I’M OLD FASHIONED(脚本)
〇ジャズバー
酒
音楽
乾いた心を潤す、神からの贈り物だ
ミツセ「勿論、アタシも──」
刃介「お前さんは違うだろうよ」
ミツセ「そこは同意するところッツ!!」
刃介「酒と音楽が 神の恵みと言うのは同意だね」
刃介「人の世の一つ上」
刃介「天界からの授かりものだ」
ミツセ「アタシは?」
刃介「畜生界からの贈り物だね」
ミツセ「人界から二つ落っこちたぁあッツ!!」
ミツセ「このオジサマ 人間の心を持ってねぇええ!!」
刃介「カタギじゃないからねぇ」
刃介「人より一つ下、修羅道の人間さ」
刃介「そもそも、もう幽霊だしねぇ」
常盤「同丸組はアナタの仇を討つようですね」
ミツセ「女之川(メノカワ)組にカチコミする気か!?」
刃介「敵討ちなんてのはもう古い──」
常盤「この時代、復讐の対価は高くつくものです」
常盤「どうするおつもりで?」
刃介「ワシが死んだ理由を変えてくれ」
刃介「出来るんだろう?」
常盤「その結果、何を望むのです?」
刃介「組のモンが 復讐なんて考えねえように、だ」
ミツセ「アンタは殺されなかった」
ミツセ「寿命で死んだ」
ミツセ「だから、復讐心は生まれない」
ミツセ「それで良いか?」
刃介「結構──」
刃介「寿命で死ねるだなんて 外道には過ぎた結末だけどね」
ミツセ「死因を装飾してやる」
ミツセ「メモリーズ・ジャケット」
ミツセ「これが偽りの記憶だ」
ミツセ「アンタの死を 一番悲しむ人間に飲ませるんだ」
ミツセ「中心にいる人物の記憶を上書きすれば それは他の者にも伝播(でんぱ)する」
ミツセ「誰に飲ませる?」
刃介「きっと、常人(つねひと)だろうねぇ──」
ミツセ「息子か?」
刃介「孫だよ、組の若頭でもあるがね」
刃介「だが心の綺麗な良いヤツだ」
刃介「極道に似合わない奴さ」
ミツセ「へぇ、そんなヤツも居るんだな」
ミツセ「どんなやつなんだ?」
刃介「コイツだ」
ミツセ「似合ってます・オブ・極道!!!!」
〇校長室
常人「オヤジは死んだ」
常人「言葉も残せずな──」
常人「俺の腹は決まってる」
常人「お前らはどうしたい?」
追掛(おいかけ)「そりゃ復讐っすよ、若頭!!」
常人「追掛、銃は持ってるか?」
追掛(おいかけ)「手に入れてきたっす!!」
常人「よし、俺に寄越せ──」
常人「お前らは何も持ってねぇのか?」
追掛(おいかけ)「あいにく手に入ったのは 一丁だけで・・・」
常人「それも俺に預けろ──」
ナノハ「アタイも持ってるっす、若頭!!」
常人「銃殺か、刺殺か、撲殺か──」
常人「相応しい方法であの世に送ってやる」
追掛(おいかけ)「お供しますぜ、若頭!!」
常人「俺が相応しい方法を思いつくまで待機だ」
追掛(おいかけ)「うっす!!」
常人「お前は何してんだ?」
ナノハ「待機してるっす!!」
常人「外で待っててくんねぇかな?」
ナノハ「嫌っす!! アッチの部屋は男ばかりでむさいっす!!」
常人「ハァ、気が抜けるぜ・・・」
ナノハ「気を抜いたほうが良いよ、若頭」
ナノハ「気を張ってばかりじゃ 体にも心にも毒だからね」
常人「オヤジが殺されたんだ」
常人「アイツらの手前、そうは行くかよ──」
〇校長室
一時間前
追掛(おいかけ)「オヤジが、、、」
追掛(おいかけ)「オヤジが殺されたぁあああ」
追掛(おいかけ)「うおおおおおん!!」
追掛(おいかけ)「こうなったら、仇を取ってやるっす!!」
常人「テメェら、待ちやがれ!!」
追掛(おいかけ)「待ってられねぇっすよ!!」
追掛(おいかけ)「野郎ども、行くぞォォおぉ!!」
「待てぇえええい!!」
追掛(おいかけ)「誰だ!!」
ナノハ「親を亡くし、子は泣くし──」
ナノハ「生きる意味を失くした男道──」
ナノハ「待てばきっと そのうち鳴くしホトトギス!!」
追掛(おいかけ)「ここは同丸組だぜ、嬢ちゃん!! 子供のくるところじゃねぇ!!」
ナノハ「あぁ、知っているさ同丸組!!」
ナノハ「アタイ、常盤ナノハが カチコミに来てやったぜい!!」
