盲目の神絵師

富士鷹 扇

蝶番 2(脚本)

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富士鷹 扇

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〇黒
  匂いには、輪郭という物がない
  化粧品の匂いも
  煙草の匂いも
  防虫剤の匂いも
  乾いた汗の匂いも
  判別はつくけど、境界が分からない
  匂いで世界を視ている私にとって、人混みという物は

〇黒
  沢山の匂いが混ざりあってできた
  大きな化け物みたいな物なんだ
  ・・・凄く、怖いんだよ

〇神社の出店
狗飼 みきお 「・・・なるほど?」
狗飼 みきお 「つまり、あんたがうずくまってたのは、人混みが怖かったからってことか」
桜庭 りん「・・・お恥ずかしいことに」

〇黒

〇神社の出店
狗飼 みきお 「この人混みん中でうずくまってるから、体調悪いのかと思ったが・・・」
桜庭 りん「普段はね、こんなにパニックになったりしないんだよ」
桜庭 りん「ただ、今はちょっと色々と怖いことが重なってて・・・」
狗飼 みきお 「話は後で聞いてやるよ」
狗飼 みきお 「とりあえずここから移動するぞ。いくらなんでも通行の邪魔すぎる」

〇山の中
桜庭 りん「はぁ・・・。助かった・・・」
桜庭 りん「ありがとう、えっと・・・」
桜庭 りん「そういえば名前聞いてなかったかも」
狗飼 みきお 「ああ、そうだったか」
狗飼 みきお 「俺は『狗飼 みきお』だ」
桜庭 りん「狗飼さんね」
桜庭 りん「私は『桜庭 りん』」
桜庭 りん「しがない画家だよ」
狗飼 みきお 「・・・へえ、画家の先生なのか」
桜庭 りん「休業中だけどね」
狗飼 みきお 「あんた、人混みが怖いのになんで縁日なんかに来てたんだ?」
桜庭 りん「あっ!」
桜庭 りん「忘れてた・・・!」
狗飼 みきお 「大丈夫かよ」
桜庭 りん「・・・」
桜庭 りん「・・・巻き込んじゃおうかな」
狗飼 みきお 「あん?」
桜庭 りん「ねえ、狗飼さん」
狗飼 みきお 「なんだ?」
桜庭 りん「助けてくれたついでに、もう少し手を貸してくれないかな」
狗飼 みきお 「そりゃ別に構わねえが」
桜庭 りん「よかった。ちょっと命がけになりそうなんだけど、いい?」
狗飼 みきお 「・・・何言ってんだあんた」
桜庭 りん「娘さんの匂いを見つけた」
狗飼 みきお 「嘘だろ!? 本気で言ってんのか!?」
桜庭 りん「勿論。匂いを追ってここまで来たんだよ」
桜庭 りん「たどり着く前に、人混みで動けなくなっちゃったけど・・・」
狗飼 みきお 「娘はどこにいるんだ!」
桜庭 りん 「縁日の向こうの方。まだ少し距離があるけど」
狗飼 みきお 「・・・そっちには、境内があるな」
桜庭 りん「娘さんの元まで案内するから、先導して欲しいんだよ」
狗飼 みきお 「・・・」
桜庭 りん「どうかした?」
狗飼 みきお 「・・・今までこずえの事で、霊感商法じみた連中に何度も騙されてきた」
桜庭 りん「私の事も信じられない?」
狗飼 みきお 「信じてえよ!」
狗飼 みきお 「でもよ、いくら鼻がいいからって、そんな遠くの匂いが分かるっつうのは、いくらなんでも・・・!」
桜庭 りん「私の嗅覚を舐めないで欲しいな」
桜庭 りん「狗飼さん。貴方は私に会う前、森の中を歩き回ってたね?」
桜庭 りん「靴底から落ち葉と腐葉土の匂いがしてる」
狗飼 みきお 「・・・!」
桜庭 りん「森に入る前には、古い紙が沢山ある場所で調べものでもしてた?」
桜庭 りん「森の匂いに紛れてるけど、新聞や本の匂いもするよ」
狗飼 みきお 「・・・」
桜庭 りん「合ってる?」
狗飼 みきお 「村の資料館で五年前の新聞を読んだあと、森でこずえの痕跡を探してたんだ」
桜庭 りん「信じる気になれた?」
狗飼 みきお 「・・・なんなんだよ、その鼻は」
桜庭 りん「便利でしょ」
桜庭 りん「遠くから漂う女の子の匂いを嗅ぎ分けることだって、簡単にできちゃう」
狗飼 みきお 「こずえは・・・生きてんのか」
桜庭 りん「新鮮な涙の匂いもしてるから、生きてはいるはず」
狗飼 みきお 「・・・泣いてんのかよ」
桜庭 りん「早く慰めてあげなきゃ」
狗飼 みきお 「・・・頼む、案内してくれ!」
桜庭 りん「人混みは狗飼さんがかき分けてね」

