第19話(脚本)
〇住宅地の坂道
週末───
凛「───・・・えーっと・・・この辺かな?」
凛は手元のメモを見ながら、住宅街を歩いていた。
メモには、とある住所が書かれている。
凛(楓ちゃんが亡くなる直前、1回だけやり取りした年賀状・・・取っておいて良かった)
凛(住所変わっちゃってたらどうしよう・・・)
凛(・・・とにかく行ってみるしかないよね)
〇二階建てアパート
凛「ここ・・・かな?」
凛「・・・・・・」
凛(・・・うぅ・・・緊張してきた・・・)
凛(やっぱり、香穂ちゃんたちを誘えば良かったかなぁ・・・)
凛(・・・でも、なんか・・・ 大勢で押しかけるっていうのもな・・・)
凛「・・・よし・・・ 行ってみ──────」
蘭「────岩崎さん・・・?」
凛「・・・え?」
蘭「あ、やっぱり岩崎さんだ・・・」
凛「え、鈴原さん!?」
凛「え、え・・・ なんでここに・・・!?」
蘭「こっちのセリフだけど・・・」
蘭「・・・もしかして、楓ちゃんの家に?」
凛「あ・・・えっと・・・」
凛「うん・・・そうなんだ」
凛「ごめん・・・鈴原さんが、教室で香穂ちゃんと話してたこと、聞いたんだ」
凛「で、私・・・楓ちゃんのこと、友達だって思ってたけど、なんにも知らなかったなって」
凛「友達なら話してくれるはずとか・・・ 楓ちゃんのこと、分かったつもりになってて」
凛「本当は、楓ちゃんが言わずに我慢してたこと ・・・全然、気付けてなかった」
凛「だから、今からでも、知りたいって思ったの ・・・ここに来れば、知れるかもって」
凛「亡くなる前、楓ちゃんが何を感じてたのか 私たちの知らないところでどう思ってたのか」
凛「私・・・どうしても知りたいんだ」
蘭「・・・そっか・・・」
蘭「・・・じゃあ、一緒に行こ」
凛「・・・え・・・?」
蘭「あたしは、楓ちゃんにお線香あげにきたんだ ・・・考えてることは、岩崎さんと一緒」
蘭「だからさ、二人で・・・ 楓ちゃんと話しに行こうよ」
凛「・・・鈴原さん・・・!」
凛「うん!ありがとう!」
〇古いアパートの部屋
松山家───
楓の祖母「───ごめんねぇ お茶くらいしか用意できないけど・・・」
凛「あ、いえ・・・ こちらこそ、急に来てすみません・・・」
楓の祖母「いやぁ、嬉しいよ 今でもこうして楓ちゃんのことを覚えてて」
楓の祖母「お線香あげに来てくれるお友達がいるなんて ・・・きっと、楓ちゃんも喜んでるよ」
そう言って楓の祖母は微笑む。
視線の先には、楓の仏壇────
楓の遺影があった。
凛「・・・・・・・・・」
蘭「・・・先に、お線香あげてもいい?」
凛「うん、どうぞ」
楓の祖母「───ありがとうねぇ 遠くて大変だったでしょう?」
楓の祖母「今は私しか家にいないものでね・・・ 普段は人なんて滅多に来ないから」
楓の祖母「大したものが出せなくてごめんねぇ」
凛「いえ、全然そんな・・・」
蘭「・・・楓ちゃんは、おばあちゃんと二人暮らしだったんですか?」
楓の祖母「・・・いや 本当はね、母親と、私とで三人暮らしだよ」
楓の祖母「母親はね、あの子が亡くなってから精神を病んじゃって、今も入院してるもんだから」
楓の祖母「今は・・・私だけさ」
凛「そう・・・だったんですか・・・」
蘭「・・・・・・・・・」
楓の祖母「・・・楓ちゃんが亡くなって 何もかもが変わってしまったよ、我が家は」
楓の祖母「いつも太陽みたいに笑ってくれて、家を明るくしてくれた楓ちゃんが・・・」
楓の祖母「・・・もうこの世の、どこにもいない」
楓の祖母「私だって・・・受け止めきれないさ」
楓の祖母「・・・・・・・・・」
凛「・・・私、楓ちゃんと同じ部活だったんです」
凛「クラスは違ったけど、仲良しだって ・・・そう思ってました」
凛「だけど・・・楓ちゃんのこと、何も知らなかったんだって気付いて」
凛「だから・・・楓ちゃんが、本当は何を思ってたのかを、知りたくて来ました」
蘭「・・・あたしも、同じ」
蘭「友達だって言いながら、何も出来なかった ・・・それが悔しいし、辛かったから」
楓の祖母「・・・そうかい・・・」
楓の祖母「ありがとうねぇ・・・ 楓ちゃんは、良いお友達に出会ったと思うよ」
楓の祖母「私じゃ、話せることに限界があるからねぇ もし良かったら────」
〇木造の一人部屋
───楓の部屋
凛「ここが・・・楓ちゃんの部屋・・・」
蘭「・・・・・・」
楓の祖母「・・・未だに、片付けてしまうのが辛くてね」
楓の祖母「あの子が使っていた状態のまま、ほとんど手を付けていないんだよ」
楓の祖母「ここでなら、何か分かるかもしれないから ・・・窮屈でなければゆっくりしていって」
凛「は、はい・・・! ありがとうございます・・・!」
蘭「・・・ありがとうございます」
凛「・・・わ、こっちの本棚、参考書でいっぱい」
凛「すごい、定期テストを全部ファイルにまとめてある・・・」
凛(・・・こんなに勉強頑張ってたんだ・・・)
蘭「あ、これ、楓ちゃんが面白いって言って読んでた漫画・・・」
蘭「あれ、こっちは・・・」
凛「・・・絵の具と筆・・・ それに、描きかけの絵も・・・」
蘭「・・・家でも、描いてたんだね」
凛「・・・うん」
凛「楓ちゃん本当に、絵を描くの好きだったから・・・」
凛「・・・・・・・・・・・・」
蘭「・・・・・・・・・・・・」
そのとき蘭はふと、机の上に写真立てを見つける。
蘭「・・・あれ、この写真・・・」
凛「ん?どうしたの?」
蘭「・・・ここに写ってるの、楓ちゃんかな」
写真には、中学生くらいの楓が、同じく中学生くらいの少女と一緒に写っている。
写真の二人は、とても幸せそうな、穏やかな心からの笑顔を浮かべている────
凛「・・・ねえ、ちょっと待って、この写真──」
凛は写真に顔を近付け、真剣な表情で見た。
蘭「・・・あたしにも見せて」
蘭も同じように、真剣な表情で写真をじっと見つめる。
その後、二人は互いに顔を見合せた。
凛「・・・ねえ、この写真に写ってる子って」
凛「・・・まさか・・・」
蘭「・・・まさか、とは思うけど」
蘭「でも、なんで・・・」
凛「・・・おばあちゃんに聞いてみよう」
凛「何か知ってるかもしれない」
蘭「・・・そうだね」
二人は写真を手に、慌てて楓の祖母のところへ向かった───