春はあけぼの朗らかに(脚本)
〇本棚のある部屋
棗絢音「藤次さん朝よー。ねぇ、起きて〜!」
棗藤次「んー・・・」
ーー草木の色が華やいできた穏やかな春の朝。
いつものように藤次を優しく起こす絢音だが、春の心地よい気温や布団の気持ち良さ、
加えて朝に滅法弱い藤次は、最近毎日、嫌だ嫌だと駄々をこねる始末なので、絢音はほとほと困り果てていた。
棗絢音「藤次さん。早く起きてご飯食べないと。今月もう5回も遅刻してるでしょ?いい加減にしないと、部長さんに呼び出されるわよ?」
棗藤次「んー・・・、ほんなら今日、休む〜」
棗絢音「バカ言わないの。簡単にお休み出来るお仕事じゃないでしょ?」
棗藤次「ん──」
棗絢音「今日は朝一で大事な裁判あるんでしょ?だから引っ叩いてでも起こしてくださいって、私佐保ちゃんに頼まれたのよ?だから起きてー」
棗藤次「いやや・・・眠い・・・」
棗絢音「も──」
それでも起きる素振りを見せないので、絢音は止むなしと、藤次の頬をギュッと抓る。
棗藤次「痛い。DVや・・・」
棗絢音「こんな優しいDVあるわけないでしょ?ホラッ!起きなさい!!次は佐保ちゃんの言う通り、平手で引っ叩くわよ?!良いの?」
棗藤次「んー・・・」
遂に観念したのか、ゆっくりと起き上がってきた藤次に安堵の溜め息をこぼし、早く着替えてねと釘を刺し寝室を後にしようとしたら
棗藤次「怠い。 着替えさせて」
棗絢音「もー、毎朝毎朝、とんだ甘えん坊さん。 本当に、手のかかる大きな赤ちゃんだこと」
棗藤次「そやしー・・・」
棗絢音「もー。 分かったわよ! だから手、離して? ほら、上からね?」
棗藤次「うん・・・」
そうして着替えを済まし、洗面台に連れて行く頃には意識もはっきりしてきたのか、欠伸をしながら身支度をする藤次。
〇狭い畳部屋
棗絢音「よし! 朝ごはんに、藤次さんの好きなコーヒーと新聞。 あとはー」
「絢音ー」
棗絢音「?」
〇白いバスルーム
棗絢音「なに?」
棗藤次「これ・・・ 袖のボタン、取れかけてる。 どないしょ」
棗絢音「・・・・・・・・・」
棗藤次「なあ、どないしょ」
棗絢音「・・・ハイハイ。もう、直ぐに新しいの出すから、脱いでその辺に置いててちょうだい」
棗藤次「ん」
頷きシャツを脱ぐ藤次を見ながら、よくこれで今まで独りで生活していたなと呆れていると、視線に気付き、藤次は口を尖らせる。
棗藤次「なんや。折角嫁さんもらったんや。甘えて何が悪い」
棗絢音「別に悪いとは言ってないでしょ。 ただ、いい大人なんだから、辛いのわかるけどしゃんとして」
棗藤次「へーい」
棗絢音「もう。あ、ホラッ!言った側からネクタイ!」
棗絢音「!」
新しいシャツを着てネクタイを結んでいたやり方が気に入らなかったのか手を出すと、それを阻まれ唇にキスをされ、絢音は瞬く。
棗藤次「・・・折角の新婚さんやのに、そないカリカリしなや。 可愛い顔台無しやで? ワシの可愛いお嫁はん?」
棗絢音「なによ。カリカリさせてるのは自分じゃない。それに・・・」
棗藤次「それに?」
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