エピソード1(脚本)
〇SHIBUYA SKY
これが渋谷。
アナタとの一年は、一生忘れない。
〇SHIBUYA SKY
一つ年上のアナタは
とにかくキザで、やさしい人だった。
名前は、澁谷カケル。
〇街中の道路
2021年2月27日(土)
出会いは学校からの帰り道。
タクシーに轢かれる所を助けてくれた。
背の高いカケルの声は頭上から聞こえた。
「危なかったね」
宮益アオイ「ちょっと誰!いきなり抱きつかないで!」
澁谷カケル「車に轢かれそうだったから──」
宮益アオイ「抱きつきたいから嘘言ってるだけでしょ!」
宮益アオイ「この変態!」
澁谷カケル「いや本当だって──」
宮益アオイ「痛っーい!!」
抱きつかれた時に、足を捻ったみたい。
〇コンビニ
タクシー運転手「すいません。大丈夫でしたか?」
澁谷カケル「危ねぇじゃねぇか!」
宮益アオイ「ちょっと足を捻っただけです」
タクシー運転手「近くの病院で診てもらいましょう」
宮益アオイ「大したこと無いです」
タクシー運転手「私が悪いんで、治療費も払いますから」
タクシー運転手「乗ってください。彼氏さんも、さぁ!」
澁谷カケル「俺も?」
私たちは病院に向かった。
〇病院の待合室
お大事にー。
タクシー運転手「これ本当に少ないですけど、」
タクシー運転手「お二人で何か召しあがってください」
何かを握らされた。
お金だ。
宮益アオイ「病院代も出してもらったのに──」
返そうとすると、手から取り上げられた。
澁谷カケル「悪いっすね。じゃあ遠慮なく」
〇渋谷駅前
タクシー運転手は私たちを渋谷駅に送り、
仕事に戻って行った。
澁谷カケル「さあ、どこ行こっか?」
宮益アオイ「本気で言ってる?」
澁谷カケル「そりゃ本気だよ」
澁谷カケル「イケメンな俺が変態扱いされたのに、」
澁谷カケル「まだ謝ってもらってないからね」
宮益アオイ「確かに変態って言ったけど」
イケメンって、自分で言うか・・・
澁谷カケル「一緒に食事したら、」
澁谷カケル「変態扱いしたこと許してあげるよ」
宮益アオイ「そんなのずるい」
変態扱いしたことは、確かに悪いけど。
仕方ないか。
宮益アオイ「・・・少しなら」
澁谷カケル「じゃあ、決まりってことで」
澁谷カケル「俺は澁谷カケル、君は?」
宮益アオイ「私は宮益アオイ」
〇ホテルのレストラン
連れられるまま、レストランに入った。
宮益アオイ「ここ高いんじゃないの?」
澁谷カケル「さっきの一万円あるじゃん」
宮益アオイ「でも二人分は足りないでしょ」
澁谷カケル「そりゃ確かに無理だね」
澁谷カケル「俺の分は自分で出すから、大丈夫」
宮益アオイ「いいの?」
澁谷カケル「いいんだ、俺はアオイさんと食事できれば」
宮益アオイ「何それ」
澁谷カケル「やっと笑った」
私は興味をもった。
全盲の私と、食事したいというカケルに。
カケルの話を聞くのが楽しかった。
その楽しい時間は、あっという間だった。
〇ホテルのレストラン
澁谷カケル「この後、行きたい所あるんだけど」
宮益アオイ「何?どこ」
澁谷カケル「内緒」
宮益アオイ「変な所に連れてったら承知しないわよ」
宮益アオイ「この白杖で殴ってやるから!」
澁谷カケル「だから、俺は変態じゃないって」
〇宇宙空間
宮益アオイ「ここどこ?」
澁谷カケル「渋谷の空」
澁谷カケル「渋谷スカイ」
最近できたビルの上か
澁谷カケル「俺、この場所が大好きなんだ」
澁谷カケル「俺と同じ、イケメンの渋谷を見下ろせるし」
澁谷カケル「東京が一望できる」
澁谷カケル「そして、この手が届きそうな空」
澁谷カケル「見せてあげたいなぁ、アオイさんに」
私はカケルが伝えてくれるイメージを、
風と一緒に感じていた。
〇ハチ公前
高校卒業後、私たちはつき合い始めた
デートは必ず、カケルの好きな渋谷だった。
澁谷カケル「さぁ行こう!」
〇住宅地の坂道
春 さくら坂
澁谷カケル「今日はジャズを聴きに行くよ」