ナノハ「カチコミュニケーションだい!! てやんでぃ!!」
常人「嬢ちゃん、帰りな──」
常人「こちとら余裕がないんでね」
ナノハ「アタイが刃介オヤジの使いと知っていても 追い返すつもりかい!?」
常人「オヤジの!?」
〇校長室
常人「お前が来てくれて助かった」
常人「じゃなきゃ、誰かが死んでた」
常人「こんなもんまで用意しやがってよ・・・」
ナノハ「どうするんだ、それ?」
常人「捨てて片が付くなら、海に沈めてるさ」
常人「だが、それじゃ終わらねぇ──」
常人「アイツらの親を失った気持ちには ケリがつけられねぇ」
ナノハ「アンタもか?」
常人「こんな生き方をしてるんだ ロクな死に方ができるはずがない」
常人「諦めがついてるさ」
常人「往生なんてできる訳ないってな──」
常人「それは親父もだ──」
ナノハ「そうか・・・」
ナノハ「ところで、極道ってなにを極めたんだ?」
常人「どんなタイミングでの質問だよ・・・」
ナノハ「道を極めて極道と書く」
ナノハ「アンタは何を極めた?」
常人「なにも極めちゃいねぇよ・・・」
常人「極道だとか任侠だとか、そんな古い価値観を持った奴なんてまだ生きてるのかね?」
ナノハ「お前は何を極めた?」
常人「話を聞かねぇな、お前?」
ナノハ「何を極めた?」
ナノハ「強さか、男らしさか?」
常人「極めたのは困難だけだよ・・・」
常人「仇を討っても、親父は喜ばねぇ──」
常人「だが、仇を討たなきゃ 子分どもの気持ちが治まらねぇ」
常人「放っておきゃ 誰かが仇討ちに行ってムショ行きだ」
常人「行くも地獄、戻るも地獄、待っても地獄だ」
常人「進退極まるってやつだ」
ナノハ「どうにかできるとしたら アンタはそれに手を伸ばすかい?」
常人「あぁ、伸ばすだろうね」
ナノハ「分かった」
ナノハ「じいちゃん、こっちは話しがついたよ」
ナノハ「ミツセ姉さんのカクテルを飲んで 万事解決──」
〇繁華街の大通り
〇校長室
常人「危ねぇ!!」
ナノハ「ぬあぁあ!! カチコミュニケーションだああ!!」
常人「嬢ちゃん、大丈夫か?」
ナノハ「何じゃこりゃああああ!!」
ナノハ「どんなコミュニケーションだ ちくしょー!!」
常人「カチコミュニケーションってやつだろ」
ナノハ「カチ・・・コミュニ・・・?」
常人「お前が名付けたんだろうが!!」
常人「なんで初めて聞きましたって リアクションなんだよ!!」
〇ジャズバー
常盤「ナノハ、ケガはありませんか!?」
「無事だよ、でも若頭の頭が・・・」
「いい大人が カチコミュニケーションって・・・」
刃介「すまないが、依頼はキャンセルだ──」
刃介「ワシの死因を変えただけでは 万事解決とはいかないようだからねぇ」
ミツセ「悪いがキャンセルは受け付けない」
刃介「組のモンに血を流せとでも言うのかい?」
ミツセ「血は必要だ」
ミツセ「相応の裁きを受けさせないとな」
ミツセ「私をここから出せ」
常盤「勝算が?」
ミツセ「ここまでこじれたら 誰かは血を流さないと止まらない」
常盤「誰かの血ですか?」
常盤「なるほど、分かりました」
常盤「部屋の封印を解きましょう」
ミツセ「じゃあ行ってくるぜ」
〇繁華街の大通り
カップル男「なぁ、さっきの銃声じゃないか?」
カップル女「ねぇ、ちょと・・・ あの人ケガしてるんじゃない?」
ミツセ「助けてください・・・」
ミツセ「ヤクザの銃が当たったみたいで・・・」
ミツセ「女之川組の仕業に違いねぇ・・・ グフッ・・・」
カップル女「早く救急車を!!」
〇ジャズバー
同丸組を襲撃した際、女性が巻き込まれ重傷を負ったとのことです
組織犯罪対策課は広域指定暴力団
女之川組の家宅捜査に踏み切りました
常盤「その後、救急車に乗り込んだ後で 姿を消したわけですか・・・」
常盤「タクシーなら 怪談でよく聞く話ですが・・・」
刃介「救急隊員には迷惑な話だね」
ミツセ「警察もだな」
ミツセ「なにせ市民が巻き込まれたって話だ」
