ペルソナの微笑

鳳条

第18話(脚本)

ペルソナの微笑

鳳条

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〇教室
  放課後───
  ───3年A組
香穂「・・・・・・・・・」
  誰もいない教室で、香穂は一人日誌を書いていた。
香穂「・・・・・・・・・」
香穂(・・・来栖さん、市村さん・・・ そして・・・美月ちゃん・・・)
香穂(・・・・・・・・・・・・・・・)
蘭「────相澤さん」
香穂「・・・あ、鈴原さん・・・」
蘭「・・・日誌?」
香穂「うん・・・」
蘭「あれ、今日は岩崎さん、一緒じゃないの?」
香穂「・・・凛ちゃん、美月ちゃんのことがかなりショックだったみたいで」
香穂「今は、保健室で休んでる」
蘭「・・・そっか」
蘭「大丈夫かな、岩崎さん・・・」
香穂「・・・・・・」
  暫くの沈黙が流れる。
  日誌を書く香穂の手は止まったままだった。
香穂「・・・ねえ、鈴原さん」
蘭「・・・なに」
香穂「・・・知ってたの?」
香穂「美月ちゃんが・・・亡くなるって」
蘭「・・・・・・・・・」
蘭「・・・正直・・・ 本当に死ぬなんて、思ってなかったよ」
香穂「・・・え・・・?」
蘭「これが噂通り・・・ 本当に楓ちゃんの呪いなんだったら」
蘭「・・・一ノ瀬も、死ぬかもって そう思ったことは、間違いないけどさ」
香穂「・・・どうして?」
蘭「・・・・・・・・・」
香穂「・・・私に、美月ちゃんと一緒にいない方がいいって言ってたよね」
香穂「あれは、どういう意味だったの?」
蘭「・・・・・・・・・」
蘭「・・・あいつは・・・怪物だから」
蘭「あんなに優しい笑顔を見せながら・・・ 平気で人の心を殺す、怪物」
香穂「・・・え・・・?」
蘭「・・・あのね」
蘭「一ノ瀬美月も・・・ 楓ちゃんをいじめていた一人だったんだよ」
香穂「・・・うそ・・・」
香穂「だって・・・ 美月ちゃん、あんなに優しくて・・・」
香穂「いじめをするような子に見えないのに・・・」
蘭「・・・そう思うでしょ きっと、誰もがそうなんだよ」
蘭「だから誰も気付かなかった・・・ 楓ちゃんの心が、あいつに殺されたことに」
香穂「・・・どういうこと?」
蘭「きっと最初は、一ノ瀬も・・・ 楓ちゃんをいじめるつもりなんてなかった」
蘭「だって最初は仲が良かったんだよ 二人揃って、学年のアイドルみたいでさ」
蘭「でも・・・ クラスの、後期の学級委員を決めるときに」
蘭「クラスのみんなからの推薦で、楓ちゃんが選ばれた」
蘭「前期の学級委員だった一ノ瀬は、後期も自分が学級委員をやるつもりだったんだと思う」
蘭「でも一ノ瀬を推す声より、楓ちゃんを推す声の方が多かった」
蘭「多分、一ノ瀬は・・・ それが悔しかったんだと思う」
香穂「・・・そんな、ことで・・・?」
蘭「そう、あたしらからすれば『そんなこと』」
蘭「だけど一ノ瀬にとっては、許せないことだったんだろうね」
蘭「『誰にでも優しくて、美人で、真面目でしっかり者の優等生』の座を────」
蘭「楓ちゃんに取られたって、思ったのかな」
蘭「それから一ノ瀬は・・・ 皆から見えないところで、いじめを始めた」
蘭「クラスメイトからも、先生からも、見えないように、バレないように」
蘭「表向きは仲良くしながら、笑顔で『良い子ちゃん』を演じながら」
蘭「裏では、来栖や市村と組んで・・・ 楓ちゃんを追い詰めていった」
蘭「なんなら、来栖や市村に助言までして 徹底的にバレないようにいじめていった」
香穂「・・・そんな・・・」
香穂「なんで、鈴原さんはそれを知ってるの?」
蘭「・・・・・・」
蘭「・・・楓ちゃんから、聞いたから」
香穂「・・・え・・・?」
蘭「・・・あたしさ、友達作るの下手で」
蘭「入学しても、うまく馴染めなくて クラスでも孤立しちゃっててさ」
蘭「そんなときに声かけてくれたのが ・・・楓ちゃんだった」
香穂「・・・・・・」

