読切(脚本)
〇地下鉄のホーム
ガタンゴトン、ガタンゴトン・・・
お母さん
もうすぐ渋谷着くから銀座線の前で待ってるね
シブヤ〜シブヤ〜
〇空港のエスカレーター
蜂谷一八「ハァハァ・・・」
〇空港のエスカレーター
蜂谷一八「ハァハァ・・・」
〇空港のエスカレーター
カタッ!
〇空港のエスカレーター
ヤヨ「アッ!️」
〇空港のエスカレーター
何か落とした!
ササッ・・・拾って・・・定期入れかな?
渡さないと!
〇空港のエスカレーター
ヤヨ「ハァハァ・・・」
〇広い改札
ハァハァ・・・早いなぁ、いるかな?あの子・・・
〇広い改札
あ・・・定期入れがない・・・キョロキョロ・・・ガサゴソ・・・ない・・・どこかで落とした?
〇広い改札
ヤヨ「あっ!いた!」
〇広い改札
キョロキョロ・・・困った、これじゃ母さんに・・・ん?あのお姉さん、こっち見てる・・・何だろ
〇広い改札
ヤヨ「ねぇ僕!この定期入れ落としてない?エスカレーターで?」
蜂谷一八「えっ?あっ!それ僕のです!」
〇広い改札
蜂谷一八「本当にありがとうございます! でも僕、ハチを・・・いま急いでて ありがとうございました!」
ヤヨ「ううん、間に合ってよかったよ 気をつけてね!」
ハァ・・・元気な子だなぁ
〇渋谷ヒカリエ
お母さんまだか・・・
母はこの近くの会社で街を元気にする仕事をしていて
〇川に架かる橋
長く地下に隠れていた川が陽の目を見れるようになるお手伝いをしたり、
〇住宅街の公園
寂しそうな公園を
〇テラス席
にぎやかな公園にするにはと考えたり、街をあちこちへと忙しい。
〇スペイン坂
そんな母とこの街を歩いていると、ここにはこんなお店があったとか
〇東急百貨店
ここは変わらなくていいなとか
〇東急ハンズ渋谷店
話はとまらない。
〇神社の本殿
もちろんこの街には、遺跡も由緒ある場所もずっと親しまれて来た場所もいっぱいある。
〇センター街
でも、やっぱり今を楽しもうとする人がいつもこの街を元気にしてきた。
〇渋谷の雑踏
だからこの街に来たら楽しい思い出を持ち帰ってほしい。
私にもそんな思い出がいっぱいあるから。
そう母はよく言っている。
〇渋谷ヒカリエ
ヤヨちゃん
ごめん、いま外出中でちょっと遅れる
会社寄らないからハチ公前で待っててもらえる?
お父さんへのプレゼント考えながら、ゆっくり待ってる。
ありがとう
パパ今日遅いからご飯食べて帰ろう
じゃね!
ハチ公前に行こう
〇渋谷スクランブルスクエア
プレゼント何がいいかな?
うーん
〇高架下
うーん
〇渋谷駅前
うーん
〇ハチ公前
今日も人多いなぁ
ああいう帽子は?
うーん
〇ハチ公前
蜂谷仁八「はっ、もっと左か、それっ」
蜂谷マミ「お父さん、そろそろよ」
あのおじいちゃん何してるのかな
何かの指人形を着けて動かしてるけど
蜂谷仁八「おっ、もう4時28分か」
蜂谷マミ「さぁ準備に行きましょ」
〇ハチ公前
カズヤ、ミツヤ、もうすぐ4時28分だ
スタンバイ完了か?
カズヤ スタンバイ完了だよ
おじいちゃんもがんばって!
ミツヤ こちらもスタンバイ完了
カズヤも父さんも健闘を祈る
ただし十分に気をつけて!
ヨシッ!持ち場に移ろう!
〇ハチ公前
あっ行っちゃった
4時28分がどうとか言ってたけど・・・
あと2分だ
〇時計
チクタク・・・チクタク・・・
26分
チクタク・・・チクタク・・・
27分
チクタク
あっ!さっきのおじいちゃんがこっちに向かって走って来る!
