夜の世界

情無合成獣スフィアマザコンザウルス

読切(脚本)

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〇黒背景

〇アパートの前
  家を叩き出された。
  何度目かはわからない。
  思い返してみても、風呂上がりにもたついた以外の非が思いつかない
  何度もやられれば、いい加減に慣れた
ヤブ「・・・・・・」
ヤブ「・・・・・・探検でもしてみるか」
  特に待つのも気が引けたので、
  僕は腹いせに深夜徘徊をしてやる事にした

〇ゆるやかな坂道

〇空

〇郊外の道路
  知らない人が、知らない街の顔を見せていた
  誰も、僕を気には止めなかった
  きっと彼らは夜の世界の住人なのだろう

〇住宅地の坂道
  どれぐらい歩いただろう
  子どもの足ならたかが知れているが
  ここで僕は重大な事に気がついた
ヤブ「・・・あっ」
  ────────財布持ってきてない
  僕は今から朝まで、長い夜の寒さをパジャマ一枚だけで戦わねばならない
ヤブ「・・・まあ、叩き出されたのもいきなりだったからな」
ヤブ「・・・どうしよ」

〇空

〇裏通りの階段
ヤブ「・・・・・・」
ヤブ「・・・くしゅんっ!」
  夜の寒さは、ついに自然の生命の危機をもたらす牙となり僕に切っ先を向けた
ヤブ「・・・・・・さむ」
  まだ死というものをフィクション越しでしか知らない
  でもなんとなく・・・
ヤブ「・・・僕、死ぬのかな」
  なんとなくそう思った
ヤブ「・・・・・・!」
ミツキ「・・・・・・・・・」
ヤブ「・・・・・・・・・」
  誰だろう?
  階段に自分以外に腰掛けているのが見えた
ヤブ「・・・・・・」
ミツキ「・・・・・・」
ミツキ「・・・・・・迷子?」
ヤブ「違うよ」
ミツキ「ふうん・・・」
ヤブ「・・・・・・」
ヤブ「・・・くしゅんっ」
ミツキ「・・・・・・」
ミツキ「・・・おいで」
ヤブ「・・・!!」
ミツキ「側に寄ったら寒くないよ」
ミツキ「・・・・・・」
ヤブ「・・・・・・」
  化学薬品と白粉が混ざったにおいがした
  普通なら不快な匂いのはずなのに、今の僕にはそれが心地よかった

〇見晴らしのいい公園

〇小さいコンビニ
ミツキ「お待たせ、買ってきたよ」
ミツキ「はい、君の」
ヤブ「あ、ありがとう・・・」
ヤブ「・・・・・・」
ミツキ「・・・・・・」
  二人で食べる肉まんも
  二人で飲むココアも
  生まれて初めておいしいと感じた
  いや、落ち着いて食事をしたのも
  はじめてかも知れない

〇空

〇ゆるやかな坂道
  僕達は歩いた
  宛もなく、気の向くまま

〇郊外の道路
  どこへ向かっているのか
  何を目指しているのか

〇住宅地の坂道
  僕にはわからなかった
  けれど・・・

〇黒背景
  この人といるのは心地よかった

〇荒廃したビル

〇荒廃した教会
ヤブ「・・・・・・」
ヤブ「・・・いっしょにいると温かいね」
ミツキ「・・・そうだね」
ヤブ「・・・・・・」
ミツキ「・・・・・・」
ミツキ「・・・・・ねえ」
ヤブ「・・・なあに?」
ミツキ「・・・・・帰りたい?」
ヤブ「・・・ううん」
ヤブ「・・・ここがいい」
ミツキ「・・・そっか」

〇空

〇空

〇アパートの前
  〇月☓日
  一人の男の子が深夜に家から閉め出されたきり、忽然と姿を消した。
  やがてこの話はしばらく世間を騒がせた後に忘れ去られた。
  そして、一つの都市伝説が残された。

〇荒廃した教会
  男の子は”夜の世界”に連れて行かれたと

コメント

  • 読了しました。
    家出したヤブに肉まんやココアを恵んでくれた謎の女性ミツキ。
    果たして2人は何処へ行ってしまったのか……。

    そしてミツキの服に付着していた薬品や白粉という単語……。謎が深まりますね。

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