第21話(脚本)
〇明るいリビング
翌日───
昼過ぎ、香穂のスマートフォンが着信音を鳴らした。
香穂「───あれ、凛ちゃんからだ」
香穂「・・・もしもし?」
凛「───あ、もしもし、香穂ちゃん?」
凛「ごめんね、急に電話して・・・ 今って、時間ある?」
香穂「うん、大丈夫だけど・・・どうかしたの?」
凛「ちょっと大事な話があって・・・ できれば、会って話したいんだけど」
香穂「うん、分かった ・・・すぐ行くね──────」
〇見晴らしのいい公園
数十分後───
香穂「───えーっと・・・ この辺りだと思うんだけど・・・」
凛「───香穂ちゃん!」
香穂「・・・あ、凛ちゃん!」
凛「ごめんね、急に呼んだりして・・・ 忙しくなかった?」
香穂「ううん、全然大丈夫だよ」
香穂「それより、凛ちゃんの方こそ大丈夫? ・・・あんまり、顔色が良くないよ?」
凛「ああ、うん・・・ ちょっと昨日、考え事しててさ」
凛「あんまり、寝られなくて・・・」
香穂「そっか・・・ いろんなことがあったもんね・・・」
凛「・・・うん・・・」
凛「・・・立ち話もあれだし、あっちのベンチで話そっか」
香穂「うん、分かった」
香穂「───それで、話ってなに?」
凛「うん・・・あのね・・・」
凛「・・・えっと・・・ なんて、言ったらいいのかな・・・」
凛「・・・・・・・・・・・・」
香穂「・・・? 凛ちゃん、大丈夫・・・?」
凛「・・・・・・・・・・・・・・・」
凛「・・・・・・ねぇ、香穂ちゃん」
凛「・・・・・・怖く、なかった?─────」
凛「──────人を、殺すのって」
香穂「・・・・・・え・・・・・・?」
凛「・・・香穂ちゃん、答えてほしい」
凛「あの3人を、突き落としたのは ────香穂ちゃんなの?」
香穂「・・・ちょっと、急にどうしたの? なんで私が──────」
凛「───昨日、楓ちゃんの家に行ったの」
凛「そこで・・・この写真を見つけた」
凛が取り出したのは、楓が机の上に飾っていた、二人の少女が写っている写真。
凛「・・・楓ちゃんの隣に写ってる子って──」
凛「────香穂ちゃん、だよね?」
香穂「・・・・・・・・・・・・」
凛「おばあちゃんが、教えてくれたの───」
〇古いアパートの部屋
楓の祖母「───ああ、この子かい?」
楓の祖母「この子は楓ちゃんの、双子のお姉ちゃんさ 名前は────」
楓の祖母「───香穂ちゃんって、いうんだけどね」
楓の祖母「小学生の頃に両親が離婚して・・・ あの子たち、離れ離れになったんだよ」
楓の祖母「楓ちゃんが母親に、香穂ちゃんが父親に引き取られたんだ」
楓の祖母「仲が良かったあの子たちにとって、離れるってことは辛かっただろうけど・・・」
楓の祖母「両親のどちらかが二人とも引き取るのは、経済的にも難しいって話になったもんだから」
楓の祖母「父親が香穂ちゃんを連れて引っ越して 親同士はそれから全く会わなくなったけど」
楓の祖母「楓ちゃんと香穂ちゃんは、よく連絡取り合って、一緒に遊んだりしてたみたいよ」
楓の祖母「楓ちゃんが亡くなってから、香穂ちゃんが今、どこでどうしてるのか」
楓の祖母「私には、分からないんだけどね────」
〇見晴らしのいい公園
凛「・・・正直、香穂ちゃんが犯人だっていう証拠は何もない」
凛「でも、香穂ちゃんと楓ちゃんが双子だっていう話が本当なら────」
凛「───動機として、十分だと思うんだ」
香穂「・・・・・・・・・・・・」
凛「・・・だってさ、香穂ちゃん、一度も教えてくれなかったよね?双子だってこと」
