1週間クロス

柿田モネ

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〇マンションの共用廊下
一ノ瀬風雅「僕は渋谷なんか嫌いだ!」
  そう言って、彼は深夜10:00過ぎに、家を飛び出していった。
  彼の名は、一ノ瀬風雅。中3である。

〇明るいリビング
  ──5分前。
一ノ瀬風雅「ただいま!」
お母さん「ねぇ、今何時だと思ってるの?」
一ノ瀬風雅「えっ・・・」
お母さん「何か言うことはない?」
一ノ瀬風雅「いや、別に何時に帰ってこようとよくない?」
お母さん「まだ中学生でしょ? わかってんの? 補導されるよ!」
一ノ瀬風雅「補導なんて知るか! 帰ってきたんだから別に良くない?」
お母さん「よくない。 私たちが住んでるのは渋谷なの。 夜は危ないことくらいわかってるよね? 心配するのはこっちなんだから」
一ノ瀬風雅「そんなこと言われたって、 少しくらいは好きにさせろよ!」
  彼は家を飛び出した。
お母さん「あっ!ねぇ!」
  お母さんの声は、渋谷の雑踏にかき消されてしまった。

〇渋谷のスクランブル交差点
  彼はあてもなく走って、ついにスクランブル交差点まで辿り着いた。
一ノ瀬風雅(なんでだめなんだよ。 夜に帰ってきちゃだめなのかよ。 親に口出しなんかされたくはない)
一ノ瀬風雅(あぁ親ってほんとにうるさい。 うるさい、うるさい。 なんて面倒な生物なんだ)
一ノ瀬風雅「渋谷なんて、渋谷なんて・・・」
一ノ瀬風雅「大っ嫌いだ!」
  彼は走った。スクランブル交差点が青になった瞬間に。
  今の彼にとって、この人混みは、不快だった。
  こんな夜に少年が何んだと、行きゆく人は彼を見ている。
一ノ瀬風雅「あっ」
  彼はスクランブル交差点の中央で、何かにつまづいた。
  その瞬間、全ての音がなくなった。
一ノ瀬風雅「いってぇ」
  なぜか、彼の声だけが響き渡っていた。

〇渋谷のスクランブル交差点
一ノ瀬風雅「えっ」
一ノ瀬風雅「おーーーーい」
  誰に話しかけても。止まっているのだ。
  そう、時間が止まったのだ。
警察官「おい、少年。 こんな時間に何やってるんだ?」
一ノ瀬風雅「えっ」
一ノ瀬風雅(パニックだ。パニックだ。 えっなんでみんな動かないんだ? なんでこの人は動いてるんだ?)
一ノ瀬風雅「えっ」
警察官「だから、何やってるんだ?」
一ノ瀬風雅「えっなんで動けてるんですか? これは、どういうことですか?」
警察官「これはなんだろうね。 僕は見回りをしているだけだよ」
一ノ瀬風雅「・・・」
警察官「ねぇ何があったの?」
一ノ瀬風雅「いや別に」
警察官「・・・」
一ノ瀬風雅「別に、親と喧嘩しただけっすよ」
警察官「そうかそうか」
一ノ瀬風雅(えっなんで笑うの)
警察官「わかるか?少年。 渋谷の怖さを。 まぁ今回だけは許してやる。 今日はとりあえず家に帰れよ」
一ノ瀬風雅「──はい」
  僕が帰ろうと、振り返った瞬間、
  人々は再び動き出した。
  これは夢なのか、とりあえずはそう思って、彼は家に帰って行った。

〇明るいリビング
一ノ瀬風雅「ただいま・・・」
一ノ瀬風雅「あっごめん・・・」
お母さん「・・・」
お母さん「おかえり」
  お母さんは、いつも通りのお母さんに、戻っていた。
一ノ瀬風雅「まぁいっか・・・」
  もう、どれが現実か夢なのか、わからなくなっていた・・・

