旧駅舎懐古厨たち(脚本)
〇店の事務室
都内某所――渋谷観光レスキュー事務局。
目黒 葵「お電話有り難うございます! 渋谷観光レスキューです。道案内ですか? それとも乗換案内?」
目黒 葵「・・・なるほど。道案内ですね。 うちのスタッフを向かわせます。 近くに何か目印になる建物は?」
目黒 葵「はい、ええ。それだけ分かれば十分です。 お任せください。 私たち、渋谷には詳しいですから!」
〇渋谷駅前
瀬田 輝「ったく。目黒のヤツ、年々人使い 荒くなってないか? 本当なら休みだってのに・・・」
瀬田 輝「えーっと、依頼者の特徴は・・・。 75歳男性、カーキの服で白髪交じり ・・・お、あの人か?」
瀬田 輝「すんませーん! 池上さんですか?」
池上「おう。お前か?」
瀬田 輝「はい! お待たせしました、 渋谷観光レスキューの瀬田輝です。 今日はよろしくお願いします」
瀬田 輝「依頼内容は道案内って聞いてますけど、 目的地は・・・」
池上「駅だ」
瀬田 輝「駅? 駅なら目の前ですけど・・・ あ、乗換案内でした?」
池上「駅の、改札だ。何度も女房と来た ・・・どこにもねぇんだ、この写真と おんなじとこ探してんだけどよ」
瀬田 輝「これは・・・」
瀬田 輝「(古い写真・・・綺麗な女の人が改札前に 立ってる。この人の奥さんなのか)」
瀬田 輝「(・・・すげー嬉しそうに笑ってるな。 へぇ、なんか良い写真だ)」
瀬田 輝「そうっすね・・・残念ですけど 全く同じ場所は、建て替わっちゃって 今はもう無いと思うんで」
瀬田 輝「東横線に用があるってことなら、 改札口までの道案内で良いっすか?」
池上「俺ァその東横の出口から来たんだよ。 そっちじゃなくて、この写真と全く おんなじ場所探してんだ」
瀬田 輝「いやでも、ここはもう無くなってて・・・」
池上「なんでそう言い切れる。使われてねぇ だけで、まだあるかもしれねぇだろ」
瀬田 輝「言い切れるも何も、今は東横線は 地下に――」
池上「なんかあの工事してるあたりだったろ。 あの中にあるんじゃねぇか?」
瀬田 輝「いやいやいや、勝手に入ったら 怒られますから! ちょっと!」
瀬田 輝「(目黒のヤツ! すげーめんどくせー案件じゃねぇか! どうすんだよこれ!)」
池上「ちっ・・・これじゃあ渋谷まで 来た意味がねぇな」
瀬田 輝「まあそう言わずに!」
池上「女房がよ、昔の俺は優しかったとか 言ったんだよ。だから思い出すために 昔行った場所を巡ってんだ」
池上「・・・このままじゃ、死んだ女房に 笑われちまうよ」
瀬田 輝「・・・!」
瀬田 輝「(奥さん、亡くなられてるのか・・・。 それでわざわざ思い出の場所を・・・)」
瀬田 輝「(って! 絆されてる場合か! 連れていきたい気持ちは山々だが 物理的に無理なもんは無理!)」
瀬田 輝「(どうにか納得してもらわねぇと・・・)」
池上「おい、渋谷レスキューなんとかさんよ。 お前は納得してるってことかよ」
瀬田 輝「はい?」
池上「この街を愛するスタッフがなんたらって 広告に書いてたろ。 だから電話したのによ」
池上「お前ら若いヤツには、どうでもいい ってことか。変わっちまうことなんてよ」
瀬田 輝「・・・・・・」
瀬田 輝「・・・分かりました。お探しの場所まで 案内します。こっちへ」
池上「! なんだ、知ってんじゃねぇか! 最初から案内してくれりゃいいのによ!」
〇渋谷ヒカリエ
――現東横線渋谷駅、入り口。
池上「おい、写真の場所と違うじゃねぇか! どうなってんだ、渋谷なんとか!」
瀬田 輝「俺の名前は瀬田ですよ。 それよりよく見てください」
池上「あ? なんでだよ、若いのが 待ち合わせしてるだけじゃねぇか」
瀬田 輝「同じでしょ、アンタや奥さんと。 あの子たちにとってはここが、アンタに とってのあの写真の場所ってこと」
瀬田 輝「それでも、さっきみたいなこと 言うのか? アンタは」
池上「そりゃ・・・」
瀬田 輝「ずっと変わらないものなんてない。 アンタだって奥さんに言われたんだろ、 昔のが優しかったとかって」
瀬田 輝「でも・・・だから良いんだ、思い出って。 その時その瞬間にしかあり得ないもの だから、尊いっていうか」
瀬田 輝「まあ、長く生きてきたアンタなら 本当は俺よりよくわかってんじゃ ないすか?」
池上「・・・・・・」
瀬田 輝「ってあれ? ちょっと、 どこ行くんですか? もういいの?」
池上「・・・花を買ってくる」
瀬田 輝「花?」
池上「女房の好きだった花だ。それだけ 手向けたら、諦めて帰る」
瀬田 輝「ったく、納得してくれたのは良いけど、 勝手にそのへんに花置いたら 怒られるでしょ」
瀬田 輝「・・・って、行っちゃったか」
瀬田 輝「(・・・旧東横線ホーム、か。 懐かしいな)」
瀬田 輝「(俺がアイツと出会って、救われたのも ・・・あのホームだったっけ)」
瀬田 輝「(あの頃。アイツが先に前を向いたんだ。 俺よりよっぽどあの場所に 思い入れがあったはずのアイツが)」
瀬田 輝「(これからこの街がどうなっていくのか、 自分は楽しみで仕方ない、って。 子供みたいに目を輝かせて――)」
瀬田 輝「っと、噂をすれば。 はい、もしもし?」
目黒 葵「『瀬田くん? さっきの依頼 解決したの?』」
瀬田 輝「まあなんとか・・・つーかお前、 あの依頼フツーの道案内の枠で振るなよ! ちゃんと事前に詳細確認しろ!」
目黒 葵「『あれ、普通の道案内じゃなかったの? 違ったなら依頼料の設定も――』」
瀬田 輝「あっ」
目黒 葵「『え?』」
瀬田 輝「・・・依頼料、貰い忘れた」
街も人も、時の流れによって変わっていくものですもんね。
変わらないのは気持ちなのかもしれません。
おじいさんも、奥さんの言葉で気持ちを思い出していて、読んでて本当によかったと思いました。
とても続きが読みたくなるストーリーでした✨
確かに、人も場所も変わりゆくものなのだなと、改めて実感しました🥲彼が入った理由も深掘りして見てみたいですね☺️
人も街も建物も、その他身の回りのものも全て絶えず変わり続けていますよね。そして、例え便利になったとしても昔の不便さを懐かしむ人も。変わることの良さと寂しさ、そんなことを気付かせてくれる物語ですね。