朗読劇「雪に埋もれた地」(2500字程度)(脚本)
〇児童養護施設
ナレーション「あるところに、家族を失った女がおりました。 共に生き残った兄はとうに家を出ており」
ナレーション「女は小さな村で夫と二人暮らしをしておりました。これは愛し合う男女と」
ナレーション「戻ってきた兄夫婦が織り成す物語」
〇暖炉のある小屋
旦那「兄夫婦が引越してくる!? 聞いてないぞ?」
奥さん「あら、言ってなかったかしら? ごめんなさいね」
旦那「お前の兄さんってほら・・・ すごい俺のこと嫌ってるだろ?」
旦那「あまり関わりたくな──」
奥さん「あら、さっそく。 はーい!」
旦那「・・・・・・」
若嫁(兄の嫁)「こんにちは、お久しぶりです」
奥さん「あら、若嫁さんじゃないの。 兄さんはどうしたの」
若嫁(兄の嫁)「旦那は家にいて、後から来るそうです。 先に私だけでもと思い、挨拶にきました」
若嫁(兄の嫁)「これからよろしくお願いします」
奥さん「・・・」
奥さん「町に人が増えて嬉しいわね。 歳の近い人が来てくれて助かるわぁ」
奥さん「これからよろしくね」
若嫁(兄の嫁)「・・・はい」
旦那「・・・・・・」
〇暖炉のある小屋
旦那「なんで今さら引っ越してくるんだ。 呪いに怯えて逃げ出したくせに」
旦那「あぁ、でも本当に呪いがあるから あんな結末になったんだ」
旦那「・・・もう終わったことだ。 俺はもうアイツとここで──」
兄(奥さんの兄、若嫁の夫)「よォ、妹が世話になってますねぇ」
旦那「お兄さん!? ノ、ノックくらい鳴らしてくださいよ」
兄(奥さんの兄、若嫁の夫)「ここは元々オレの家だ。 家に入るのはオレの勝手だろう」
旦那「・・・どの面下げて帰ってきたんですか?」
兄(奥さんの兄、若嫁の夫)「ああん? なんのことだ?」
旦那「とぼけないで下さいよ! あの日、アンタの両親が俺にどんな話を──」
奥さん「・・・あら、お兄さん来てたの?」
兄(奥さんの兄、若嫁の夫)「よっ! 久しぶりだなぁ、ずいぶん老けたな!」
奥さん「あら、それは兄さんもよ? 誰だって歳をとるものなんだから」
兄(奥さんの兄、若嫁の夫)「ふん、これからは嫁共々よろしくな。 お互い子はいないし気楽なもんだ」
旦那「まったく君とは似てないな」
奥さん「そうかしら?」
奥さん「目元なんてよく似ていると思うけど」
旦那「君は本当に明るいな」
〇怪しげな山小屋
若嫁(兄の嫁)「あなた、そろそろ冬支度をしないと。 このままだと雪が降り出して 冬を越せなくなるわ」
兄(奥さんの兄、若嫁の夫)「イノシシも鹿もいねぇのにどうやって冬支度をしろと? 引っ越してきたばかりなんだからもらえばいいさ」
若嫁(兄の嫁)「これ以上、 あの人たちにご迷惑をかけられないわ。 私たちがここにいるだけで不快なはず・・・」
兄(奥さんの兄、若嫁の夫)「黙れっ!! そもそもお前が悪いんだろう!? あんな粗相をしなければこんなことに──」
兄(奥さんの兄、若嫁の夫)「誰だっ!?」
若い村人「す、すみません。 扉が開いてたものですから」
兄(奥さんの兄、若嫁の夫)「く、クソッ!!」
若い村人「と、隣の者です。 引っ越してきた方がいると聞いて・・・」
若い村人「ご、ごめんなさい。 また出直すことにしますね」
〇暖炉のある小屋
旦那「い、いらっしゃい。 今日は何用で?」
村人B(中年)「お引っ越しされてきた夫婦、 あなた方の親族なんですってね?」
旦那「えぇ、まぁ・・・」
村人B(中年)「知らなかったわ。 あなたの奥さんは天涯孤独だと思っていたから、あなたと結婚したとき安心したというのに」
村人B(中年)「やっぱり呪いは本当にあったのかしら?」
旦那「・・・」
「呪いってなんだい?」
旦那「あ、いや・・・」
村人B(中年)「あなたのお兄さんがよく騒いでるそうよ。 酒場の店主から聞いてね」
奥さん「兄さんはそんな世迷言を言っているの?」
村人B(中年)「昔とずいぶん性格が変わったのね」
奥さん「まったく・・・。 せっかく奇特なお嫁さんがいるというのに心配かけて、不貞な兄だこと」
村人B(中年)「・・・子どももいませんしね」
