バカップルとラブホテル(脚本)
〇ダブルベッドの部屋
棗藤次「──んー・・・」
──不意に喉の渇きを覚えて、眠っていた藤次は重い瞼を開ける。
棗藤次「どこや・・・ここ・・・」
見知らぬ天井をぼんやり眺めていると、軽やかな寝息が横から聞こえてきたので身体を起こしてみると──
笠原絢音「ん・・・んん・・・」
棗藤次「ああ、せや、 確か、久々やからちょい遠出して、あんまり楽しかったから離れるん辛なって、近くのラブホに、泊まったんや・・・」
笠原絢音「ん・・・・・・」
棗藤次「・・・・・・・・・・・・」
辺りを見回すと、室内には乱雑に脱ぎ捨てられた衣服。
ゴミ箱には大量に捨てられたティッシュと、二回分の使用済みコンドーム。
なにより、寝乱れた絢音の長い髪の毛が、先程までの情交の激しさを色濃く残していて、藤次は僅かに赤面する。
棗藤次「・・・ホンマに久しぶりやったからな。 我ながら、年甲斐もなく張り切ってもうたわ。 恥ずかし・・・」
言って頭を掻きながら、ベッドから起き上がり、急茶セットの電気ケトルに水を入れてスイッチを押す。
笠原絢音「んー・・・」
気持ちよさそうに眠る絢音を見つめながら、そっとベッドに戻り、頬に張り付いた後毛を耳にかけてやる。
笠原絢音「ん・・・」
棗藤次「可愛い、なぁ〜」
人形のような長い睫毛と、小さな鼻と唇。桜貝色の爪。白い滑らかな肌。均整の取れた肉付きの良い身体。
今まで枕を交わしたどの女性より、愛らしくて愛おしい・・可愛い恋人の寝顔に思わずムラムラしてしまい、そっとキスをすると──
笠原絢音「ん・・・」
パチッと目覚めた絢音を、藤次は恥ずかしさと残念さの入り混じった笑顔で迎える。
棗藤次「残念。 寝込み襲おうとしたけど、起きたか・・・ まだ夜やろけど、おはようさん」
笠原絢音「とーじ、さん?」
棗藤次「うん・・・」
掠れた声で名前を呼び、大きく息を吐いて、絢音はシーツに突っ伏す。
棗藤次「な、なんやどないした?! どっか痛いんか?! それともワシ、なんや夢中やったから、お前に何か嫌な事したか?!」
笠原絢音「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・逆」
棗藤次「は、はひ?!!?!」
──逆。
それは、つまり、
どんな甘美なピロートークより甘く、どんな口説き文句より強烈な絢音の一言に、思わず藤次は顔を真っ赤に染める。
笠原絢音「・・・でも、少し激し過ぎたかも。 次は、少し優しく、してね? でないと私、藤次さんから、離れられなくなっちゃう・・・」
棗藤次「ご、ごめん・・・ そやし、言い訳させて? 絢音とするの、ホンマに気持ち良くて・・ 毎回加減する余裕ないねん。 好きや・・」
笠原絢音「あ・・・」
棗藤次「絢音・・・」
我慢がきかず、戸惑う絢音を抱き締め、3回目をしようとした時だった。
棗藤次「あ!せや、コーヒー飲もう思うて湯沸かししてる最中やった!」
笠原絢音「えっ!? あの・・・」
〇ダブルベッドの部屋
甘ったるい雰囲気は忽ち冷め、ガウンを着て急茶セットへまっしぐらに行くと、慣れた手つきでコーヒーを作る藤次。
その様子をベッドから半身を起こして絢音は見つめていると・・・
棗藤次「ん? なんや、お前もなんか飲むか? あったかいのも、自販機あるから冷たいのもあるえ?」
笠原絢音「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
棗藤次「な、なんね・・・・・・」
笠原絢音「慣れてる・・・・・・」
棗藤次「はっ?!」
じとりと睨みつける絢音の口から出た言葉にポカンとしていると──
笠原絢音「前々から薄く思ってたけど、藤次さんて、こーゆーとこの扱い、ホント慣れてる。 私に会う前から、よく使ってたの?」
棗藤次「あ、いやその・・・・・・」
段々しどろもどろになっていく藤次に、絢音は寂しそうにポツリと呟く・・・
笠原絢音「いたんだ。 私以外にも、気持ち良かった人 そうよね。藤次さん、デート中街中でもよく声掛けられるし、モテるもんね・・・」
棗藤次「か、過去や過去! 大体、今はお前、一筋や!! 他の女なんて、イモやカボチャと同じ、なんも感じん! 逆にウザいくらいやっ!」
笠原絢音「・・・ホント?」
棗藤次「うん!ホント!! 悪かったな。 折角の雰囲気台無しにして。 せや!風呂入ろ? 泡風呂で身体洗いっこ。 楽しいえ?」
笠原絢音「う、うん! じゃあ、お風呂用意してくる!!」
棗藤次「うん! 頼むえ」
笠原絢音「ふふっ・・・」
棗藤次「・・・・・・・・・・・・・・・」
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