第20話(脚本)
〇生徒会室
星ノ森学園───
───会議室
小野「───すみません、今井先生 休日なのに、付き合わせてしまって・・・」
今井「いえ、気にしないでください ・・・私が知りたくてついてきたんですから」
〇広い廊下
数日前───
今井「────小野先生」
小野「・・・はい」
今井「すみません、ちょっと聞きたいことが」
小野「聞きたいこと?・・・なんでしょうか」
今井「最近起きている件についてなんですが───」
今井「───松山楓、という名前をご存知ですか?」
小野「・・・・・・・・・!」
今井「・・・ご存知なんですね」
小野「・・・どうして、今井先生がその名前を」
今井「最近、生徒たちの間で噂が流れているようなんです」
今井「来栖さんたちが亡くなったのは、松山楓の呪いだと」
小野「・・・・・・・・・」
今井「でも、私はその名前に心当たりがなくて」
今井「・・・小野先生なら、何か知っているかもと」
小野「・・・・・・・・・」
今井「何か知っているなら、教えてくれませんか?」
今井「それを知ることで、今回のことも────」
小野「──今週末、久保田先生と話す予定なんです」
今井「・・・え?」
小野「松山楓・・・ 1年半ほど前に自殺した生徒の名前です」
小野「そのときのことを・・・ 久保田先生なら知っているはず」
小野「私も、明らかにしたいんです ・・・あのとき何があったのか」
小野「だから久保田先生に、話す時間を作ってもらいました」
小野「だいぶ無理やりですがね」
今井「・・・そうだったんですか」
今井「あの、もしご迷惑でなかったら・・・ 私もご一緒させてもらえませんか─────」
〇生徒会室
今井「───担任として、知らないといけないような気がして」
今井「ご無理言ってすみません、小野先生」
小野「とんでもないですよ むしろ、知っておいてくれた方が───」
久保田「───すみません、お待たせして」
今井「・・・! 久保田先生・・・」
小野「いえ、こちらこそ・・・休日にすみません」
浅川「・・・・・・・・・」
小野「あ、浅川先生も・・・?」
久保田「・・・聞きたいのは、例のことでしょう」
久保田「だから、当時担任だった浅川先生にも来てもらったんですよ」
浅川「・・・・・・・・・」
小野「・・・そうでしたか わざわざすみません、ありがとうございます」
今井「あの、久保田先生 勝手ながら私も、同席させていただきます」
今井「亡くなった生徒の担任として、話を聞きたいので・・・」
久保田「ええ・・・構いませんよ」
小野「───あのとき、何があったのか もう一度話してくれませんか、久保田先生」
小野「松山さんの自殺後、学校が行った調査・・・」
小野「『松山さんは成績が伸びないことに悩み、自殺した』という結果が伝えられただけで」
小野「調査の詳細については伝えられませんでした」
小野「本当のところは・・・どうだったんですか」
久保田「・・・・・・・・・」
久保田「・・・小野先生の考えている通りですよ」
久保田「松山楓さんはいじめられていた ・・・亡くなる、直前まで」
「・・・・・・・・・」
浅川「・・・・・・・・・」
久保田「・・・調査で明らかになったのは、松山楓さんが日常的にいじめを受けていたことです」
久保田「何人かの生徒が、松山さんが嫌がらせをされているところを目撃していたようで」
久保田「来栖、市村、一ノ瀬・・・ 名前の挙がった3人を呼んで話を聞きました」
久保田「しかし、皆言うことは同じで────」
〇黒
綾香「───いじめなんてやってません」
綾香「私は自分の勉強に集中してただけです 市村さん達ともやり取りしてませんし───」
妃奈「───はぁ!? 私のせいで死んだとでも言うわけ!?」
妃奈「そんなの知らないわよ!! あいつが勝手に飛び降りたんでしょ!!───」
美月「───私は、楓ちゃんとは仲良くしてました」
美月「トラブルになったことはありましたけど、でもきちんと仲直りもして・・・」
美月「亡くなる前日だって、仲良くお話してて ・・・なのに、こんなことになるなんて」
美月「悲しいです・・・──────」
〇生徒会室
久保田「───誰一人、いじめを認めなかった」
久保田「それどころか、学校がいじめを疑っていると分かると、市村のご両親は────」
〇黒
妃奈の父「───うちの妃奈がいじめをしてたとでも 言いたいのか!?」
妃奈の母「亡くなった子は自殺なんでしょう!? どうして妃奈ちゃんのせいにされるの!?」
妃奈の父「これ以上妃奈を疑うというなら、名誉毀損で訴えてやるからな!!──────」
〇生徒会室
久保田「市村さんの父親は議員 ・・・この学校を潰そうと思えば潰せる」
久保田「公表したとしても、いじめによる生徒の自殺があったとなればこの学校の名誉にも関わる」