凛「それって、やっぱり──────」
香穂「────・・・はぁ・・・」
香穂「・・・ふふっ・・・」
凛「・・・? 香穂ちゃ────」
香穂「───あははっ・・・あははははははッ!!」
凛「・・・ッ・・・!?」
香穂「あーあ・・・バカやっちゃったな・・・ ここまで完璧だったのに・・・」
香穂「双子っていっても二卵性だから、顔がそっくりで気付かれるってことはないと思ったけど」
香穂「もし誰かが楓の家に行ってあの写真を見たら ・・・きっとそこでバレちゃうんだから」
香穂「隠しとけばよかったのに・・・あはは・・・ 自分がバカすぎて笑えてきちゃうよね」
凛「・・・・・・どうして?」
凛「どうして、こんなこと──────」
香穂「言わなきゃ分からない?そんなわけないよね」
香穂「凛ちゃん言ったじゃない、動機は十分だって」
香穂「凛ちゃんの予想してる通りだよ」
香穂「来栖綾香、市村妃奈、一ノ瀬美月 ・・・あの3人のせいで楓が死んだ」
香穂「なのにどうしてあいつらは、責められることなく生きてるの?」
香穂「人ひとりの命を奪っておいて、反省すらしないで、また同じことを繰り返すような人間」
香穂「許してやる必要、ある?」
凛「・・・・・・・・・・・・」
香穂「私に絵を描くきっかけをくれたのも ・・・楓だった」
〇木造の一人部屋
香穂「───・・・楓?なにしてるの?」
楓「あ、香穂!」
楓「あのね、絵を描いてたんだ!」
香穂「絵・・・?」
香穂「・・・わ、すごい・・・! 近所の神社だ・・・上手・・・!」
楓「えへへ、ちょっと上手く描けた気がするの!」
香穂「ちょっとどころじゃないよ、すっごく上手!」
香穂「すごいね、楓・・・ 得意なことがあって・・・」
楓「香穂だって描けるよ! いつも自由帳に絵描いてるの、知ってるし」
香穂「え、知ってたの・・・!?」
香穂「でも・・・ そんなふうに上手く描ける自信ないし・・・」
楓「でもさ、描きたい気持ちはあるんだよね?」
香穂「・・・う、うん・・・」
楓「じゃあさ、二人で一緒にやろうよ!」
香穂「え・・・? 一緒に・・・?」
楓「うん!合作みたいにさ、二人で描こうよ!」
香穂「楓と、合作・・・」
楓「楽しそうでしょ?」
楓「私たちの、二人の思い出にしよ!」
香穂「・・・う、うん・・・!」
〇見晴らしのいい公園
香穂「・・・小さい頃から両親の仲は冷えきってた だから、離婚の話を聞いても驚かなかった」
香穂「でも・・・楓と離れるのは辛かった」
香穂「楓は私とは正反対で・・・ いつも明るくて、天真爛漫で、前向きだった」
香穂「小学生の頃、いじめられていたときも ・・・楓が私の心を救ってくれてた」
凛「・・・・・・」
香穂「引っ越してからも、楓とは連絡を取り合って よく一緒に遊んでた」
〇遊園地の広場
楓「────・・・はー!楽しかったー!」
香穂「あはは、一日歩き回ったら疲れたね」
楓「そーだねー! でもすっごく楽しかった!」
楓「私、香穂と一緒にいる時間が一番楽しい!」
楓「また来ようね!」
香穂「うん!もちろん!──────」
〇公園のベンチ
楓「───・・・私ね、高校は星ノ森学園に進学するんだ!」
楓「女子校行ってみたかったし、美術部の雰囲気もすごく良かったんだよね〜」
香穂「そうなんだ・・・ 私は家から近い公立の共学に行くつもり」
香穂「高校生になったら、お互い忙しくなるよね ・・・会えなくなっちゃうかな」
楓「時間なんていくらでも作る! 私だって香穂に会いたいもん!」
