とある一匹狼の噂話(脚本)
〇黒
語り継がれる程の功績を残した伝説の者、
そして、その者たちを陰ながら
支え続けた者たちが居る──
だがその者たちの戦いが、
後世に語り継がれる事は少ない。
〇街の全景
今回の物語は現実世界と似た別の世界──
通称”別世界”にある福竜市──
〇スポーツクラブ
その福竜市にあるジムの
オーナーである──
〇ボクシングジム
鳥司 舵「ハァァッ・・・!!」
鳥司 舵「こんなもんかな・・・」
この男、鳥司舵の物語である。
陸尾 航「どうやら腕は鈍ってないみたいだな」
鳥司 舵「お前に心配される程、ヤワじゃねぇよ ・・・で、何の用だ?」
陸尾 航「おっと、そうだったな えぇっと・・・簡潔に言うと・・・」
陸尾 航「宮下花奏を少しの間、 引き取ってくれないか?」
鳥司 舵「はぁ・・・?」
陸尾 航「いやぁ、ここ最近色々と物騒な事に 巻き込まれてるからさ・・・? あの子の身に何か起きる前に 安全な所に避難させとこうかと」
陸尾 航「あと、危険な仕事が明日からあるし・・・」
鳥司 舵「嫌だぞ・・・? ここは託児所じゃねぇし、 あと第一にガキは嫌いだ・・・ 何考えてるか読めん」
陸尾 航「まぁまぁ、そう言わずに・・・」
陸尾 航「それに、花奏はしっかりしてるから・・・ 手間はかからんよ、保証する」
鳥司 舵「・・・どれぐらいだ?」
陸尾 航「家事全般は出来る! なんなら俺よりも上手い!」
鳥司 舵「ハナからお前が出来るとは思ってない、 ・・・つってもなぁ その間寝泊まりとかどうすんだ? 自分の家はもう空き部屋ないぞ?」
陸尾 航「まぁ、最悪ここで・・・ 敷き布団とかはなかったらこっちで 『2人分』用意するし・・・」
鳥司 舵「・・・それ、お前の言い方的に 俺もこのジムに泊まる事になるが・・・」
陸尾 航「頼むよ〜、 一生のお願い使うからさ〜・・・」
鳥司 舵「はぁ・・・ ・・・分かったよ、預かるさ」
陸尾 航「・・・!! 本当か!?」
鳥司 舵「だが、手間のかかるガキだったら お前をしばく・・・ ・・・それに」
鳥司 舵「その様子じゃ、俺が要求を飲まなきゃ 帰らない、って感じだしな・・・」
陸尾 航「流石、舵!俺のこと分かってる! そんじゃあ、明日の昼に連れて来るから 託してる間は頼んだぞ!」
鳥司 舵「はぁ・・・」
〇スポーツクラブ
翌日・・・
陸尾 航「じゃあ、花奏を頼むぞ!」
鳥司 舵「・・・あぁ」
宮下 花奏「よ、よろしくお願いします・・・」
鳥司 舵「あぁ、よろしく」
陸尾 航「花奏、仕事が終わり次第迎えに来るから、 それまで待っててくれ・・・ いいか?」
宮下 花奏「はい・・・!」
陸尾 航「それじゃあ、頼んだぞ!舵!」
そう言うと航は去っていった・・・
鳥司 舵「はぁ・・・」
〇ボクシングジム
鳥司 舵「・・・とりあえず、そこら辺の 邪魔にならない所で休んでてくれ 手伝いとかもしなくて良い・・・」
宮下 花奏「は、はい・・・分かりました・・・」
ジムの常連客「鳥司さん! お手合わせをお願いします!」
鳥司 舵「あぁ、分かった・・・ 本気で行くからな・・・」
宮下 花奏「・・・」
ジムの常連客「お願いします!鳥司さん!」
鳥司 舵「・・・よし、来い!」
鳥司 舵「動きが甘い! そんなんじゃ俺は倒せないぞ!」
ジムの常連客「!!・・・しまっ──」
鳥司 舵「はぁッ!」
ジムの常連客が宙へと舞い──
直後、地面に叩きつけられる。
ジムの常連客「ぐぁッッッ・・・」
鳥司 舵「・・・参ったか?」
ジムの常連客「ま、参りました・・・」
鳥司 舵「・・・お前はパワーが強い分、 素早さがない・・・ 素早く動けるようにすれば、 あんたはかなり強くなるだろう・・・」
ジムの常連客「・・・!ありがとうございます!」
宮下 花奏「あ、あの・・・」
鳥司 舵「・・・ん?なんだ?」
宮下 花奏「航さんと防衛局で知り合った、 と聞いていたんですけど、その時って 航さんはどんな感じだったんですか?」
鳥司 舵「防衛局時代のあいつ? ・・・たしか──」
〇荒野
俺があいつと出会った時、
あいつはかなり荒れていた──
あいつが所属していた防衛局第六部隊、
その部隊は防衛局イチ仲が良いと
言われていた──
自分が所属していた部隊の初めての実戦、
帰ってきたのは、心も体も傷付いた
あいつと約20人分の遺体だった──
あとから知ったが、
相手の部隊を全滅させたのは、
怒り狂った航の仕業らしい──
味方は全員、頭か心臓を撃ち抜かれ即死、
相手の部隊は全員撲殺、
たった一人で帰ってきた──
だが、あいつの優しさが裏目に出たのか、
帰ってきてからは、自傷行為を
繰り返していた──
守れるはずの仲間が死んだ、
怒りに任せて相手を殺した、
その罪悪感があいつを苦しめ──
