第二話(脚本)
〇葬儀場
僧侶がお経を読んでる間も小さい話し声が聞こえてくる
「ブレーキとアクセルの踏み間違いですって。 即死だったそうよ」
「怖いわよねー」
「高齢者に運転なんてさせるべきじゃないのよ」
「しかも、ご夫婦の他にお友だちも乗せてて、その人も間もなく亡くなったらしいわよ」
・・・何故だ。
ついこの前電話で話して、
その少し前にはいつも通り小言を言っていたじゃないか
〇安アパートの台所
「実はご両親が事故で、亡くなりました」
古中 夏輝「は?そんな馬鹿な! 冗談は止めてください!」
「冗談ではありません。 今から、警察に来られますか?」
俺は半信半疑で、言われた警察署に向かった
〇警察署の霊安室
警察署の霊安室で俺が見たものは・・・
髙野 慶太「かなりの勢いで壁にぶつかった為に、顔や体の損傷が激しいですが・・・」
俺は思わず目を瞑った。
そこにはかろうじて、顔が識別できる両親が冷たくなって眠っていた。
古中 夏輝「なあ・・・なんのドッキリだよ。 俺、まだ何も親孝行なんてしてないんだよ!」
古中 夏輝「これから、やっと結婚して、 孫の顔も見せてやれる・・・って」
古中 夏輝「そう・・・思ってたのに」
髙野 慶太「事故原因は、恐らくはブレーキとアクセルの踏み間違いかと思われます。 壁にぶつかった時のスピードは推定で・・・」
髙野 慶太「時速100キロくらいかと・・・」
髙野 慶太「軽自動車であれば、一瞬で大破します」
髙野 慶太「残念ですが・・・」
〇葬儀場
親父はいつも安全運転だった。
ペダルの踏み間違いなんて・・・。
「夏輝?」
声の方を振り向くと
古中 夏輝「冬美姉さん」
〇黒
古中 冬美
俺の姉だ
性格がものすごくきつく、
俺や両親のことをあまり快く思っていない
〇葬儀場
古中 冬美「アクセルとブレーキの操作ミス・・・」
古中 冬美「即死だったみたいね」
古中 夏輝「はい・・・。 俺も詳しいことはわからないけど、 そうだったみたいです」
古中 冬美「まったく・・・。 いい迷惑だわ。 ここまで来るのに、時間とお金がいくらかかると思ってるのかしら」
古中 夏輝「そんな言い方・・・」
古中 冬美「まあいいわ。 たんまりある保険金は全て私のお金なんだもの。 最期の挨拶くらいはしてやるわよ」
古中 夏輝「ちょっと待って・・・ それどういう意味?」
古中 冬美「あなた日本語がわからないの? あのじじいと、ばばあの金は全部私が頂くって言ってるのよ」
古中 夏輝「なにを言ってるんだよ! そのお金は、こういう日の為にって父さんと、お袋がずっとかけてた保険なんだ」
古中 冬美「・・・・・・・・・」
古中 冬美「だからなに?」
古中 冬美「どっちにしたって、あんたには関係ない金よ」
古中 冬美「だってあんた・・・」
〇黒
”本当の家族じゃないんだから”
〇葬儀場
そう言った瞬間に姉は、少しだけ
はっとした顔をした。
古中 夏輝「それ・・・本当なの?」
古中 冬美「そうよ。 あなたは、私たちの本当の家族じゃない。 赤の他人よ!」
桂井 智則「冬美! その話は、夏輝にはしない約束だぞ!」
古中 冬美「げっ・・・面倒くさい奴がきた。 とにかく、あんたには渡す金なんて一切ないから」
桂井 智則「大丈夫か? 夏輝」
古中 夏輝「智則兄さん・・・」
〇黒
桂井 智則
俺の従兄だ。
冬美姉さんよりも、本当の兄弟のように優しく小さい頃から面倒を見てくれていた。
〇葬儀場
古中 夏輝「大丈夫。 ありがとう」
古中 夏輝「それでさ、今の話は本当なの?」
桂井 智則「・・・ああ。 たしかに、お前は 春雄おじさんと、秋子おばさんの実の子どもじゃない」
桂井 智則「お前は、春雄おじさんの弟の子どもだ」
俺は言葉が出なかった。
古中 夏輝「どうして、今まで誰も教えてくれなかったの?」
桂井 智則「おじさんが、そう決めたからだ」
〇黒
28年前・・・
〇狭い畳部屋
古中 春雄「くそ! なんて火だ!」
古中 春日「兄さん!」
古中 春雄「春日! 大丈夫か? 今、助けてやるから・・・」
古中 春日「いや・・・それがさ、瓦礫で足くじいちゃって・・・」
古中 環「おにいさん・・・この子を」
古中 春雄「赤ちゃん・・・」
古中 環「この子のこと、よろしくお願いします」
古中 春雄「何を言ってるんだ! 二人・・・いや、三人とも助けるんだ」