久保田「だから公表しなかった いじめではなく、個人的な悩みが原因だと」
久保田「真実を・・・伝えなかった」
今井「そんなこと、許されると思ってるんですか!?」
今井「学校の名誉を守るために、一人の死の真実をねじ曲げるなんて・・・」
今井「そんなの、遺族は納得しません・・・!!!!」
小野「・・・私は以前、松山さんから相談を受けて、あの3人に注意をしたことがありました」
小野「おそらく、いじめが始まってすぐの頃です」
小野「3人には、松山さんへの謝罪を促して」
小野「その後のことは浅川先生に引き継ぎ、様子を見てもらうようお願いしました」
浅川「・・・・・・・・・」
小野「・・・今思えば、私の対応も不十分でした」
小野「私が『彼女の様子はどうか』と聞いた時 あなたは『解決したから大丈夫』と言った」
小野「私はその言葉に安心してしまったが・・・」
小野「・・・本当は、大丈夫じゃなかったんですね」
小野「あのときも、いじめは続いていたんですね」
浅川「・・・お、小野先生からその話を聞いたときは、そんなに大事だと思わなくて・・・っ!」
浅川「でも、あの後・・・別の生徒から、松山さんがいじめられていると報告を受けたから」
浅川「できることをやったんです・・・!」
浅川「3人を呼んで、話を聞いて・・・ いじめるつもりじゃなかったって言うから」
浅川「松山さんにも、それを伝えて・・・! 気にしないようにって・・・!」
浅川「仲直りしてねって伝えたんです・・・っ!」
小野「・・・生徒同士で解決できる問題なら、そもそも私だって介入しませんよ」
小野「それが難しいと判断したから、あなたに対応をお願いしたんです」
小野「担任であるあなたの方が、生徒たちのことを分かっていると思ったから」
浅川「・・・・・・ッ・・・・・・!」
久保田「・・・悪いのは、我々だ」
久保田「あのとき、責任逃れをしてしまった 対応を間違えてしまった」
久保田「松山さんや、そのご家族に、真摯に向き合わなかった・・・だからこそ────」
久保田「───今回のようなことを、招いてしまった」
小野「・・・今回3人が亡くなったのは、松山さんのことが絡んでいるとお考えですか」
久保田「警察は、他殺の可能性も視野に入れている ・・・自殺にせよ他殺にせよ」
久保田「松山さんのことに起因することは間違いない ・・・少なくとも私はそう思いますよ」
事務局員「───すみません、小野先生、お電話です」
小野「私ですか?」
事務局員「ええ、3年生の生徒さんからです かなりの急用みたいですけど・・・」
小野「分かりました、今行きます」
小野「・・・すみません、少し出てきます」
今井「───久保田先生」
久保田「なんでしょう」
今井「もし・・・他殺だとして」
今井「犯人は・・・この学園の関係者でしょうか」
久保田「・・・まあ、その可能性の方が高いでしょう」
久保田「考えたくは・・・ないですがね」
今井「・・・・・・・・・」
今井「でも・・・ そうだとしたら、止めないといけません」
今井「これ以上犠牲者が出ないために ・・・犯人がこれ以上罪を重ねないために」
久保田「・・・・・・・・・」
久保田「・・・止める方法があるとすれば────」
久保田「・・・松山さんの事実を、明らかにする そうすれば、もしかすると────」
浅川「で、でも・・・今さら公表なんて・・・ もう1年半前のことですよ・・・?」
浅川「今公表したら、それこそ学校の責任は──」
今井「───そんなこと言ってる場合ですか!?」
今井「4人も亡くなってるんですよ!? 人の命より責任問題が大事なんですか!?」
浅川「今井先生は当事者じゃないからそんなことが言えるんです・・・ッ!!」
浅川「今年からこの学校に転勤してきて、あの時のことなんて何も知らないのに・・・────」
そこへ、電話を終えた小野が戻ってくる。
小野「───皆さん、聞いてください・・・!」
久保田「どうされました?そんなに慌てて」
小野「・・・A組の、鈴原蘭さんからの電話で」
小野「実は──────」
〇住宅地の坂道
その頃────
蘭「・・・・・・・・・」
蘭「・・・小野先生には伝えた きっと他の先生たちにも伝えてくれるはず」
凛「・・・・・・・・・」
凛「・・・ねえ、さっきのおばあちゃんの話が もし本当なんだとしたら・・・」
凛「犯人は・・・やっぱり・・・・・・」
蘭「・・・そうなっちゃうよね」
凛「・・・・・・・・・・・・・・・」
蘭「驚く気持ちは分かるよ ・・・ショック、だよね」
蘭「でもさ、ここまで気付いちゃったならもう」
蘭「・・・解決するしか、ないと思う」
凛「・・・うん・・・」
凛「私・・・みんなに伝える」
蘭「それが正解なのか分からないけど ・・・でも、そうした方がいい気がする」
凛「うん、そうだよね・・・──────」