ミツセ「バッチリ撮られてSNSで広まった」
ミツセ「あぁあああ、加工盛り盛りにお願いするの 忘れてたぁあああー!!」
常盤「それだけ人に影響を与えるのは もう悪霊と変わりませんよ」
ミツセ「悪霊に昇格だぁあああ!!」
ミツセ「あの推しを祟り殺す 免罪符を手に入れたぞ、アタシは!!」
常盤「却下──」
ミツセ「なんでだ、ちくしょー!!」
刃介「推しってのはなんだい?」
常盤「彼女に十股をしていた男性ですよ」
刃介「はは、聖徳太子でもあるまいに」
ミツセ「うおおおぉおお!!吹聴すんじゃねぇ!!」
常盤「いらっしゃいませ」
常人「邪魔するぜ──」
常盤「どうぞ、こちらのお席へ」
常人「あぁ・・・」
常盤「刃介様は安らかに眠られましたか?」
常人「極道のクセに安らかに死んじまって どうするんだか・・・」
常人「カタギの人間に顔向け できねぇだろうがよ・・・」
常盤「カタギも極道も変わりませんよ」
常盤「死は何かを分かつと言えどね」
常盤「ご冥福を祈ります」
ミツセ「祈られてやんの、本人を前にして」
刃介「さすが畜生界の贈り物 人の心が無いねぇ」
ミツセ「もう一つ上に繰り上げしてぇええ!!」
常人「常連だったのか、オヤジは?」
常盤「えぇ、長年の──」
常人「隠れて何をやってたんだか・・・」
常盤「酒と音楽を楽しむ」
常盤「それだけでしたよ」
常人「オヤジは組のことで何か言ってたか?」
刃介「・・・」
常盤「特になにも──」
常人「そうか──」
常盤「ですが、時代ではないと──」
常人「あぁ、古い人間だったからな──」
常人「義理だ人情だとか──」
常人「カタギには手を出すなとか──」
常人「そんなもん掲げたって この時代食えやしないぜ」
常盤「だから同じような者が集まったのですな」
常人「バカな奴等ばかりだ」
常人「だから最後まで面倒みてやらねぇとな」
刃介(面倒ねぇ・・・)
刃介(そういや、あの時確か・・・)
〇葬儀場
常人「父ちゃん、母ちゃん・・・」
刃介「君は家で預かることになった、良いね?」
常人「分かった・・・」
刃介「素直だね、手間が省けて助かる」
刃介「さぁ、最後の挨拶をしておいで・・・」
刃介「死んだ者の為にできることは 何一つないけどね・・・」
常人「・・・」
常人「父ちゃん、母ちゃん・・・」
常人「天国へ行けなくなると困るから 俺はもう泣かない」
常人「だから笑わなきゃな」
常人「俺は爺ちゃんの所で 幸せになってやるから心配すんなよ!!」
刃介(あぁ、確かにね・・・)
刃介(それなら死者の為にできることだ──)
刃介(優しく強い子だ・・・)
常人「ついでに爺ちゃんの面倒も 見るから心配すんな」
〇ジャズバー
刃介「まさか本当に 最後まで面倒を見てもらうとはねぇ・・・」
常盤「刃介様はどんな方でしたか?」
常人「男は黙して語らず」
常人「余計なことは言わない人間だった」
常人「背中を見て育てってスタイルだったよ」
ミツセ「酒でも腐りそうな古い人間だな」
刃介「深みが増すのさ、酒と同じく──」
刃介「でも、もっと語り合えば良かった、ね・・・」
刃介「ワシは人としての生き方を 教えてやれなかった」
常人「だから・・・」
常人「だから、あのオヤジから学べたけどな 生き方ってのを」
常人「道を踏み外した人間じゃあるけども──」
常人「仁義ってのを貫いていた」
刃介「ッ・・・」
ミツセ「古い人間にはピッタリの言葉だな」
常盤「何か飲まれますか?」
ミツセ「アンタも何か飲むか?」
刃介「そうだね・・・」
「ブッシュミルズを──」
常盤「古いウィスキーですな」
常盤「最古の蒸留所の──」
ミツセ「男は黙して語らず──」
ミツセ「なのによく分かってるじゃないか お互い──」
常盤「ブッシュミルズです」
常人「・・・」
常人「死者は笑顔で見送ってこそだ」
常人「後悔なんて残すんじゃねぇぞ」
常人「あばよ、俺の方は心配すんな──」
常人「困難な道を極める──」
常人「結構じゃないか」
常人「この困難な道に──」
「乾杯──」
〇黒