〇神社の出店
狗飼 みきお「すまねえ! 悪いが通してくれ!」
桜庭 りん「狗飼さん! 待って! 早いよ!」
狗飼 みきお 「ああ!? 急いでくれよ!」
桜庭 りん「気持ちは分かるんだけど!」
桜庭 りん「私、そんなに早く歩けない!」
桜庭 りん「あと、怖いからあんまり離れないで!」
狗飼 みきお「・・・っ。すまねえ」
桜庭 りん「できるだけ急ぐから、置いてかないで」
狗飼 みきお 「・・・なあ」
桜庭 りん「ん?」
狗飼 みきお「さっき、命がけになるっつってたが、そりゃどういう意味だ」
桜庭 りん「・・・」
桜庭 りん「娘さん、こずえちゃんだっけ。彼女の匂いは化け物の匂いに包まれてるんだ」
桜庭 りん「化け物の近くにいるだけなのか、捕まってるのか・・・」
狗飼 みきお 「なんだそりゃ!? 化け物ってなんなんだよ!? こずえは大丈夫なのか!? 怪我してねえだろうな!?」
桜庭 りん「落ち着いてよ!」
狗飼 みきお 「・・・ちっ」
桜庭 りん「・・・こずえちゃんの状態はまだはっきりとは分からない」
桜庭 りん「化け物についても、怪異って呼ばれてる事くらいしか知らないんだ」
狗飼 みきお 「怪異だあ!?」
狗飼 みきお 「実在すんのかよ! くそ!」
桜庭 りん「何か知ってるの?」
狗飼 みきお 「この村にゃ数年前から、怪異がどうこう言う爺さんが住み着いてんだ」
狗飼 みきお 「そいつから聞かされた事がある」
桜庭 りん「九曜さんの事かな」
狗飼 みきお 「知り合いか?」
桜庭 りん「あの人を訪ねてこの村に来たんだよ」
狗飼 みきお 「物好きなこって」
桜庭 りん「九曜さん、こずえちゃんの失踪について何か言ってなかった?」
狗飼 みきお 「・・・こずえを攫ったのは怪異に違いないとか言って、変な道具で村中調べ回ってたな」
狗飼 みきお「なんの成果も出ねえから、霊感商法の詐欺師かなんかだと思ってたが・・・」
桜庭 りん「・・・まあ、ちょっとうさん臭いもんね。喋り方とか」
狗飼 みきお「怪異ってのは、そんなに危険なヤツなのか?」
桜庭 りん「人から視力を奪ったりする事ができる、超常的な存在だって事は確かだよ」
狗飼 みきお「・・・あんたのその眼は」
桜庭 りん「持って行かれちゃった」
狗飼 みきお「マジでヤベえじゃねえか!」
狗飼 みきお「こずえが心配だ! 悪いができるだけ急いでくれ!」
桜庭 りん「これでも精一杯急いでるって・・・!」

〇神社の石段
桜庭 りん「匂いが近い。この上だよ」
狗飼 みきお 「・・・やっぱ境内か」
桜庭 りん「すごい人の量・・・。村の規模の割りに人が多すぎない?」
狗飼 みきお 「この祭りは今年が最後だからな」
狗飼 みきお 「都会に行った連中も、見納めに戻って来てんだよ」
桜庭 りん「・・・お祭り、途絶えちゃうんだね」
狗飼 みきお 「寂しいもんだが、今は関係ねえ」
桜庭 りん「うん。もうすぐだよ。急ごう」
狗飼 みきお 「わかってる」
狗飼 みきお 「道を開けてくれ! すまねえ! 緊急なんだ!」

〇神社の本殿
桜庭 りん 「神楽・・・?」
狗飼 みきお 「おい! こずえはどこにいるんだ!?」
桜庭 りん「・・・ん!?」
桜庭 りん 「浮いてる!?」
狗飼 みきお 「どうした!」
桜庭 りん 「上の方見て! 三メートルくらい上空から匂いが落ちてきてる!」
狗飼 みきお 「はあ!?」
桜庭 りん「何か、門みたいな物が浮いてたりしない!?」
狗飼 みきお 「・・・いや、なんにも見えねえ!」
桜庭 りん「見えない・・・?」
狗飼 みきお 「こずえが浮いてんのか!?」
桜庭 りん 「違う。門みたいな物が空中にあるんだ」
桜庭 りん 「そういう匂いがしてる」
桜庭 りん 「その門の中からこずえちゃんの匂いがするんだけど・・・」
狗飼 みきお 「意味がわからん! ・・・くそ!」
狗飼 みきお 「こずえ!! 聞こえるか!? そこに居んのか!?」
参拝客A「あの人、たしか狗飼さん所の・・・」
参拝客B「ほら、娘さんが神隠しにあった・・・」
参拝客C「とうとうおかしくなっちゃったのね・・・」
狗飼 みきお 「頼む! こずえ、返事をしてくれ!」
桜庭 りん 「声も届かないのかな・・・」
桜庭 りん 「この匂い・・・」

〇古びた神社
  ・・・もしかして、手にスマホ持ってる?