〇教室
楓「───ねえ、名前なんていうの?」
楓「私、松山楓! 良かったら、一緒にお昼ご飯食べない?──」

〇教室
蘭「・・・楓ちゃんが、初めての友達だった」
蘭「やっぱり教室に行くのには、まだ二の足を踏んでたけど・・・」
蘭「それでも、楓ちゃんがいるから、学校には行こうって思えた」
蘭「だけど・・・そんな楓ちゃんが、なんとなく元気がなくなってきて」
蘭「どうしたんだろうって思って、話を聞いた」
蘭「最初は頑なに話してくれなくてさ それでも、何度か聞いてみたら────」

〇学校の屋上
楓「───誰にも言わないって約束してくれる?」
楓「実は────」
蘭「・・・うそでしょ・・・」
蘭「それ、先生に言ったほうが・・・」
楓「・・・一度は、小野先生に相談したよ」
楓「数学で分からないところを聞きに行ったときに、最近表情が暗いって言われて」
楓「何かあったのかって聞かれたから・・・ 全部話したの」
楓「小野先生、3人を呼んで注意してくれた ・・・だけど、それが逆に怒らせたみたいで」

〇黒
綾香「───へー、先生に言いつけたんだ?」
妃奈「あんたが余計なことしたせいで、小野に説教くらったんだけど?」
妃奈「マジでムカつくんだけど!」
美月「・・・いいじゃない、そんなに怒らなくても」
美月「もう二度と、先生に言おうなんて思わなくなるくらい────」
美月「さらに苦しめてあげればいいだけでしょ?」
美月「ね?楓ちゃん────────」

〇学校の屋上
楓「それから嫌がらせ、ひどくなったの 正直、これ以上ひどくなったら・・・」
蘭「でも・・・!」
蘭「・・・・・・・・・ ・・・じゃあ、あたしが代わりに言うよ」
楓「・・・え・・・?」
蘭「楓ちゃん、何も悪くないんだからさ 胸張っててよ、あたしがなんとかする」
蘭「それでさ・・・ 悩んだときは、ちゃんと相談してよ」
蘭「友達が困ってたら助けたいよ きっとそう思ってるの、あたしだけじゃない」
蘭「美術部とかにも、友達いるでしょ? ・・・その子たちも力になってくれるよ」
楓「・・・うん・・・ありがとう」
楓「でもさ・・・ 凛ちゃんたちのこと、巻き込みたくないんだ」
楓「だから、なるべく・・・ 何も言わないでおきたいの」
蘭「・・・楓ちゃん・・・」
楓「蘭ちゃんのことも・・・巻き込んでごめんね」
蘭「・・・・・・・・・・・・」

〇教室
香穂「・・・それって、結局どうなったの?」
蘭「あたしは相談したよ 当時担任だった、浅川に」
香穂「浅川先生・・・担任だったんだ」
蘭「浅川は、話は聞いてくれたけど・・・」
蘭「正直、相談しなきゃ良かったって思ってる」
蘭「あいつのせいで、楓ちゃんは・・・ さらに追い詰められたんだから」
香穂「・・・え・・・?」
蘭「あたしの話を聞いて、浅川は自分が話をするから大丈夫って言った」
蘭「でも、浅川が楓ちゃんに言ったのは───」

〇教室
浅川「───松山さん、来栖さん達とトラブルになってたんですって?」
浅川「3人に話を聞いたけど・・・」
浅川「いじめてるつもりはなかったんですって」
浅川「おふざけのつもりでやったことが、あなたを苦しめてしまったって・・・」
浅川「一ノ瀬さんは泣いていたわ」
浅川「受け取り方の問題、ということもあるから あまり重く受け止めすぎないでね」
浅川「あとで、3人が謝罪したいと言っていたわ きちんと仲直りしてね────」

