聖職者たる使命(脚本)
〇メイド喫茶
・・・・・・
なんなの?
・・・小森さんよね?
小森「はぁ・・・はぁ・・・、」
今日の文化祭、
うちのクラスは
『喫茶店』だったはず
なぜなの?
なぜ──
小森「くっ、おのれ・・・」
魔法少女がいるの?
小森「なんという事だ・・・!!」
小森「暴走する魔力を抑えきれぬ・・・!!」
なんて?
小森「我とした事が・・・なんたる失態・・・!!」
小森「このままでは 闇の力に侵食(しんしょく)される・・・!!」
なに言ってるの?
小森「狂乱の宴(うたげ)に集(つど)いし 亡者(もうじゃ)の瘴気(しょうき)に──」
小森「我に眠る、継承(けいしょう)の魂が 共鳴(きょうめい)したという事か・・・!!」
小森「闇の深淵(しんえん)に近づき過ぎた 代償(だいしょう)というワケか・・・!!」
小森「くくくっ・・・」
小森「フハハハァ~~ッ!!!!」
小森「おのれェ!! 我は決して屈しはせぬぞォ!!!!」
どうしたらいいの?
「こ、小森さぁん、」
あれは、委員ちょ──
小森「聖母(マリア)か・・・!」
田辺「田辺です」
小森「聖母(マリア)よ 手を貸してくれまいか・・・!!」
小森「暴走する魔力を抑えきれず 冥界の門を閉じられないのだ」
田辺「ファスナーが閉まらないの?」
田辺「だから先週言ったじゃん~ 試食しすぎだってぇ~・・・」
小森「くくくっ・・・」
小森「我が秘めし、 遺伝子(ポテンシャル)ゆえの悲劇・・・」
小森「深淵を覗く者は、自らもまた 深淵の底より観測されているのさ・・・」
田辺「ちゃんと運動しないとダメだよ 小森さん、インドアなんだから・・・」
体脂肪の話してる?
田辺「これ無理だよぉ~・・・」
田辺「だから自前の衣装は ダメって言ったのにぃ~・・・」
小森「その装束(しょうぞく)は 『商人』専用・・・」
小森「『聖魔導騎士(パラディン)』たる 我の力を引き出すには困難なのだ・・・!!」
田辺「引き出し過ぎて いまハァハァ言ってるんでしょ?」
楽しみだったのね、文化祭
田辺「もう開店時間になっちゃうよぉ」
小森「くっ、仕方あるまい・・・」
小森「炎魔神(イーフリート)の 縛鎖縄(ばくさじょう)を装着する!!」
田辺「なにそれ」
小森「くくくっ・・・!!」
小森「このタイ──拘束具を中に着る事で、」
タイツって言ったわ
小森「全身で暴走している魔力に 指向性(しこうせい)を付与し、」
小森「その源(みなもと)たる心臓──」
小森「つまり胸部へと集中させ 開口部を解放(パージ)すれば、」
小森「一時的に空間の認知を 歪めることが可能となるだろう・・・!!」
田辺「寄せて上げるタイプの“アレ”って事?」
それ全身でやって大丈夫?
小森「だが、この魔導具は 身体にかかる負担が尋常ではない・・・」
小森「いまの我でも もって3時間が限界であろう・・・」
田辺「え、なに・・・やめてよ? 救急車とか・・・」
小森「いや・・・それはない ただ──」
小森「一時的に塞(せ)き止められた魔力は、」
小森「時間と共に元へ戻ろうと 強力な逆流(キックバック)を起こす」
小森「限界を超えた瞬間 あらゆる装備と共に、我の全身は──」
小森「爆散するだろう」
後夜祭で全裸は
若気の至りが過ぎるわ
小森さん
田辺「リスクが高すぎるよ」
小森「いいんだ、聖母(マリア)」
田辺「田辺です」
小森「この使命を全う出来ぬなら 死するも同じこと──」
小森「装着するッ!! 手を貸してくれ、聖母(マリア)!!!!」
小森「はぁぁぁあああああ~~ッ!!!!!!」
燃え盛る火炎に宿りし
業魔(ごうま)の主(あるじ)よ──
我が肉体を贄(にえ)とし、
冥界より呼び声に応えよ──
小森「いまだッ!! はぁぁああ────ッ!!!!!!」
小森「聖・燃焼系波動 ────ッ!!!! (セント・バーナード────ッ!!!!)」
田辺「私どうしたらいいか分からないよ小森さん」
私も欲しいわ、あの魔導具
小森「宴(うたげ)の狼煙(のろし)が 上がったようだな・・・!」
田辺「リボンでは誤魔化せないくらい 胸元バインバインだよ・・・?」
小森「くくくっ・・・! 問題はない・・・!!」
小森「聖典(せいてん)に描かれし 伝説の騎士たちも大体これくらいだ!!」
田辺「それは少年誌の悪い所だよ」
止めるべきかしら・・・
申請用紙には『喫茶店』としか・・・
うちのクラスの
認知が歪み出してるわ・・・
万が一、教頭にでも見つかったら──
なぁなぁ~
2ーB、メイド喫茶らしいぜ~!