〇神社の本殿
桜庭 りん 「狗飼さん!」
狗飼 みきお 「こずえ! 俺だ! 帰ってこい!」
桜庭 りん 「狗飼さんってば!!」
狗飼 みきお 「なんだよ!」
桜庭 りん 「こずえちゃん、今、スマホ持ってるかも!」
狗飼 みきお 「そんなもん、今まで一度も通じた事ねえよ! ずっと圏外だ!」
桜庭 りん 「これだけ近くにいるなら、もしかしたら電波通ってるかも・・・!」
狗飼 みきお 「!」
狗飼 みきお 「繋がった!? おい、こずえ! 聞こえるか!? お前今どこに・・・!」
スマホ「繝代ヱ��シ溘€€蜉ゥ縺代※��」
狗飼 みきお 「っ!? なんだ!?」
スマホ「繧ゅ@繧ゅ@竅峨€€繝代ヱ��シ�」
狗飼 みきお 「・・・こずえの声、なのか?」
狗飼 みきお 「全然聞き取れねえ!」
桜庭 りん 「んん!?」
狗飼 みきお 「今度はどうした!?」
桜庭 りん「門が動き始めた!」
狗飼 みきお 「はあ!? 動くのかよそれ!」
桜庭 りん「ふわふわ移動してる!」
桜庭 りん「ちょ・・・っ! 境内から出ていっちゃう!」
狗飼 みきお 「追いかけるぞ! どっちだ!?」
桜庭 りん「あっち!」
狗飼 みきお 「邪魔だあ! 道を開けろお!!」

〇山中の坂道
桜庭 りん「はぁ・・・っ。はぁ・・・っ」
狗飼 みきお 「どこまで行くんだよ・・・っ!」
桜庭 りん「わかん、ない・・・!」
桜庭 りん「でも、だんだん、門が下に降りて、きてる・・・!」
狗飼 みきお 「その門に入れば、こずえに会えるんだな?」
桜庭 りん「たぶ、ん・・・っ。狗飼さん、まだ、電話、繋がってる・・・?」
狗飼 みきお 「相変わらず、声を圧縮したような音が聞こえてるが・・・」
狗飼 みきお 「断言できる、これはこずえの声だ」
桜庭 りん「はぁ・・・っ。はぁ・・・っ」
桜庭 りん「電波が、通ってるなら、あの門、物理的にも通れる、と思う・・・っ」
狗飼 みきお 「そうだといいんだが・・・!」
桜庭 りん「きっと・・・っ! だい、じょぶ、だよ・・・っ」
狗飼 みきお 「・・・きつそうだが、頑張ってくれ」
桜庭 りん「こんな事なら、ジムにでも、通ってれば、よかったな・・・っ」

〇林道
桜庭 りん「門が、降りてきたよ・・・!」
狗飼 みきお 「どこだ!?」
桜庭 りん「ここ・・・! 手が届きそ──」

〇林道
桜庭 りん「え・・・!?」
桜庭 りん「匂いが消えた!?」
狗飼 みきお 「あ!?」
桜庭 りん「門の匂いも、こずえちゃんの匂いもしなくなった・・・!」
狗飼 みきお 「嘘だろ・・・!」
桜庭 りん「狗飼さん、電話は!?」
狗飼 みきお 「くそ! 切れちまってる・・・!」
桜庭 りん「そんな・・・!」

コメント

  • 気丈に振る舞うりんの恐怖や不安がじわじわと鮮明になっていくのがいいですね。
    そして後半の畳み掛けるような緊迫感がすごい!

  • 神楽の演出が凝ってて綺麗でした✨
    りんの視力を失った代わりに嗅覚が鋭くなっている様子がより鮮明に描かれているのが印象的でした!
    こずえと怪異の匂いを急いで辿っていく場面が躍動感あって、読む側もハラハラしながら読み進めていました💦
    スチルのどのイラストも綺麗で、時間のスチル演出がより一層「急ぐ」を掻き立てられます🕰️
    次の展開が気になります😆続きを待ってます!

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