古中 春日「俺たち助けてたら間に合わないだろ!」
古中 春雄「俺は消防士だ! でも、消防士である前に、お前の兄ちゃんだから・・・ 弟の命見捨てるわけにいかないんだよ」
古中 春日「だったら・・・なおさら、 俺たちの子どもを助けてくれ」
古中 環「おにいさんにも、冬美ちゃんがいる。 だったらわかりますよね」
古中 春日「子どもの命より大事な命なんてないんだよ。 その子は、兄さんの子どもとして、冬美の弟として育ててくれ」
〇葬儀場
古中 夏輝「全然知らなかった・・・」
桂井 智則「知らなくてよかったんだよ。 本来なら。 なのに、あのバカ・・・!」
桂井 智則「夏輝。 これだけはわかってくれ。 おじさんもおばさんも、お前のことを本当の息子のように大事に思っていた」
桂井 智則「だから、消防士も辞めたんだ」
俺はやりきれない気持ちのまま、なんとか葬儀を終えることができた。
〇安アパートの台所
古中 夏輝「これから俺、どうやって生きていけば・・・」
〇安アパートの台所
〇安アパートの台所
気づけば朝になっていた
古中 夏輝「仕事・・・行かないと」
〇オフィスビル前の道
足取りは決して軽くはない。
でも、いつまでも会社を休むわけにもいかない。
〇オフィスの廊下
古中 夏輝「よし。 まずは、船橋に謝りに行かないと」
古中 夏輝「失礼します!」
〇個別オフィス
古中 夏輝「船橋・・・あのさ、」
船橋 律「何しにきた? お前はもう部外者だ」
古中 夏輝「え?」
船橋 律「会社に入れないようにセキュリティを変更していたんだがな。 まあいい」
船橋 律「お前はクビだ」
古中 夏輝「え、なんで・・・」
船橋 律「わからないのか? なら教えてやるよ」
船橋 律「死んだんだよ 俺の親父も お前のくそ親父のせいでな!」
古中 夏輝「まさか、親父とお袋と一緒にいた友だちってて・・・」
船橋 律「俺の親父だよ。 お前の親父が連れ出したせいで、 死んじまったんだよ」
古中 夏輝「船橋・・・」
船橋 律「まだわかんねえのか?」
船橋 律「もう、うんざりなんだよ!」
古中 夏輝「・・・」
船橋 律「勝手にギャンブルで借金作って? 前の会社にバレてクビになって、 昔のよしみで引き込んでやって・・・」
船橋 律「金まで貸して・・・。 お前、どんだけ俺に迷惑かけたら気が済むんだよ!」
古中 夏輝「・・・・・・ごめん。 船橋、お前気持ち全然わかってなくて」
船橋 律「わかったら、さっさと消えてくれ」
船橋 律「そこに50万入ってる。 最後の情けだ。 退職金だと思ってとっておけ」
古中 夏輝「・・・・・・」
〇オフィスビル前の道
親父とお袋が死んで、会社クビになって、友だちまでいなくなった
「古中くん」
古中 夏輝「涼菜!」
そうだ・・・。
俺にはまだ涼菜がいるんだ。
青井 涼菜「どうだった?」
古中 夏輝「どうって・・・なにが?」
青井 涼菜「わかるでしょー? ご両親の遺産よ! いーさーん!」
古中 夏輝「ああ・・・。 それが、姉が全て相続することになってさ」
青井 涼菜「・・・・・・」
青井 涼菜「は?」
古中 夏輝「二人あわせたら数百万はあったと思うんだけど・・・」
青井 涼菜「それを全部お姉さんに、とられたと・・・」
青井 涼菜「で、なんでこんな時間に外にいるの?」
古中 夏輝「会社も色々あって、クビになっちゃったんだ」
古中 夏輝「でも大丈夫! すぐに新しい仕事見つけて・・・」
青井 涼菜「もういいよ」
古中 夏輝「え?」
青井 涼菜「別れよう? 私たち」
古中 夏輝「え、なんで?」
青井 涼菜「遺産もない、仕事もないようなあなたには、何の価値もない」
青井 涼菜「元々、あなたには何の興味もないの」
青井 涼菜「ただ、そこそこの企業に勤めてて、 親が高齢で死にかけで遺産がそれなりにあるっていうから仕方なく一緒にいてあげたのに」
青井 涼菜「じゃなきゃ、あんたみたいな、 気持ち悪いロン毛と付き合うわけないでしょ? バカにしないでよ!」
古中 夏輝「どういうこと? 俺のこと好きだって言ってくれたじゃん」
青井 涼菜「とりあえず。 もう今日限りでさよならだから」
青井 涼菜「今までありがとう。 お金持ってるうちは好きだったよ」
そう言うと、
涼菜は去っていく。
その後ろ姿をただ見つめることしか、
俺にはできなかった。