小森「さぁ、すぐに亡者(もうじゃ)の 軍勢が攻め込んでくるぞ・・・!!」
田辺「やっぱり恥ずかしいなぁ メイドの格好・・・」
小森「弱気になるなッ!!!!」
小森「共に師匠(マスター)へ誓っただろう!!」
小森「この聖戦(ラグナロク)に勝利すると!!」
田辺「小森さん・・・」
小森「案ずるな・・・!! この聖魔導騎士(パラディン)がいる!!」
小森「必ずや成功させよう!! この文化祭(ラグナロク)を!!」
田辺「・・・うん!!」
なるほど・・・
ようやく理解したわ
恥ずかしがりの田辺さんは
メイド服での接客に反対していた
だから小森さん──
あえてそれを上回る
ヤバい衣装で
勇気づけようとしたのね
小森「さぁ、開戦だぁーッ!!!!」
なんて責任感あふれる
美しい友情なのかしら・・・
やはり生徒の自主性を尊重し
教師はただ見守る事に
徹するべきだわ
小森「なにかあったら呼んでくれ!!!!」
・・・パラディン
担当、バックヤードなの?
田辺「よぉし・・・がんばろ!」
田辺「おかえりなさいませ~ ご主じ──」
ベクトルの違うヤツきた・・・
溝口「・・・まるで、葬式みたいな店だぜ」
お前のせいなんだがな
演劇部の溝口
溝口「ウォッカを」
ねぇわ
田辺「ごめんなさい・・・ アルコールはありません・・・」
あったらブッ飛ばしてるわ
溝口「はは・・・そうかい」
溝口「・・・今日はアイツの命日だってのにな」
溝口「俺が天国(そっち)に行くまで 乾杯も出来ないらしい・・・」
溝口「まったく笑えないジョークだぜ・・・ そうだろう?」
溝口「ジェーン・ドゥ」
田辺「田辺ですぅ・・・」
すごい・・・
シンプルにウザいわ・・・
溝口「なにか軽食を頼むよ」
溝口「まだ死ぬには早いらしい」
溝口「俺には──」
溝口「それがお似合いだ」
もう田辺さんが限界よ
面倒臭さと
鬱陶しさで
心が崩壊しかけている
田辺「か、かしこまりました・・・」
ほらもうダッシュで
バックヤードへ
溝口「懐かしいな・・・」
溝口「お前と出会ったのも こんなバーだった・・・」
ずっと1人で
なんか言ってる・・・
すでに飲酒しているの・・・?
つまみ出したいわね
でも明らかな
迷惑行為をしている
ワケでは・・・
どうすれば・・・
小森「現れたな・・・『巡礼者』よ!!」
パラディン来ちゃった・・・
小森「貴様の纏う(まとう)瘴気(しょうき) 姿を偽(いつわ)っても無駄だ・・・!!」
小森「福音(ふくいん)に選ばれし 聖母(マリア)が近付けないのがその証拠!」
限界だったんだ
やっぱり限界だったんだわ
溝口「この店はドラッグも取引しているのかい?」
小森「これでも喰らうがいい!!」
溝口「・・・これは?」
小森「くくくっ・・・ 料理名は──」
小森「撃墜王の孤独(エイシス・ハイ)!!」
溝口「なるほど・・・」
溝口「・・・つまり?」
小森「煮込みドーナッツさッ!!」
イカれてるの?
溝口「この街には 保安官がいないのかい?」
小森「”秩序”とは、己(おの)が 魂の在り様(ありよう)でしかない!!」
溝口「誰か助けてくれ──ッ!!」
勝てる・・・!!
パラディンなら勝てるわ・・・!!
ご、ごめんなさい~~!!
