ. 時計は0時、3時、6時、9時の4つの方角に対応する面があるが中心たる頭は1つしかない」
  これで俺の目的は果たした。
王「不正解だ」
内藤「間違いなどないだろう」
王「的外れもいいところだ。 出直せ」
内藤「・・・」
シルヴィア「今日は諦めてまた来ましょう」
内藤「・・・そうだな」

〇西洋風の部屋
内藤「なあシルヴィア、悪いが泊めて貰っていいか」
シルヴィア「えぇ、もちろん」
内藤「あっさり承諾するな・・・」
シルヴィア「わざわざ来てもらったからね、 何か必要な物があったら言ってね」
内藤「なら紙とペンを頼む」
シルヴィア「分かったわ」
  俺は紙に筆を滑らせ続けるも、夜になっても答えが分からなかった。
シルヴィア「そろそろ寝ましょうか」
内藤「そうだな」
  俺はシルヴィアのベッドに入り、シルヴィアの横に横たわろうとする。
シルヴィア「ちょ、なに入ってきてるの! デリカシー無いの!? 変態!」
内藤「え? 悪いことしたか? じゃあ外で寝るから・・・」
シルヴィア「いや、そうじゃなくて・・・ 怒ってごめんなさい、一緒のベッドに寝ていいわよ」
内藤「そうか? じゃあ・・・」
シルヴィア「でもあなたって不思議ね。まるで──」
内藤「まるで、なんだ?」
シルヴィア「・・・なんでもない。 おやすみ」

〇西洋風の部屋
内藤(数日経つがまだ解けないとは・・・ コンパス・・・? いや、時計は的外れと言っていたし違うな・・・)
シルヴィア「紅茶淹れたんだけど飲む?」
内藤「悪いな」
  口に含むと、紅茶の芳醇かつ繊細な香気が漂う。
内藤「良いアールグレイだな」
シルヴィア「あら、なんの茶葉か分かるの?」
内藤「ベルガモットの香りで分かる。何故異世界にまであるのかは分からんが」
シルヴィア「あなたやっぱり凄いわね・・・」
内藤「これくらいはなんてことない」
シルヴィア「それにしても紅茶を飲むと落ち着くわ・・・」
内藤「そうか? 俺はカフェインを接種するツールと割り切ってるが」
シルヴィア「もう、そんなんじゃ農家に失礼よ!」
シルヴィア「でもあなたが来てからなんだか楽しいわ」
  翌日はこうだった。
シルヴィア「ねえ、市場行きましょうよ!」
内藤「やめとく」
シルヴィア「そう言わずに! 徒歩で行きましょ!」
内藤「だりいな・・・」

〇西洋の市場
  市場には肉、魚の他に怪しいキノコなど見たことのない物が並んでいた。
魚売り「採れたてのマジロだよー! 身が引き締まってる自慢の鮮魚だ!」
ハーブ売り「ウチのハーブはよく効くよ・・・ヒヒ」
内藤「色んな店があるな・・・」
シルヴィア「楽しいでしょ! あ、あっちの店見ていい?」
  その店でシルヴィアは豹変する。
シルヴィア「50ルビーね」
店員「いーや、100ルビーだ!」
シルヴィア「何言ってるのよ、40ルビーでも高いじゃない」
店員「馬鹿言っちゃいけねえ!」
  次第にギャラリーまで出来上がるも、シルヴィアは引かない。
シルヴィア「じゃあ負けに負けて55ルビーにしてあげる」
店員「・・・しょうがねえ、55ルビーな」
  シルヴィアは競り勝ったらしく、拍手を浴びていた。
シルヴィア「見て、こんなかわいい服を55ルビーで買えたわ! 嬉しい〜!」
内藤「良かったな」

〇西洋風の部屋
  また別の日はこうだった。
シルヴィア「うっうぅ・・・」
内藤「どうした」
シルヴィア「この本、最後主人公が死んじゃうのよ・・・何も悪いことしてないのに・・・」
内藤「そうなのか・・・」
  何故空想の出来事にそんなに悲しむのだろう。
シルヴィア「こんな悲しいの久しぶり・・・」
  しかしシルヴィアと過ごしているうちに気付いた。
内藤(あぁ、なるほどな・・・)

〇謁見の間
内藤「答えが分かったぞ、王」
王「言ってみろ」
内藤「答えは感情だ。 人間は喜怒哀楽と4つの感情と1つの頭を持つ」
王「正解だ」
  そう言うと、王は魔法を解き姿を現す。
  その姿は──
  俺だった。
王「お前には感情が無いからな。 だから感情を理解させたくて召喚したのだよ」
  そう、俺には感情と呼べる物がない。
  幼少期にはあったが、高い知能から周囲に迫害されるうちに心の壁を作り、いつしか感情を喪失してしまった。
内藤「シルヴィアが召喚したわけじゃなかったのか」
シルヴィア「えぇ、隠しててごめんなさい」
内藤「いや、多くのことを教わった。 ありがとう」
  シルヴィアはその美しい顔に笑顔を咲かせる。
王「ではお前に感情をくれてやろう」
王「・・・と言いたいがそれは出来ない」
内藤「なに、どういう意味だ!」
王「今お前が抱いたのは怒りだ。 お前は紛れもなく自分の力で感情を取り戻したのだ」
内藤「俺が・・・」
王「では、帰るがいい」
  そう言うと突風が吹き、手を交差して風を凌ぐ。
  そして気がつくと・・・

〇明るいリビング
内藤「あれ、帰ってきたのか・・・ 夢だったのか?」
内藤「いや、この高揚感のような物は・・・」
  鏡を見ると微笑んでいた。
  初めて見る、自分の笑顔。

〇教室
  それから俺は学校に通うようになった。
  両親も周囲も俺の変わりように驚いていた。
  しかしクラスメイトと共に笑い、泣き、怒り、喜ぶのはとても楽しい。
クラスメイト「なあ、このグラビア女優凄くね?」
クラスメイト「これはEカップはあるな・・・」
  前ならこんな会話も下劣だと思っていたが、すっかり参加するようになった。
内藤「いや、これは85cmといったところか。 身長を鑑みるにDカップだな」
クラスメイト「なんだ、Dか・・・」
内藤「なんだとはなんだ! 大きすぎず小さすぎない理想のサイズだろうが!」
  頭は多少悪くなってしまった。
  しかし感情という物の方が遥かに尊いと思った。

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