孤独のプロモーション

じっけん氏

即席撮影班!(脚本)

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〇ハチ公前
  今日は渋谷PRドラマの撮影日。
  しかし——
三谷伸一郎「役者も、スタッフも、誰も来てない!!」
三谷伸一郎「電話もつながりゃしねえ!!」
三谷伸一郎(やばいぞ、現場調達するしかないのか・・・)

〇モヤイ像
三谷伸一郎「ねえ、ちょっとそこの君!!」
唐沢孝之「え、俺っスか?」
三谷伸一郎「そうそう、君だよ。 いい顔してるね、役者とか興味ない?」
三谷伸一郎「渋谷をPRするドラマを作ってるんだけど・・・」
唐沢孝之「うっひょー、マジかよ。やるやる!!」
三谷伸一郎「いいねぇ、そのやる気!!」

〇黒
  それからなんとかして、役者三名と音響係、
  撮影係を無事に集めることができた。

〇センター街
唐沢孝之「えっと・・・デートの場所は、ドコガイイカナー?」
鈴木ゆずき「こ、こことか、ドウカナー・・・」
ギラルド・ジェーン「チョットマッタアァァ!!」
唐沢孝之「お、お前は誰だー!!」
鈴木ゆずき「ギラルド、どうしてこんなところにー!? 私たちの故郷、オクラホマにいるはずじゃあ・・・」
ギラルド・ジェーン「『ちょっと、野暮用があったものでね』」
  カット、カット!!
三谷伸一郎「ちょっと唐沢くん、あの元気はどこにいったの!?」
唐沢孝之「なんか、いつもみたいに和装をしてないと、調子が出ないっていうか・・・」
三谷伸一郎「鈴木さん、もっと自信を持って演技してよ!!」
鈴木ゆずき(自信がないから、演技も就活もうまくいかないんだ・・・)
三谷伸一郎「それからギラルドくん、 ちゃんと台本通りにしゃべってよ!!」
ギラルド・ジェーン「エ、三谷サン知ラナインデスカ!?」
ギラルド・ジェーン「コレハ、アニメ「死神の慟哭」ノ、チョー有名ナ台詞デスヨ!?」
ギラルド・ジェーン「ウゥ・・・コスプレッ!! コスプレヲ、シタイヨウッ!!」
三谷伸一郎「それから細井さん!! それだと、みんなの足元しか撮れませんよ!?」
細井啓子「もう歳でな・・・それにこんな重たいカメラ、持つのが精一杯じゃて」
三谷伸一郎「えぇ、カメラずっとやってたんじゃないの!?」
細井啓子「毎年、孫の運動会を撮っておるんじゃよ」
三谷伸一郎(カメラやってたって、そういうことだったの!?)
三谷伸一郎「そういえば、音響はどこにいったの・・・ おーい、西村さーん!!」
西村駿太郎「ああん? なんだってェ?」
三谷伸一郎「まだそこにいたの!? もう撮影、始まってますよおー!!」
西村駿太郎「おお、そうかぁ。 すまんな、耳が遠くての」
三谷伸一郎(おいおい、今度は耳が遠い音響かよ・・・)
西村駿太郎「そんな心配そうな顔するな!! 昔、地域ラジオのDJをしとったんじゃからのォ」
三谷伸一郎「ええッ!? 音響のプロじゃないの!?」
西村駿太郎「ありゃ、DJ募集じゃなかったのか!?」
三谷伸一郎「もういい!! 俺が全部指示するから、しっかり従って!!」