田辺「だ、ダメだよ小森さん!」
田辺「気持ち悪くても お客様なんだから!」
マリア聞こえてる
田辺「お、お詫びに お紅茶をサービスいたしますね」
田辺「一番のオススメなんですよ」
田辺さん・・・
素晴らしい責任感だわ
決して職務を
投げ出したりしない
当たり前のようで
とても困難なこと
教員たる私が主観だけで
生徒の印象を判断して
しまっていたわ
ごめんなさい、溝ぐ──
小森「待たせたな!!」
溝口「い、いやもう──」
小森「くくくっ・・・ 下がっていろ、聖母(マリア)」
小森「紅茶(しゅくふく)を受けたいのなら 初めからそう言えばよいものを」
溝口「なにも言ってな──」
小森「喰らうがいいッ!!!!」
大いなる大地へ注ぎし天空の涙
崩れしバベルの塔は
贖罪(しょくざい)の証(あかし)
頭(こうべ)を捧げ
産まれ出(いず)るは
水晶竜(すいしょうりゅう)の嘆(なげ)き
小森「はぁぁぁああああ~~ッ!!!!」
小森「原子の1(イチ)!!!!!!」
小森「水晶的超軟水────ッ!!!! (クリスタル○イザ──ッ!!!!)」
水じゃない?
溝口「助けてくれー!! 店主(マスター)──ッ!!!!」
教頭「何の騒ぎだね?」
まずい・・・!!
教頭に見つか──
教頭「『助けて』と聞こえたが 一体なにが、」
教頭「一体なにがあったんだね?」
説明の難しい“間”があったわ
溝口「食事を注文したら すごい料理が出てきたので・・・」
田辺「こ、これは違うんです教頭先生、」
教頭「・・・たしかB組の申請用紙には、」
教頭「『喫茶店』としか書いていなかったね」
これは担任である
私の責任が問われるわ
教頭「『メイド喫茶』をやるなら 初めから正直にそう記載しなさい」
田辺さんは
衣装に反対していた
彼女が責められるのは
あまりに理不尽
『生徒に罪はありません』
私が説明しなければ・・・
しかし──
教頭「しかしだね メイドの衣装で接客するにしても」
教頭「客にまでコスプレをさせるのは 方向性が違うのではないかね?」
そこなんだよな
田辺「ち、違います! あの人は勝手にあの格好で来て、」
教頭「そんなはずがないだろう!」
理不尽が過ぎる
教頭「秋葉原でも そんなコンセプトは見たことないぞ!!」
・・・うん?
教頭「メイド喫茶にはメイド喫茶としての ”おもてなし”の作法がだね──」
・・・教頭?
田辺「ふぇぇぇん・・・」
小森「離れるんだ・・・聖母(マリア)」
小森「この男・・・」
小森「『覚醒者(ガチぜい)』だ」
田辺「ウソでしょ・・・」
小森「完全に闇へ呑まれている もはや手遅れだ・・・」
田辺「そんな・・・教頭先生が・・・ わ、私イヤだよ・・・」
田辺「手遅れのおじさんが 教頭やってる学校なんてイヤだよ!!」
こちとら毎朝
顔を合わせる身にもなって欲しい
教頭「き、君はなんて格好をしているんだ!」
教頭「そんなに胸元を強調して! きちんと上までボタンを閉め──」
小森「や、やめろ! 触るなッ!!」
小森「爆散するぞォ!!!!!」
── 小森さんが危ないッ!!
教頭「何を言っているのか よく分からないが・・・」
教頭「君たちの”メイド喫茶”を 認めるわけにはいかないようだ」
── いけない
このままでは
全て台無しになってしまう
今日という日を楽しみにしていた
小森さんの想いも──
委員長として責任を果たそうとする
田辺さんの想いも──
なんだかよく分からない
溝口も──
生徒たちの
文化祭にかける情熱を
守るのが聖職者たる使命──
小森「師匠(マスター)・・・!!」
ゆっこ先生「おかえりなさいませ ご主人様」
小森「無詠唱・・・だと・・・!?」
田辺「なんでそっちの衣装を・・・」
ゆっこ先生「スタッフの教育が至らず、 大変申し訳ありませんでした」
ゆっこ先生「お詫びにこちらを 御召し上がり下さいませ」
さぁ、教頭・・・
これで満足でしょう?