ん?青になった交差点からも誰か走って来る?
ひとりはスーツの人
もうひとりは、男の子かな?
えっ?あの子もしかして・・・
〇渋谷のスクランブル交差点
蜂谷光矢「ハァハァ・・・」
蜂谷一八「ハァハァ・・・」
〇ハチ公前
蜂谷仁八「ヨシッ!カズヤ、ミツヤ早く!」
蜂谷光矢「ハァハァ・・・父さん!カズヤ早く!」
蜂谷一八「ハァハァ・・・まだ27分だ!」
蜂谷一八「じゃあ、行くよ!」
蜂谷一八「せーの、スクランブルッエイトッ!」
〇ハチ公前
ハチ公の前に集まった3人が手を空に向けている。
みんな指に指人形のような物を着けている。
全部で8体かな・・・
黄色と黒の虫のような・・・あれは、蜂、
かな
ブーンブーンの蜂だ
と思ったら、
おじいちゃんの指から蜂が落ちて
わたしの前に転がって来た。
蜂谷仁八「あひ、指がつった!イタッ!」
蜂谷一八「あっ、おじいちゃん!」
蜂谷一八「えっ、さっきのお姉さん?」
蜂谷一八「すいません! それ、その蜂拾って指に着けてハチ公の前で動かして下さい!」
ヤヨ「えっ! これ着けるの?」
〇ハチ公前
蜂谷光矢「じゃもう一度、スクランブルエイトだ!」
蜂谷一八「スクランブルエイト!」
ヤヨ「ん?ス、スクランブルエイト!」
4月28日午後4時28分、8匹の蜂がハチ公像の前で蜂谷家3名+1名によって掲げられた。
〇ハチ公前
蜂谷仁八「ヨシッ!いい画が撮れたぞ」
蜂谷仁八「母さん、動画はどう、が?」
蜂谷マミ「ばっちりよ!カズヤもよろこぶはずよ 早く編集してミコさんにもね」
〇ハチ公前
蜂谷一八「お姉さん、ありがとう!」
ヤヨ「いいけど、何だったのこれ?」
蜂谷光矢「息子のカズヤが先程はお世話になってすみません 実は今日はこの子の誕生日で・・・」
蜂谷光矢「わが家の名字が蜂谷なのですが、 この子が一八でカズヤ、私が光矢でミツヤ、父が仁八でニハチとハチに縁がありまして・・・」
蜂谷光矢「今年は思い出に残る誕生日にしたいとカズヤが一生懸命考えて、4月28日の4時28分に交差点から走ってハチ公前で蜂をブーンと」
蜂谷一八「病院にいるママを元気にしたくて・・・」
蜂谷一八「みんな僕を手伝ってくれて さっきはパパに指人形渡すために慌てて、駅でお姉さんにも迷惑かけちゃって」
ヤヨ「それであんなに急いで」
蜂谷一八「うん」
ヤヨ「迷惑なんかじゃないよ!楽しかったし お誕生日おめでとう!」
〇渋谷の雑踏
いろんな人の思い出がこの街のあちこちで生まれて残る。
お父さんの誕生日、渋谷今昔巡りなんかどうかな
・・・あっ!お母さんだ!
ヤヨちゃん
遅くなってごめんね!
〇病室
あ、カズ君から
ふふっ、ハチ公でハチか
パパもお父さんもお母さんも
まったく
カズ君
お誕生日おめでとう
みんな、ありがとう
元気に帰るから待っててね
素敵な家族に心が温まってきました。
プレゼントを考える時間も楽しいですが、みんなで心を合わせてお母さんのためにやってる…ってことがまず温かくなりますよね。
話の中に家族の温かさがぎゅっと詰まっていて優しい気持ちになりました。写真のアイデアもとっても好きです。こういうその時限定の思い出に残る瞬間を贈られるのは、より一層嬉しいですね。
最後がとてもこころ温まる作品でした。