〇教室
香穂「・・・・・・・・・・・・」
香穂「・・・そんなのって・・・」
蘭「・・・そう、あんまりだよね」
蘭「楓ちゃんの訴えなんて聞いてもらえず ただの『ケンカ』として片付けられて」
蘭「『仲直りしろ』なんて言われて、あとは放ったらかし・・・」
蘭「もちろん3人から謝罪なんてあるわけなくて ・・・それから一週間後だったよ」
蘭「楓ちゃんは死んだ ・・・屋上から、飛び降りて」
香穂「・・・・・・・・・・・・」
蘭「学校の調査でいじめは確認されなかった ・・・そんなの嘘だよ」
蘭「揉み消したの、大人たちが 大事にしたくなくて、責任問われたくなくて」
蘭「学校の先生たちや、議員である市村の親 ・・・みんなで、真相を握りつぶした」
蘭「調査での”いじめがあった”っていうあたしたちの証言は、なかったことにされたんだよ」
蘭「あの3人、そして浅川は責任を問われず ・・・懲りもせずに同じことを繰り返して」
蘭「・・・だから、死んだんだよ」
蘭「楓ちゃんが・・・呪い殺したんだよ」
香穂「・・・そんなの・・・」
香穂「・・・そんなの、悔しいよ・・・」
蘭「・・・・・・・・・」
蘭「悔しいけど・・・でも」
蘭「あたしは、何もできない ・・・あのときも、今も」
蘭「こうやって、何もできないでいる自分が ・・・ある意味、一番許せないよ」
蘭「・・・楓ちゃん・・・」
蘭「・・・・・・いっそあたしを、呪い殺してくれたら良かったのにな」

〇広い廊下
  教室での香穂と蘭の会話を聞きながら───
凛「・・・・・・・・・・・・・・・」
  凛は廊下で、立ち尽くしていた────。

〇学校の昇降口
  その後───
結衣「────あ、凛ちゃん・・・」
凛「・・・結衣ちゃん・・・」
葵「・・・あ、結衣 ここにいたんだ」
結衣「葵ちゃん・・・」
葵「教室にいないから、もう帰ったのかと──」
香穂「───あ、凛ちゃん!」
凛「香穂ちゃん・・・」
香穂「保健室に行ったら、もう帰ったって言われて どこ行っちゃったのかと思って────」
香穂「・・・あ、結衣ちゃんと金子さんも・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
  4人はしばらく、互いの顔を見つめ合い沈黙していた。
  それぞれが、何かを言いかけようとしてやめているようだった。
葵「───あのさ」
葵「今日、三浦さんから話を聞いたんだ ・・・みんなに、共有してもいい?」
結衣「三浦さん、から・・・?」
凛「・・・私は、聞きたい・・・」
香穂「あ、それなら・・・」
香穂「私も、鈴原さんから聞いた話を・・・ 共有しておきたいかも」
  4人は情報交換をする。
  松山楓がいじめられていたという事実。
  それに関わっていた3人、そして────
  学校の対応、楓の本心。
  皆が黙って、真剣な、どこか悲しそうな顔でお互いの話を聞いていた。
葵「───ここまで聞いて、どう思う?」
葵「あの3人は、本当に自殺か、それとも──」
凛「───他殺か、ってことだよね」
「・・・・・・・・・・・・」
葵「・・・私はやっぱり、誰かが呪いに見せかけて殺したんじゃないかと思う」
葵「松山さんへのいじめの事実を知ってて あの3人に怒りを感じていた・・・誰かが」
葵「・・・まあ、誰がやったかなんて見当もつかないけど」
凛「・・・でもさ、誰の仕業だったとしても どんな理由があったとしても」
結衣「・・・止めなくちゃ、いけないよね」
香穂「・・・うん・・・ これ以上・・・誰かが死ぬのは・・・」
葵「・・・相澤さんと岩崎さん 連絡先、交換しておいてもいいかな」
葵「何かあったら、連絡取り合えるように」
凛「うん、分かった」
香穂「いいよ」
葵「あまり危険なことはできないし、いざとなったら大人に頼るしかないだろうけど」
葵「私は、これを止めたい ・・・だから、できることをやろうと思う」
結衣「・・・私も・・・止めたい」
香穂「うん・・・私も」
香穂「何かあったら、すぐ連絡取り合おう」
凛「・・・うん、そうだね」
凛「絶対止めよう・・・ 復讐からは、何も生まれないもん・・・」

次のエピソード:第19話

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