指導者として手本を示し
完璧な接客をしたはず・・・
さっさと食って帰れ
教頭「“スタッフ”ではない」
教頭「”キャスト”だ」
教頭「メイド喫茶の店員は 訪れた人へ夢を提供する”演者”」
教頭「”パフォーマンス”が 何よりも重要なのだよ」
教頭「なぜ既にケチャップが かかっているのだね?」
教頭「ケチャップは最後に ”愛”を伝えるためのものだ」
な、なに・・・
この悪寒は・・・
教頭「ハートマークを書きなさい」
ゆっこ先生「──なっ、」
好意など微塵もない相手に
ハートマークを描けだと・・・!!
教頭「そして”魔法の言葉”を唱える」
教頭「代表的なのは──」
教頭「『美味しくな~れ☆萌え萌えキュン』!」
教頭「こうやって両手で ハート形のポーズを作るのだよ」
この男──
もはや教員としての
自我を失っている・・・!!
小森「悪魔憑依(サバト)の儀式・・・!!」
小森「師匠(マスター)、 誘いに乗ってはダメだ・・・!!」
小森「人間に戻れなくなるぞ・・・!!」
教頭「あとチェキはいくらだね?」
チェキ・・・とは・・・?
田辺「せ、先生! 写真はマズいです!色んな意味で!!」
しゃ、写真!?
手遅れの中年と一緒に写真だと!!
小森「くっ・・・!! まさか『超越者』に・・・!?」
小森「コイツ・・・!!」
小森「本当に”元”人間か・・・!?」
教頭「さぁ、早く!!」
冷静になるのよ、優子・・・!!
これは見方によっては、
メイド喫茶という文化の・・・
いや普通に
ハラスメントだわ
しかし狂っているとはいえ
相手は教頭、
逆らえば・・・
うちのクラスの『喫茶店』は・・・
生徒たちの
文化祭を守るには──
私が・・・
犠牲に・・・
小森「ダメだ師匠(マスター)──ッ!!!!」
田辺「先生ッ!! 行かないで────ッ!!!!」
ありがとう
可愛い生徒たち
私は貴女たちの
担任であれた事を誇りに思う
大好きよ──
手遅れの中年「さぁ、早くハートマークを──」
溝口「落ち着けよ、カウボーイ」
手遅れの中年「──なッ! 離しなさい!!」
溝口・・・!?
溝口「せっかくの文化祭(パーティー)なんだ」
溝口「俺と一緒に踊ろうぜ・・・!!」
小森「今がチャンスだ!! 師匠(マスター)──ッ!!!!」
田辺「ゆっこ先生~ッ!私たちは~~ッ!」
田辺「大好きな先生を失ってまで 文化祭なんて続けたくな──いッ!!」
みんな・・・!!
溝口「やっちまえ店主(マスター)──ッ!! 俺にかまうなァ──ッ!!」
ありがとう、溝口・・・
ぶっちゃけ
最初からそのつもりだったわ!!
「はぁぁぁああああ────ッ!!!!!!」
大いなる福音と共に顕現(けんげん)せし
創世(そうせい)の女神よ
ウィンザーノットの絆を示し
鉄槌(てっつい)の鐘(かね)を撃ち鳴らせ
聖なる教えで導くは、光ある子供たち
願い叶うならば、求めるは純白の翼
今ひとたび、飛翔する時
悲しみのない、あの自由な大空へ
えっと、うん!
お母さん、お父さん!
私を生んでくれてありがとう!!
溝口「来世で会おうぜ────ッ!!!!!!」
手遅れの中年「やめろぉぉぉおおおお────ッ!!!!!!」
「美味しくなれぇぇええええ────ッ!!!!」
「原子の1(イチ)──ッ!!!!!!」
「クリスタル○イザァァアアアア──ッ!!!!!!」
次から次へと現れる個性的な登場人物にニヤリ😁中二病達の狂宴(共演)に笑いが止まらない。
語彙力がすごいなー、本当にDickinsonさんの引き出しの多さには完敗です。
控えめにいって世界観最高😂
ハイターッチ、ナイスぅ
楽しか~ったで~す!
止まらない中二病で満腹です🤣
教頭のヤバさの解像度も高いですね😂
ゆっこ先生、衣装のチョイスが大変な感じでしたが、某セーラー戦士みを感じました。メイドリリー、サソリに代わってお仕置きよ!(ふざけすぎましたすみません)
もうずっと、笑いっぱなしでした。語彙力がすさまじくて…()内のカタカナがずっと面白くて…メイド喫茶の解像度もすごくて…!!この学校に転校したいです(笑)。次回作もどうか!期待しております!!