魔法の切符

MKz square

魔法の切符(脚本)

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〇電車の中
斉藤栄司「うっ・・・、まだ乗って来んのかよ・・・。 毎日毎日勘弁してくれよ・・・」
  毎日同じようなスーツを着て、通勤電車に揺られ、会社に行く。
  正直しんどくてたまらない。
斉藤栄司「まだ押すのか! もう入らねえよ・・・!」
  職場の渋谷までの電車は毎朝気持ち悪くなるほどの乗車率で、出勤する前にヘトヘトになってしまう。

〇渋谷のスクランブル交差点
  少し前の俺にとって、渋谷という街は夢に溢れた街だった。
  当時の俺はいわゆる売れないバンドマンで、音楽で飯を食っていくためバンド仲間と曲を作ってはライブをしたり、
  レコード会社に売り込みに行ったりしていた。
  渋谷はホームグラウンド。
  ほとんどのライブハウスでライブをしたし、路上で歌ったりもしていた。

〇電車の中
  それも今となっては黒歴史。
  あの頃はサラリーマンなんて絶対なるもんかと思っていたのに。
  ──ガタン
「うわっ」

〇電車の中
  急ブレーキがかかったのか凄まじい揺れに思わず体がのけぞった。
斉藤栄司「くっ!」
  踏みとどまれず、倒れ込んでしまう。

〇黒
  なるべく他人に迷惑がかからないようにと踏ん張ってはみたが願いは叶わず、誰かに抱き止められる形で体勢を立て直した。
「大丈夫ですか?」

〇電車の中
  いつの間にかぎゅっと瞑ってた目を開け、体重の預け元に視線を向けるとそこには老紳士がいた。
斉藤栄司「す、すみません!」
謎の男「いえいえ。 お怪我はありませんかな?」
斉藤栄司「はい!おかげまさまで・・・」
  そう言いながら、俺は周囲の異変に気づく。
  さっきまでぎゅうぎゅうで押し潰されそうだった車内はガランとし、俺と老紳士の2人だけの空間になっていた。
斉藤栄司「あれ・・・?」
  あたりを見回すと窓から見える風景も違う。
斉藤栄司「な、なんだこれ・・・」
謎の男「貴方はとてもラッキーなお方です」
斉藤栄司「はい・・・?」
  突然現れた老紳士が、突然おかしなことを言い出す。
謎の男「驚くのも無理はありませんね。 貴方が今の現状に満足していないように見えたものですから、」
謎の男「わずかばかりチャンスを、と思いまして」
  老紳士はそう言いながら1枚の切符?のようなものを取り出した。
斉藤栄司「な、なんですかそれ。 何を言っているのかわからないんですが・・・」
謎の男「これはあなたの理想を叶える切符。 この切符で駅を降りれば、もうそこは貴方の理想の世界だ」
斉藤栄司「いや、ますます訳がわからないんですが・・・」
謎の男「ははは それはそうかもしれませんな。 ではお見せしましょう」

〇黒
謎の男「あなたの描く理想の世界を」

〇ライブハウスのステージ
英司 理想の未来「みんな盛り上がってるかー! 今日はツアーファイナル! ぜってぇ最高の1日にしてやるからなー!」
  ドームに埋め尽くされた人々の中心で、歓声を浴びながら歌っている、あれは・・・、俺?
謎の男「これが貴方の理想の姿ですか。 何ともまあ楽しそうですな」
斉藤栄司「これは、一体・・・ 確かにずっとミュージシャンとして売れることを夢見てきましたけど・・・」
謎の男「それがこの切符1枚で現実になるんですよ」
斉藤栄司「そんな馬鹿な・・・」
謎の男「信じられないことがもうすでに目の前で起きてるでしょうに」

〇電車の中
  確かにそうだ。
  忽然と人々が居なくなりガランとした車内、
  目の前に浮かぶ理想の自分自身の姿。
  どう考えても超常現象だ。
  だとしたら、
  もしかすると・・・!
斉藤栄司「ほ、本当に、この、理想の自分に、これが現実になるんですか?!」
謎の男「ははは、落ち着いてください」
謎の男「そうですよ。 あなたの思い描いた素敵な未来が、現実のものとなるんです」
斉藤栄司「で、でもなんでそんな事を俺に・・・」
斉藤栄司「金なら無いですよ!」
謎の男「そんな、何も求めたりしませんよ」
謎の男「たまにはこんなことがあっても良いでしょう?」
  老紳士の突然の提案に困惑しつつも、夢にまで見た景色に胸が高鳴る。
謎の男「さて、どうしますかな?」
斉藤栄司「・・・ありがたく頂戴します!」
  今まで振り返らないようにしてきた黒歴史を塗り替えられる。
  願ってもない大チャンスだ。
謎の男「ただし、勿論今までの人生で育んだものは無くなってしまうので、お気をつけを」
斉藤栄司「え?」
謎の男「周りの環境が激変するのです。 ご家族、友人、身の回りの方が一変してしまう可能性も大いにあります」
斉藤栄司「それは、家族が居なくなるかもしれないってことですか?」
謎の男「ええ。 もしかすると」

〇綺麗なリビング
のぞみ「パパー!」
まりえ「のぞみ!」
  俺には妻と娘がいる。
  ミュージシャンを諦めたのも家族が出来たからだ。

〇電車の中
謎の男「今ある全てを捨てて飛び込む勇気はお有りかな?」
  結婚しても、娘が産まれても、音楽を続ける道はあったが、しなかった。
  家族のためと言いながら、自分のプライドが許さなかったから。
  おっさんが趣味で音楽なんて、負け犬のすることだと。
斉藤栄司「・・・やめておきます」
謎の男「ほぉ。 退屈な毎日に戻ってしまっても良いと」
斉藤栄司「えぇ。諦めたこともあるけど、かけがえのないものを手に入れた人生を手放すことはできません」
謎の男「そうですか。 野暮なことをしましたな。 失敬。お幸せに」

〇電車の中
  ──次は渋谷、渋谷
  アナウンスにハッと意識が吸い寄せられる。
  夢でも見てたのか?
斉藤栄司「これは・・・!」
  ガタンと電車が停まり、押し出されるように改札まで人混みを歩く。

〇改札口前
  ──ピッ
  いつものようにSuicaをタッチした。
斉藤栄司「さ!今日も仕事頑張りますか!」
  帰ったら、久しぶりにクローゼットに眠っているギターを鳴らしてみよう。
斉藤栄司(ギターを弾くパパも悪くないよな?)

コメント

  • 面白かったです!自分も時々、違う選択を妄想するので、夢中で読んでしまいました!

  • めちゃ面白かったです!
    もしあの切符を使っていたら?みたいなもう一つのストーリーも見てみたいです☆

  • 終わり方 大好きです

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