第5話(脚本)
〇教室
翌日───
───3年A組
香穂(───次の授業は・・・英語か)
香穂(今日はテストが返却される日かな・・・?)
香穂がそんなことを考えていると
授業開始のチャイムと共に、英語教諭の久保田が教室に入って来る。
久保田「・・・号令」
生徒「起立────」
〇教室
久保田「───今日はテストを返却する 名前を呼ばれた人から取りに来るように」
久保田「じゃあ呼ぶぞ、青木────」
久保田は淡々とテストを返却していく。
テストの点数を見て話している生徒たちの声で、教室も少し賑やかになる。
凛「・・・やばー・・・全然ダメ」
凛「思ったよりボロボロだったかも・・・ あーあ・・・」
香穂「元気出して・・・」
久保田「───来栖」
綾香「・・・はい」
久保田「来栖、よく頑張ったな」
久保田「98点・・・学年の最高点だ」
久保田「お前なら百点取れるんじゃないか? 次も頑張りなさい」
綾香「・・・はい、ありがとうございます」
「・・・・・・・・・」
凛「・・・昨日の結衣ちゃんの話聞いちゃうとさ、なんか複雑っていうか、微妙だよね」
香穂「・・・うん・・・」
久保田「───鈴原」
久保田「・・・ん? 鈴原?・・・鈴原蘭!」
生徒「先生、今鈴原さんいません」
久保田「・・・また欠席か、あいつは」
久保田「やる気のないやつだな ・・・次、園部────」
〇教室
授業後───
凛「・・・はぁ・・・」
美月「・・・凛ちゃん、どうしたの? そんなに落ち込んで・・・」
香穂「英語の点数が思ったより低くて、ショックだったみたい・・・」
美月「な、なるほどね・・・」
凛「頑張ったからいいやって思ってたけど、こんなに低いと成績に響きそうで心配・・・」
凛「まあもう今更だし、自業自得なんだけどね ・・・赤点じゃないだけいいか・・・」
美月「ち、ちなみに・・・何点だったの?」
凛「・・・先に美月ちゃんの点数を聞きたいです・・・」
美月「あ、えーっと・・・ 95点・・・」
凛「95かぁ・・・」
凛「そこから60点引いてください・・・」
(35点だったんだ・・・)
〇広い廊下
昼休み───
綾香「────あ、小野先生」
小野「ん?・・・ああ、来栖か」
綾香「先生、A組の数学のテスト、返却は明日の授業ですか?」
小野「ああ、そのつもりだ」
綾香「分かりました、楽しみです」
綾香「でも先生、今回のテスト、もしかして難易度を少し下げましたか?」
小野「・・・いや、いつも通り作ったつもりだが」
綾香「本当ですか? 今回は簡単すぎてつまらなかったですよ」
小野「・・・そうか、よく勉強したんだな」
綾香「当然です 今回も学年1位を取るつもりですよ」
綾香「前回は調子が悪くて2位になりましたけど ・・・同じようにはならないので」
小野「・・・学年1位、か」
小野「・・・来栖 それだけに執着する必要はないと思うぞ」
小野「それにこだわりすぎて、もしお前が───」
綾香「────いいんです、私はこれで」
綾香「別に周りに迷惑なんてかけてません ・・・これが私の唯一の楽しみなんです」
小野「・・・・・・」
綾香「・・・次のテストも、難易度下げずに難しく作ってくださいね」
綾香「それじゃあ、失礼します」
小野「・・・・・・」
小野「・・・はぁ・・・」
〇黒
???「───あの、小野先生」
???「ちょっと、相談があって────」
〇黒
小野「───どんな理由があっても、人を攻撃したらいけないんだ、分かるか?」
小野「もうこんなことはするなよ────」
〇広い廊下
小野「・・・・・・」
〇教室
放課後───
───3年A組
凛「よーし、香穂ちゃん!部活行こっか!」
香穂「うん、行こう」
香穂「・・・あ!」
凛「ん?どうかした?」
香穂「今、結衣ちゃんが廊下を通った気がする」
凛「え、ほんと?」
〇広い廊下
凛「───結衣ちゃーん!」
結衣「・・・あ、凛ちゃん、香穂ちゃん」
