ホッと、チョコレートを

雨降地固不

バレンタイン特集!(脚本)

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〇女性の部屋
  言葉というパイシートに
  装飾のためだと切込みを入れる
  何度もナイフを突き立てて
  何度も何度も切って、切って、切って
  分厚い1枚に見えるそれは、何百層も重なった薄い薄い集合体で
  折り重なって倒れ込んで
  されるがままに型にハマって
  鮪が無くなり
  鰻は目を潰し
  鯵が四の五の言って
  肉は、
  口を縫う
私「──うん。上出来」
私「簡単に作れてストーンとか面倒なのを使わないタルト教えてください〜なんて・・・」
私「みんな背伸びがしたいのねぇ。 いいわね〜若いわぁ〜」
私「私が中学生や高校生だった頃は・・・どうしてたっけ・・・・・・」
私「特に凝りもせずクッキーを焼いて、クラスメイトや友達に配ったっけなぁ。懐かしいわ。 みんな元気かしら」
私「そうそう、カップケーキにブラックココアを入れたせいで焦げなのか成功なのか分からなくなっちゃった事もあったわ」
私「・・・・・・ふふ。我ながら、変なの」
私「そんな私が、今じゃあ「手軽に楽しめる料理研究家」だものね」
私「人生、何があるか分からないわね。 本当に」
  言葉と菓子は瓜二つ
  魔法なんて無くたって
  アニメのあのキャラクターのような事をしなくたって
  砂糖を入れてしまえば、人間は幸福を錯覚する
  そこに技術なんて無くとも、ただ砂糖さえ手に入れられれば
  それは甘く甘く、溶けていく
私「これでよし」
私「あとはもう、フォロワーちゃん達に刺さるかどうかお祈りするだけね。 無駄に何かしても仕方ない仕方ない」
私「バズりたいとか本を出したいとか、私にはそういうのが無いから・・・なんというか・・・気楽だわ。 いい趣味見つけたわね、私」
私「・・・・・・イヌスタでもちゃんと表示されてるかしら?」
私「絵文字とか顔文字って未だに慣れないのよね〜? もうおばあちゃんなのかしら。私」
  人工甘味料が、私の心へ沁みていく。
  人の手によって作られた人工物の愛は、
  甘さを錯覚させもせず、苦く苦く、焦げ付いて
私([嫁からのバレンタインチョコ。2人の愛みたいに甘いね。甘い物好きの俺、今日は最高])

〇街中の道路
「ありがとう。帰ったら食べるよ」
私「・・・・・・味の感想・・・聞きたいんだけど・・・」
私「ダメ、かな? もしかして甘いもの嫌いだった?だったら持ち帰るけど・・・」
「あ〜。じゃあさ、お詫びにコーヒーでも奢るよ。 ごめんね、甘いの苦手でさ」
私「そっか。ありがと。教えてくれて」
私「・・・・・・ビターなもの作ったら、 明日受け取ってくれる?」
私「だって私、」
私「彼女なんだから」
「いいのにわざわざ。 そういう細かい気遣い出来るとこ、」
「大好きだよ」
  アスパルテーム
「愛してる」
  スクラロース
「最高の彼女だよ」
  ネオテーム
私「うん。私も」

〇女性の部屋
  人工の甘味料が、私を酷く苦しめる
  薄い薄い集合体のそれは
  人工甘味料で煮詰めたグヂュグチュの中身をパンパンに詰め込んで
  恋心という一方的な熱によって焼かれ、焦がされ、
私「お幸せに」
  見知らぬ誰かが食すのです

コメント

  • 調味料とかお菓子のことは詳しくはありませんし、単語の意味もわからないのですが、なんとなく伝わってくるものがありました。お菓子作り…やってみようかなぁ。

  • 人工甘味料と恋愛とを上手く融合させてあり,面白かったです。甘くてほろ苦いような,後味が残る,まさにバレンタインそのもの,そんなストーリーでした。

  • 甘味に例えた感情の言葉遊びが面白かったです!
    たしかに味付けは濃い方が好まれやすくて、市販されてるジュースとかもすごい量の甘味料が入ってるって話を思い出しました。

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