隙あらば、自らの命を絶つ──
そんなところまであいつは
追い詰められていた──
〇黒
ここで俺は1つの疑問を持った──
──なぜ航は、防衛局へと来たのか・・・
──防衛局は素行の悪い学生が送られる
場所であり、
・・・なぜ敵を殺した事を悔いるような
ヤツが送られたのか──
──上官である中田隊長も疑問に
思っていた・・・
〇ボクシングジム
鳥司 舵「そこであいつに、 なぜ送られたのか聞いたら、 『冤罪を被せられた』って言って・・・」
鳥司 舵「そこからはあいつの為に皆が動いた・・・ 何もしてない善人に辛い思いをさせた、 そんな野郎を一発ぶん殴りたいって──」
鳥司 舵「皆があいつのことを考えて・・・ その結果、見事校長の買収された証拠が 出て来て、それを片手に 皆で殴り込んだ・・・」
宮下 花奏「・・・そんな過去が・・・」
鳥司 舵「さて、湿っぽい話はここまで・・・ 昼メシの時間だ、 何か食いたいものでもあるか?」
宮下 花奏「えぇ・・・? え〜っと・・・」
宮下 花奏「・・・コンビニのおにぎりを・・・」
鳥司 舵「・・・もう少し高い物でも良いんだぞ? 俺も別にそんなケチじゃねぇから・・・」
宮下 花奏「そう言われても・・・ 特に思い浮かばないんです・・・」
鳥司 舵「はぁ・・・ そんじゃ、適当に外食にでも行くか?」
宮下 花奏「は、はい・・・」
小田 慎之助「・・・舵さん、どこへ行かれるんですか? ・・・そんな小さい子を連れて・・・」
宮下 花奏「ひっ・・・!?」
鳥司 舵「ん・・・なんだ、四郎か ただ単に外食に行ってくるだけだ、 心配はいらん」
小田 慎之助「なんだ、そうですかい! そいじゃ、後でお手合わせでもお願い しますかね!」
宮下 花奏「あ、あの方って・・・」
鳥司 舵「常連客の慎之助だ、怯えなくて良い・・・ あいつ、格闘の腕前はかなり良いからな、 あいつと手合わせすると新しい発見がある」
宮下 花奏「そ、そうなんですか・・・」
鳥司 舵「・・・とりあえず行くぞ」
宮下 花奏「は、はい!」
「・・・」
〇ファミリーレストランの店内
その後、ファミレスにて・・・
宮下 花奏「わぁぁぁ・・・ 凄い美味しそう・・・」
鳥司 舵「お前はこう言う所に来るのは初めてか?」
宮下 花奏「そう言う訳では無いんですが・・・ 一度だけ航さんたちが連れて行って くれまして、ですがどうやらお金が無い みたいで・・・」
宮下 花奏「こう言う所に来たのは その1回だけです・・・」
鳥司 舵「・・・そうか、なら──」
鳥司 舵「食いたい物を沢山食え、 俺も今日ばかりは、 好きな物を食べたい気分なんだ」
宮下 花奏「ありがとうございます・・・!」
〇繁華な通り
鳥司 舵「いや〜、沢山食ったな〜・・・ 明日からも頑張れそうだ!」
宮下 花奏「・・・はい!」
「・・・ちょっとそこのお兄さん、 止まってくれる・・・?」
鳥司 舵「・・・誰だ!」
亀田 治郎「亀田治郎ってもんだ、 理由あってそのお嬢さんを 返して欲しくてね・・・」
鳥司 舵「・・・悪いが手を出すな、 どこの馬の骨とも分からねぇやつに この子を渡す気は無い・・・」
亀田 治郎「・・・ったく、しょうがないか・・・ 悪いが渡す気が無ぇなら、痛い目を 見てもらうしかなさそうだな・・・」
鳥司 舵「・・・宮下!離れてろ!」
宮下 花奏「・・・はい!」
亀田 治郎「・・・っしゃあ、行くぞ!」
治郎の回し蹴りが空を切る──
鳥司 舵(・・・なっ、素早い回し蹴り・・・ ・・・こいつは久々に──)
鳥司 舵「──本気が出せそうだ・・・」
直後、舵の踵落としもまた空を切る──
亀田 治郎「・・・あんたも、良い体してんな・・・」
治郎の拳が舵の腹部へと当たる──
鳥司 舵(──駄目だ、久々の実戦はキツイな・・・ ・・・勝てるかすら怪しい・・・)
鳥司 舵「はあッ!」
治郎の腹部に舵の蹴りが刺さる──
亀田 治郎「うグッ・・・」
鳥司 舵「喰らいな!」
治郎が空へと舞った直後、
地面へと叩きつけられる──
亀田 治郎「がハァッ・・・・・・」
鳥司 舵「はぁ・・・はぁ・・・ッ! 今のうちに逃げるぞ!宮下!」
宮下 花奏「は、はいっ!」
〇ボクシングジム
その後、ジムにて・・・
鳥司 舵「・・・何とか逃げたが・・・ ヤツらは一体・・・?」
宮下 花奏「あの人は・・・倒したはずじゃ・・・」
根尾 明司「あの・・・大丈夫ですか? 水とかタオルなら持ってきますけど・・・」
鳥司 舵「あぁ、頼む・・・」
鳥司 舵「・・・にしてもどうするか・・・? ここじゃいつかバレる可能性がある・・・」
宮下 花奏「あの・・・鳥司さん・・・」
鳥司 舵「・・・なんだ?」
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