癒しは喧噪の中に渋谷の吐息

cherry"s

告げる夜と渋谷の街(脚本)

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〇SHIBUYA109
  あの頃に手を伸ばして見たら・・・

〇SHIBUYA109
佑也「『本当に綺麗だな、お前』」
  佑也は秋人の手を取って、時々秋人の顔を覗き込んで、うっとりとこう言ったのだった。それがふと蘇る。

〇渋谷のスクランブル交差点
秋 人「「佑也だって綺麗だよ。ずっと一緒に居ようね」 力を込めた手が重なった、そんな半年前。 思い出しながら秋人が歩いていた」

〇改札口前
佑也「だけど一か月前。 佑也は言った。 「ごめん・・・」俺、と続けた。 手が、離れた」
秋 人「「嘘だろ。なんで・・・」 言葉が出なくなった秋人、冬近い渋谷の街が冷たく見えた」

〇ハチ公前
  ごめんと言ったくせに、悲しい表情をして秋人を見ていた。佑也だった。
  でも追いかけては来ない。

〇改札口前
「なんで俺を振った癖に俺を見るんだよ・・・」
  悔しいのか悲しいのがぐちゃぐちゃな気持ちで秋人は、改札を潜った。指輪をポケットの中で外した。

〇渋谷のスクランブル交差点
「今そんなこと思いながら渋谷を歩いている、俺。 おそろいだった指輪も、ない。 こんな時渋谷の喧噪は心地良い。寂しくない」

〇渋谷のスクランブル交差点
  秋人は、そんな前のことを思いながら渋谷を歩いた。
  男のくせにパンケーキが好きで、駅ビルの店によく行ったものだ。二人で。

〇ハチ公前
  甘栗の臭いとか、ざわざわした声が聞こえる。
  思い出せば切りがない。
  この街は、ふっと思い出す苦しい気持ちも包んでくれる。

〇SHIBUYA109
秋 人「これから誰と食べに行けば良いんだよ・・・。誰と映画に行けば良いんだよ・・・」
  言葉を道に落とすように呟く。今まで食べに行ったパンケーキやケーキが頭を過ぎる。冬の寒さに似た風が冷たい。

〇SHIBUYA109
  急ぐように歩く人々の声が、ひとりじゃないと言われているようだった。紛れてしまえば寂しくない。
  と、秋人は立ち止まった。

〇渋谷のスクランブル交差点
  雨だ。手に降った雨粒に、秋人はどうしようかと溜息を吐いた。
  そのとき、聞こえてきた声があった。
  ・・・良い声。

〇SHIBUYA109
  夜なのに、109の前で、雨なのに弾き語りをしている人が居た。透き通った綺麗な声が秋人の耳に入っていく。

〇SHIBUYA109
  ふっと秋人は歌っている男の人に寄っていった。
  若い、少し年下の男の子。
  「綺麗な声ですね」
  声を掛けると、彼が笑った。

〇SHIBUYA109
  ふっと、若い男の子が笑った。
  「ありがとうございます。良かったら一色聴いていって下さい」
  心地良い低音だった。
  ありがとうございます!
  RIKIって言います、と彼は笑った。
  一曲聴き終わっても、まだ聴きたいくらい心地良い。雨の粒が小さくなっていた。

〇SHIBUYA109
  秋人は、興奮を隠せないキラキラした瞳でRIKIに寄った。
  こんなに、ぐっと心を打つ声は初めてだ。
  秋人
  「もっと、聴きたいです。いつ歌ってますか」

〇改札口前
  改札を潜る秋人、。
  悲しみも、すっと薄れていくような気がした。渋谷の喧噪が、癒やしてくれた。綺麗な声にも出会えた。
  「いい声だったな・・・、また聴きに行こう」

コメント

  • たくさんの人が思い思い流れている街の空気って、不思議と心を動かしますよね。ネガティブに作用することも、ポジティブに作用することも。秋人の心情と渋谷の空気感がリンクして楽しく読ませてもらいました。

  • 騒がしい街に心が癒されることはありますよね。
    すごく「音」が感じられる作品でした。
    寂しい時の音、嬉しい時の音、そして癒された時の音。
    様々な音が耳に入り込んでくるような、そんな感じを受けました。

  • 感情でもない、物でもない、何か違う。五感が妙に働いて、妙に癒されることがある、分かります。音は人の気持ちを色々に操れますよね。楽しいストーリーでした。

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