香穂「どこに行くの?」
結衣「ちょっと、職員室に・・・」
結衣「今日、授業出られなかったから・・・ 答案用紙、受け取りに・・・」
凛「そうなんだ~ 今日は部活どうする?」
結衣「うん・・・職員室から戻ってきたら、行こうかなって思ってる・・・」
凛「おっけー! じゃあ香穂ちゃんと待ってるね!」
香穂「またあとでね、結衣ちゃん」
結衣「・・・うん、またあとで」
香穂「・・・そういえば、さっき結衣ちゃんと一緒にいたのって」
香穂「食堂で、市村さんって人と話してた・・・」
凛「そうそう、金子さん B組の子で、バスケ部の部長なんだよ」
凛「結構クールな子で、誰にでも物怖じせずになんでも言えちゃうっていうか・・・」
凛「市村さんとのやり取りを見てても思うけど、強いなぁって感じ」
凛「たしか・・・ 結衣ちゃんの幼馴染って聞いた気がする」
凛「結衣ちゃんとよく一緒にいるし、毎日結衣ちゃんの家に授業ノート届けてるみたい」
香穂「そうなんだ・・・優しいんだね」
〇散らかった職員室
───職員室
結衣「───失礼します 3年B組の佐藤結衣です」
葵「・・・金子葵です」
結衣「・・・久保田先生、いらっしゃいますか」
久保田「・・・・・・はい」
結衣「・・・あ、あの・・・ 答案用紙を、受け取りに・・・」
久保田「ああ、そういえばそうだったな」
久保田「・・・ん?金子はどうして来た?」
葵「・・・すみません、付き添いです」
久保田「・・・そうか、まあいい ほら、今日返却された分だ」
結衣「あ、ありがとうございます・・・」
久保田「・・・英語に関して言うと、今回はかなり出来が悪かったぞ、佐藤」
久保田「しっかり復習しなさい、いいな」
結衣「あ・・・は、はい・・・」
久保田「・・・で、お前はいつになったら学校に来れるんだ?」
久保田「いつまでも授業に出席しないわけにいかないだろう、そろそろどうにかしないと」
結衣「・・・あ・・・えっ・・・と・・・」
結衣「・・・す、すみませ────」
葵「───あの、久保田先生」
葵「結衣が学校に来られないのには、理由があるんです」
久保田「・・・なに?」
結衣「あ、葵ちゃん・・・!」
葵「結衣の気持ちも分かるけど・・・ やっぱり言った方がいいと思うんだ」
葵「このままじゃ、何も解決しない」
結衣「・・・・・・」
久保田「なんだ、言ってみなさい」
葵「結衣は、ずっと嫌がらせを受けてるんです」
葵「机やロッカーを荒らされたり、教科書をボロボロにされたり・・・脅迫されたり」
葵「それで、学校に来たくても来られない状態なんです」
久保田「・・・嫌がらせねぇ・・・」
久保田「そんなことでいちいち学校に行けないなんて言っていたら、社会に出てから困るぞ」
久保田「少しは跳ね返せる強さを身につけなさい」
葵「・・・ッ! 結衣は本気で悩んでるんです!」
葵「相手の嫌がらせもしつこいし陰湿だし、先生に介入してほしくて────」
久保田「そうやっていつまでも大人に頼っていたら、一人で何もできない人間になるぞ」
久保田「自分たちで解決しなさい、いいな」
結衣「・・・・・・・・・・・・」
葵「真面目に話聞いてください!」
久保田「真面目に聞いたうえで言っているとも」
久保田「そんなに言うなら、お前が解決してあげなさい、金子」
葵「先生────」
結衣「────もう、いいよ、葵ちゃん」
葵「結衣・・・」
結衣「先生、すみませんでした・・・」
結衣「・・・失礼、します」
葵「・・・・・・」
葵「・・・失礼します」
〇広い廊下
結衣「・・・・・・」
葵「・・・結衣・・・」
結衣「・・・ごめんね、葵ちゃん・・・ せっかく・・・言ってくれたのに」
葵「・・・結衣が謝る必要ないよ」
結衣「・・・っ・・・」
葵「・・・・・・」
葵「・・・先生なんて、もう頼りにしない」
葵「来栖は、私が絶対に許さないから」
葵「・・・結衣のことは、私が守る」
結衣「・・・ごめんね・・・葵ちゃん・・・」