香穂「楓・・・」
楓「だからさ! 高校生になっても、また会おうよ!」
楓「私は、これから先何があっても────」
楓「香穂の妹だし、香穂の一番の味方! それはずーっと変わらないんだから!」
香穂「・・・うん・・・ 私も・・・──────」
〇見晴らしのいい公園
香穂「───そんな話をしてた1年後、楓は死んだ」
香穂「中学を卒業してから、楓には一度も会えないまま・・・私は楓の死に目にも会えなかった」
香穂「ただ『学校の屋上から飛び降りて自殺した』 ・・・それしか分からなかった」
香穂「でも、楓が自殺なんて、信じられなかった ・・・信じたくなかった」
香穂「亡くなってから半年くらい経った頃・・・ 楓の家に行ったら」
香穂「楓が亡くなったときのまま、手を付けてない部屋の中に、あったの」
香穂「楓が書いていた日記が ・・・いじめのこと、全部書いてある日記が」
凛「・・・日記・・・」
香穂「最初は来栖の陰湿な嫌がらせから始まり そこに市村、一ノ瀬が加わるようになって」
香穂「嫌がらせはどんどんエスカレート・・・ 暴力を振るわれたり、万引きをさせられたり」
香穂「楓はどんどん精神的に追い詰められていった」
香穂「日記の文面には・・・楓の苦しみが滲んでた」
香穂「胸が苦しくて・・・ 最後まで読むのが辛かった」
香穂「・・・日記が最後に書かれたのは、楓が自殺する前日の夜」
香穂「『負けたくない』『でもどうすればいいか分からない』『誰を信じたらいいんだろう』」
香穂「・・・そんな言葉の最後に 『香穂に会いたい』って書いてあった」
香穂「すごく悔やんだ なんでもっと早く連絡しなかったのかって」
香穂「楓は私を助けてくれたのに ・・・私は楓を助けられなかった」
凛「・・・その日記、学校や警察に見せたの?」
香穂「・・・お母さんが、とっくに見せてたみたい」
香穂「でも、学校も警察も・・・ 『調査でいじめは認められなかった』って」
香穂「日記の中身を、見てもくれなかった」
香穂「いじめがあったことは明らかなのに、誰もそれを認めてくれない」
香穂「誰も、楓の死に向き合ってくれない ・・・それでお母さんは精神を病んで、入院」
香穂「もうなにも出来ない・・・そう思ってたとき」
香穂「父の転勤が決まって、引っ越すことになった」
香穂「幸か不幸か、転校先の候補に────」
香穂「───楓の通ってた、星ノ森があった」
凛「・・・・・・・・・」
香穂「お父さんは楓が星ノ森に通ってたことを知らないから、本当に偶然だったんだけどね」
香穂「でも・・・チャンスだと思った」
香穂「誰も動いてくれないなら ・・・私が真実を明らかにするしかないって」
香穂「だから私は、転校生として、星ノ森に入った」
凛「・・・じゃあ・・・最初から・・・」
香穂「そう・・・全部、あいつらへの復讐のため」
香穂「できるだけ目立たないように大人しくして ・・・一ノ瀬とも、仲良くするフリをして」
凛「・・・最初から・・・ 殺すつもりで、仲良くなったの・・・?」
香穂「・・・・・・・・・」
香穂「・・・今さらこんなこと言っても、信じられるかどうかは微妙だけど」
香穂「最初はね ・・・殺そうだなんて思ってなかった」
凛「・・・え・・・?」
香穂「あいつらにいじめの事実を認めてほしかった ・・・謝ってほしかった」
香穂「だけど・・・ それだけじゃ許せなくなった」
凛「・・・どうして・・・?」
香穂「・・・楓は、自殺じゃなかった」
香穂「あいつらが────楓を突き落としたの」