宮益アオイ「ジャズなんて初めて」
〇ジャズバー
美味しい料理の出るジャズバーだった。
宮益アオイ「綺麗な声」
宮益アオイ「きっと美しい人が、歌ってるのね」
澁谷カケル「そうだね」
〇道玄坂
夏 道玄坂
初めての時もキザだった
〇店の入口
澁谷カケル「新しい喫茶店ができてる」
澁谷カケル「モーニングもあるって」
宮益アオイ「美味しそう?」
澁谷カケル「美味しいかどうか、」
澁谷カケル「明日の朝、確認しないか?」
宮益アオイ「・・・うん」
〇宮益坂
秋 宮益坂
誕生日も祝ってくれた。
澁谷カケル「おめでとう」
宮益アオイ「何これ?」
澁谷カケル「二人をつなぐ物」
宮益アオイ「マフラーね」
宮益アオイ「一緒にしてみる?」
〇スペイン坂
冬 スペイン坂
イブも一緒に過ごした。
宮益アオイ「冷たっ」
顔に何か触れた
宮益アオイ「何?」
澁谷カケル「サンタの涙かな」
涙って
宮益アオイ「何でサンタが泣くのよ」
澁谷カケル「俺らが幸せそうだから」
〇ハチ公前
2022年2月27日(日)
つき合って一年の、記念デート。
時間に正確なカケルが、
待合せ場所に来なかった。
その時、電話が鳴った。
嫌な予感がした。
「警察です。宮益さんですか?」
カケルがトラックに撥ねられ、
意識不明の重体だという。
すぐに病院に向かった。
〇病室の前
病院につくと女性警官に案内された。
女性警官「こちらの手術室の前でお待ち下さい」
手術室の扉が開く音がした。
医者「残念ですが、渋谷さんは、」
医者「先ほど息を引き取りました」
頭が真っ白になった。
〇手術室
カケルの元に案内された。
手を伸ばしてカケルを探した。
宮益アオイ「カケル?」
返事はない。
宮益アオイ「ねぇカケル?」
伸ばした手に、冷たい皮膚が触れた。
手。
身体を触る。
心臓の音を聞こうとすると
首元のネクタイに触れた。
何でネクタイしてるの?
顔に手をやる。
卵型の輪郭。
薄く張りのある唇
高い鼻
長いまつ毛
何回も触った、カケルの顔だった。
宮益アオイ「カケル」
宮益アオイ「ねぇ起きて」
宮益アオイ「ねぇ」
宮益アオイ「起きて!」
宮益アオイ「お願い・・・」
私は女性警官に、肩を抱かれるまで
カケルのそばにいた。
〇病院の廊下
女性警官「彼が持っていたバッグです」
いつもの肩掛けポーチ。
四つ折りの紙と、小さな箱。
それとカードが入っていた。
宮益アオイ「何のカードですか?」
女性警官「献眼登録カードね」
女性警官「備考欄に手書きで」
女性警官「アオイへって書いてあるわ」
キザすぎるよ、カケル。
宮益アオイ「この紙は?」
女性警官「婚約届ね。澁谷カケルって記入されてる」
どうして・・・
この小さな箱の意味がわかった。
指輪の内側を指でなぞる。
点字が施してあった。
A&K 2022.2.27
女性警官「それとこれ」
いい香りがした。
〇渋谷駅前
2023年2月27日(月)
手術をした私は渋谷を見にきた
初めてスクランブル交差点を見た。
この雑踏の中を、私の手を引いていたんだね
〇SHIBUYA SKY
アナタの好きだった
このイケメンな渋谷。
一緒に見たかった。
でも・・・これからは
アナタの言っていた
イケメンの渋谷を
ずっと一緒に見ていられる
アナタのひとみで
読んでいて心がぎゅーっとなりました…。
この作品の中に入り込んでいたと読み終わって気付きました。
キザというより、ロマンチストなんですね。
でも大切な時はしっかりしてるあたり、好きな人の前では強がるタイプなのかなぁって、少し思ったりもしました。
物語を読んで涙が溢れ泣きました。何が素晴らしいかと言いますと、彼氏が彼女のために献眼の意思を持っていた事です。一生彼女の眼の代わりを覚悟してたんですね。
悲しいお話に思えました。
最後にカケルさんの角膜を移植して、戻った視力で渋谷を見て回るアオイさんの気持ちを考えると涙が出てきます。
素晴らしい作品だと思います。