〇明るいリビング
  次の日の深夜、彼は昨日のことが気になっていた。
  ──ガチャ
  こっそり彼は、家を出た。

〇渋谷のスクランブル交差点
  彼は再び、スクランブル交差点へとやってきた。
一ノ瀬風雅「よし、行くぞ」
  彼は再び、信号が青になった瞬間、走り出した。
一ノ瀬風雅「止まれ!止まれ!」
一ノ瀬風雅「あっ」
  彼はまた、交差点の真ん中で何かにつまづいた。
一ノ瀬風雅「いってぇ」
警察官「おい少年、今日もまた、何やってるんだ」
  その警察官以外、全員が止まっていた
一ノ瀬風雅「わぁ!すごい!すごい! 止まってる!」
警察官「そうだな、今日もそうみたいだな」
一ノ瀬風雅「ねぇなんでこうなるの?」
警察官「今日は帰れ。昨日言っただろ。 2度は許さないよ。 もう夜中に来なかったら、いつか教えてやる」
一ノ瀬風雅(・・・!!)
一ノ瀬風雅「すみません!!!!」
  彼は、走って逃げるように帰って行った。
  今日も、彼が振り向いたとき、再び周りの人々は動き出した。

〇黒
  彼は、やはりあの謎な現象を、教えてもらいたかった。
  もう、明日の夜行くしかない。
  そう思った。
  まだ16歳だというのに。

〇明るいリビング
  次の日の夜、彼は再び、家を出た。

〇渋谷のスクランブル交差点
  彼はまた、ここに来ていた。
一ノ瀬風雅「よし、行くぞ」
  信号が青になった瞬間、また走り出した。
一ノ瀬風雅「えっなんで」
  端まで、渡ってしまった。
一ノ瀬風雅「えっなんで。なんでだよ」
  そのまま彼は、スクランブル交差点を往復した。
一ノ瀬風雅「はぁはぁ」
一ノ瀬風雅「もう無理だ。今日は諦めよう」
  そう思って振り返ったとき、周りの音が何もなくなった。

〇渋谷のスクランブル交差点
一ノ瀬風雅「えっ」
アナウンサー「速報です。ただいま入ってきたニュースです」
  アナウンサーの声とともに、巨大スクリーンには、ニュースが映し出されていた。
アナウンサー「先程、渋谷スクランブル交差点にて、1人の男性が殺害されました。 彼は、警備をしている最中でした」
一ノ瀬風雅「嘘・・・」
  彼は、もうあの警察官には会えないことを察した。
一ノ瀬風雅(俺のせいだ。 あの警察官が殺されたのは、きっと俺のせいだ・・・)
一ノ瀬風雅(もしかして、あの警察官は、俺に夜の外出の危険さを教えてくれていたのだろうか)
一ノ瀬風雅(時間が止まっていたのは、あの警察官が止めていてくれたのだろうか)
一ノ瀬風雅(自分で気づけってことだったのだろうか・・・)
  彼はようやく、自分のしていた過ちに気付いたのだった。
一ノ瀬風雅「ごめんなさい・・・」
  彼がそいつぶやくと、周りの人々は、また、動き出した。
一ノ瀬風雅(なんで時間は止まったのだろうか・・・)
  彼はそう思いながら、歩き出した。
  そしてアナウンサーは、スクリーンの中で
  安心したように、微笑むのだった。

コメント

  • 気になって何度も試してしまうあたりがとても面白かったです。警察官は,時を止めてまで,主人公を守りたかったのですね。警察官の殉職,あっぱれ。

  • 魔法とかそういう類なのかな?
    でも少年が何かに躓くのもトリガーになってるような…。
    渋谷問わず、深夜に子供が出歩くと、悪い妖怪に襲われると私は教わりました!

  • 親と喧嘩して家を飛び出したい気持ちは十分にわかります。殺されたのが警察官だと知った少年は、これから深夜には怖くてでかけないでしょう。

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