奥さん「あら、うちだっていないわよ」
奥さん「子どもはいないけど、私はこの人といられて幸せだよ」
旦那「・・・今日の夕飯、鹿肉のシチューだったな」
奥さん「あぁ、そうだ。 ここに来たなら若嫁さんも 動物を捌けるようにならないとねぇ」
村人B(中年)「奥さんは本当に逞しいですね。 村一番の頼れる女性ですよ」
村人B(中年)「ではまた」
奥さん「私ってそんなにムキムキかしら?」
旦那「そういう意味じゃないと思うよ」
奥さん「・・・」
邪魔ばかりね
〇けもの道
旦那「最近、めっきりと動物が減ったなぁ。 冬が近いからか?」
旦那「ん? なんの音だ?」
旦那「な、何をしてるんだ!?」
若嫁(兄の嫁)「・・・あ」
旦那「・・・君がやったのか?」
若嫁(兄の嫁)「ご、ごめんなさいごめんなさい」
旦那「・・・ここは俺がなんとかしよう。 あなたは家に避難しなさい」
若嫁(兄の嫁)「でも」
旦那「大丈夫。 俺は捌くのには慣れているんだ」
若嫁(兄の嫁)「・・・」
旦那「やれやれ、なんて皮肉な結末なんだ」
〇暖炉のある小屋
奥さん「それ、兄さんに命令されて?」
若嫁(兄の嫁)「・・・はい」
奥さん「そんなのっ──・・・ あなたにやらせるなんて酷なことを」
若嫁(兄の嫁)「ごめんなさい。 本当にごめんなさい」
兄(奥さんの兄、若嫁の夫)「・・・・・・」
奥さん「兄さん、なんてことをしたの。 そんな状態で何故ここに引っ越して」
兄(奥さんの兄、若嫁の夫)「へっ・・・呪いだよ。 この家のもんはなぁ、 そういう呪いにかかっちまってるんだ」
兄(奥さんの兄、若嫁の夫)「お前が一番よくわかってるだろう?」
奥さん「何なの? いったい何を言っているの?」
若嫁(兄の嫁)「あぁ、もうイヤ。 私耐えられない」
奥さん「あなたたちは──」
奥さん「あなた!?」
旦那「・・・村を出よう。 これ以上、この二人に関わるべきではない」
奥さん「どういうこと?」
村人B(中年)「やっと正体を見せたわね、暗殺者」
奥さん「暗殺・・・者?」
村人B(中年)「この男はあなたの両親を殺害しています。 生き残ったお兄様は 長年、遠縁の地にいたようですが」
村人B(中年)「なぜ、今さら帰ってきたのでしょうね?」
奥さん「あなたがお父さんとお母さんを? あれは事故死だと・・・」
奥さん「私も兄さんも幼かったから、 バラバラに暮らすことになって」
旦那「・・・すまない」
村人B(中年)「改めまして、私は警察です。 この村近辺の不審死が多いことから 正体を隠し、赴任してきました」
村人B(中年)「さて、兄夫婦にお話を聞きたいのですが・・・」
若嫁(兄の嫁)「ごめんなさいごめんなさい」
旦那「俺が出頭しよう。 この兄嫁さんは脅されていただけだ」
村人B(中年)「犯行が明らかなのはあなただけ。 ですがお兄さんも罪状も明るみに出るでしょう」
村人B(中年)「若嫁さん、あなたは共犯者。 逃れることは出来ませんよ?」
若嫁(兄の嫁)「ヒイッ──!?」
奥さん「・・・夫はなぜ、私の両親を?」
村人B(中年)「あなたを殺すよう雇われた暗殺者です」
奥さん「嘘でしょう? あんた、私と何年一緒だったと思って」
旦那「・・・そう、何年も共にいた。 情が湧かないはずがねぇ」
旦那「出会ったときに殺していれば良かった。 そうすればこんなことには・・・」
あぁ、またか
奥さん「大丈夫だよ、あんた。 だって私は生きているじゃないか」
奥さん「二人で、ゆっくりと滅んでいく。 この雪村にはピッタリの終止符じゃないかい」
旦那「お前?」
村人B(中年)「えっ?」
奥さん「な、なんて恐ろしいことを!」
若嫁(兄の嫁)「・・・すみませんでした。 呪いなんて、なかったんです」
奥さん「──っ・・・」
残ったのは私と夫
奥さん「・・・あんたは私を殺そうとしてたんだね」
旦那「はじめはそうだ。 だが、殺せなかった。お前と夫婦となり、 当たり前の世界に生きられることが嬉しかった」
奥さん「あなた。冬はこれからですよ。 雪は全てをのみこんでしまう」
旦那「・・・あぁ」
「ここは、俺たちが墓場まで持っていこう。 ゆっくりと、雪に埋もれるこの村で」
「・・・えぇ、あなた」