〇東急ハンズ渋谷店
三谷伸一郎「カメラ、常に渋谷のランドマークを三つ以上は入れるような角度で!!」

〇渋谷駅前
三谷伸一郎「もっと絶望と羞恥と安らぎの葛藤がにじみ出るように!!」

〇高架下
三谷伸一郎「音響、役者の声を均等に拾って!!」

〇Bunkamura
鈴木ゆずき「あの・・・演技の指示、難しすぎませんか」
細井啓子「カメラへの指示も、さっぱりわからん・・・」
西村駿太郎「ずっと休みなしだし、頭が痛くなってきたわい」
ギラルド・ジェーン「コスプレ・・・シタイ・・・」
唐沢孝之「あの、ちょっと俺、言ってきますよ──」
唐沢孝之「三谷さん!!」
三谷伸一郎「ああ、なんだ!?」
唐沢孝之「なんていうか、マジで押し付けばっかじゃないっスか!? 俺らのこと、まるで考えてないっていうか・・・」
三谷伸一郎「当たり前だろ、こっちはプロなんだぞ!!」
西村駿太郎「まあまあ、ちょっと落ち着こうじゃないか」
西村駿太郎「三谷さん、あんたがすごいのはわかる」
西村駿太郎「でも、独りよがりが過ぎてないかね」
西村駿太郎「今日だって、撮影クルーが急遽必要になっとるが、同じことが原因なんじゃないか!?」
三谷伸一郎「ぐッ・・・」
  図星だった。
  今日だれも現場に来なかったのは、確かに普段の言動が原因だろう──
西村駿太郎「上から指示を出すだけが監督の仕事じゃないじゃろう」
三谷伸一郎「・・・」
三谷伸一郎「たしかに、そのとおりですね」
三谷伸一郎「みんな、すまない。 どうしたらいいか、力を貸してくれ!!」
唐沢孝之「俺、いつもの和装なら、このキャラ演じられる気がするんスよ!!」
鈴木ゆずき「わたしは・・・一度でいいからしてみたい格好があったの!!」
細井啓子「じゃあ、いちばん楽なカメラで撮らせてもらおうかね」
西村駿太郎「わしの選曲も、作品にぜひ反映してほしい!!」
ギラルド・ジェーン「イエス!! レッツ、コスプレダゼッ!!」

〇黒
  そうして、完成した作品は──

〇SHIBUYA109
  渋谷の街を闊歩する、和装の唐沢とギラルド
  そこに、ギラルドの幼馴染だという鈴木が登場
  恋の三角関係が始まるかと思いきや──

〇温泉の湧いた渋谷
  なんとギラルドは死神の末裔だった!!
  唐沢の努力もむなしく、死と生のはざまで苦しむ鈴木
  苦難の末、ついに彼女は肉体を捨てて魂となることを決断し

〇SHIBUYA SKY
  渋谷スカイで、渋谷の街そのものとの結婚を果たす
  鈴木の決断のおかげで、死神から人間へともどったギラルドは
  彼女への感謝とともに、唐沢との永遠の友情を誓うのであった──
  そこに流れてくる、渋谷にまつわる昭和歌謡メドレー
  全編にわたるホームビデオ画質が、どこか哀愁を誘っている──

〇黒
  と、まあメチャクチャな出来で、クライアントは呆れ顔だった。
  しかし発表されると、あまりにぶっとんだ内容が逆に話題になり、
  雑多でいきいきとした感じが、むしろ渋谷っぽいという好評もあった。
  おかげで事なきを得たが、それよりも大事な収穫があった──

〇撮影スタジオのセット
AD(男)「三谷さん、例の撮影のロケ地、もっといい場所を見つけたんですけど・・・」
三谷伸一郎「おお、そっちのほうがよさそうだな。 ほんとうに助かるよ、ありがとう!!」
三谷伸一郎「よし、じゃあ撮影再開するぞ!!」
AD(男)「三谷さん、変わったよな」
AD(女)「うん。なんか、ちゃんと周りの話を聞いてくれるようになったよね」
  はい、それじゃあ本番!!
  アクション──

コメント

  • なんだかこの映画おもしろそうな感じがします。
    見てみたいような!
    でも、大切なことに気づけたのが一番の収穫のような気がします。

  • 人に指示したり、人をまとめたり、多くの人と関わる仕事の難しさとその素晴らしさがとてもよく描写されていて、読んだあと清々しい気分にさせてもらいました。

  • こういう皆の個性が爆発した行き当たりばったりで作った映像も、それはそれで味があっておもしろそうなので、見てみたくなりました。彼は、この経験を通して、人の意見に耳を貸すという謙虚さを身につけましたね。そう思うと人生の中のピンチはやっぱりチャンスなんですね。

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