いつか見た雪景色に、さよならを

いつか見た雪景色に、さよならを(脚本)

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〇雪に覆われた田舎駅(看板の文字無し)
遥(私)「──今年もまた、来ちゃった」
  私は毎年冬になると、この場所に訪れる。
  いつもは母親がついてきてくれていたが、今回は予定が合わなくて一人で来た。
  目の前に広がるのは、白一色の雪景色。
  ここは、私がこの世で一番好きな場所だ。
  私は中学生まで、この場所に住んでいた。
  ちょっと田舎臭いけど、それもいいのかなって思ってた。
  学校から帰る道が長い分、君と過ごす時間が長くなるから。
  ──君は、いつも隣にいてくれた。
  私が部活で上手くいかなかった時も、テストで良い点数を取れた時も。
遥「本当に、幸せだったなぁ」
  でも、それはあまりにも突然のことだった。

〇広い畳部屋
遥の父「遥、話がある」
遥「え。急に何、改まって」
  その時、いつも私に優しく接してくれる父の表情が、やけに固まっていたのを覚えている。
  父は村の人々と仲が良く、行事などにも積極的に参加するなど、私と同じくこの場所が大好きな人だった。
遥の父「俺の仕事の都合で、来月にはここを離れなくちゃならない」
遥「離れるって・・・何それ!? 私そんなこと、聞いてないよ・・・?」
遥の父「急に決まったんだ。お前もこの村が大好きなのは知っている」
遥の父「すまない、遥」
  その時、私は酷く焦った。
  この先ずっと続くんだと思っていた君との日常が、来月には終わってしまうだなんて。
  いやだ。
遥「絶対、やだ・・・!」
遥「そんなの、お父さんだけの都合でしょ。 お父さんだけで行ってきたらいいじゃん!」
遥の父「遥!」

〇雪に覆われた田舎駅(看板の文字無し)
  その後、私は家を出た。
  とは言っても、家の近くでうずくまっていただけだったけど。
  色々なことを一人でぐるぐる考えた。
  高校を卒業するまで友達の家で生活できないかな、とか。
  なんとか、これからも君と一緒に過ごせる方法を。
  でも、結局どれもダメだと諦めた。
  わがまま言ってちゃいけないんだ、大人にならなくちゃ、と自分を納得させて。
  その次に考えたのは、君への気持ちをどうするか。
  言葉にしても伝えきれないほど大きな思いを、どうすればいいんだろう。
  そう悩んでいると、買い物から帰ってきたお母さんが私を見つけた。
  お母さんは私を家に入れて、温かいお味噌汁を作ってくれた。
  私は、来月にはもうここにいないんだ、とか余計なことを考えるようになった。
  それがすごく寂しくて、考えたくなくて。
  誰にも言えないまま、時間は過ぎていったんだ。

〇雪に覆われた田舎駅(看板の文字無し)
  いつもの、君との帰り道。
  もうそれも、この日で最後だった。
  私は、まだ彼に何も言えていなかった。
  もしかしたら、君から何か声をかけられることを期待していたのかもしれない。
  でも、結局はいつも通りだ。
  私は結論を出した。
  君に抱き続けたこの気持ちを、どうするのか。
遥「きょーくん、私、話さなきゃならないことがあって」
恭「なんだよ、改まって」
遥「私・・・明日、ここからいなくなるの」
遥「今まで言えなくて、ごめん。私・・・こういうの、慣れてなくてさ」
  ・・・あーあ。
  君のそんな顔、初めて見るなぁ。
  私が、傷つけちゃったんだな。
恭「そんな理由で、いつも一緒にいた俺に、何も言わなかったのか・・・!?」
  ・・・言わなきゃ。
  この気持ちを、忘れるって決めたんでしょ・・・!
  意思に反する言葉を、必死に絞り出す。
遥「何も心配することないよ」
遥「ここから私がいなくたって、きっと何も変わらないんだから!」
  ──最低、私。
  君は、苦しそうな、悲しそうな顔をした。
  そして、私に背を向けて走っていった。
  何それ。
  どうして私なんかの言葉に、そんなに傷ついているの?
  君にとって私は、割とほっとけない存在だった?
  ・・・きちんと、自分の思いに正直に言えば良かったのかな。
遥「今日は、寒いなぁ」
遥「寒いよ、きょーくん・・・」

〇雪に覆われた田舎駅(看板の文字無し)
  あれからお父さんは仕事で忙しくなって、もうここには来なくなった。
  お母さんも、最近少し私に厳しくなった。
  私はクラスで浮いてしまって、一人になった。
遥「・・・皮肉みたいだよね、本当に」
遥「結局変わらなかったのは、私の君への気持ちだけだった」
遥「・・・ここに戻りたいなぁ」
  真っ先に浮かぶのは、君の顔。
  なんとなく、名前を読んでみた。
遥「きょーくん」
  名前を呼ぶと、なんだか恥ずかしくなって。
  口を手で押さえた。
遥「・・・帰ろう」
???「遥?」
  驚きのあまり、体が固まった。
  後ろから、ザッザッと足音が聞こえる。
  心臓が、ドクドクと高鳴っているのが分かる。
???「覚えてる、か・・・?」
  忘れるわけがない。
遥「きょーくん!」
恭「久しぶり、だな」
  君の目を見た瞬間、頭の中で言葉が溢れ出す。
  元気にしてた?
  君のことが忘れられなかった。
  私の周りはすごく変わっちゃったよ。
  私のこと嫌いになった?
  彼女できた?
  いいや、そんな言葉より言いたい言葉があるんだよ。
  ずっとずっと、君に言いたくて、言えなかった言葉。

〇空
遥「ごめんね、きょーくん」
遥「私、きょーくんがいないと寂しいよ」
遥「・・・大好き」
  ああ、やっと言えた。
  それだけでも、すごく心の中がスッキリした。
  返事がどうであれ、もうこの場所に未練はない。
  やっと、この雪景色に別れが告げられるんだ。
恭「・・・」
  ・・・とは言っても、返事すら貰えなかったら永遠に未練が残りそうだ。
遥「返事、ないの?」
恭「ずっと前から決まってるよ」
恭「俺は──」

〇雪に覆われた田舎駅(看板の文字無し)
  私は昔からずっと変わらない、その風景をぼんやりと見続けていた。
  雪の積もった帰り道・・・私は、今でも鮮明に残る思い出に手を伸ばす。
  それは、包み込まれるような暖かさをくれる。
  これまでもこれからも忘れることはない、恋人との大切な思い出。

コメント

  • 中々伝えられないものですよね。
    本当に大切だからこそ失いたくないって気持ちが出てきてしまいますが、こういう機会だからこそ伝えないと後々後悔しますよね。

  • その当時言えなかった後悔がより彼への想いを成長させたのでしょうね。清々しく淡い恋愛と、田舎の雪景色、サウンドトラックがバックに流れていそうな素晴らしい物語でした。

  • ずっと言いたかったんだね。気持ちに蓋をしてしまうとずっーと残って後悔してしまうから。勇気が必要だけどそのほうが後々どん転んでも真っ直ぐ生きていけるよなーと共感しました。

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