さくらと七海

鍵谷端哉

山ガール(脚本)

さくらと七海

鍵谷端哉

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〇山の中
さくら(山ガール。登山を趣味としている女の子のことを、世間ではそう呼ぶみたい)
さくら(私は昔から山が好きで、一年に数回は山に登っている。つまり、私も世間から見たら山ガールということになるのだろう)
七海「ねえ、さくら、疲れたー。休憩しようよ」
さくら「え? また? さっきもしたじゃない」
七海「体力が限界なんだから仕方ないじゃない」
さくら「仕方ないなぁ」
  2人が立ち止まり、座り込む。
  さくらがカバンの中からお茶を出して七海に渡す
さくら「はい。お茶」
七海「ありがとう!」
  七海がゴクゴクと飲む。
七海「ぷはー! 美味い!」
さくら「七海、おっさんくさいよ」
七海「うっさいなー。いいの。ここにはさくらしかいないんだから」
さくら「そんなんだから、結婚できないんだよ」
七海「今まで彼氏ができたことない、さくらに言われたくないなー」
さくら「・・・ねえ、七海。この話題、止めない?」
七海「・・・そうね。お互い、傷口を広げるだけだし」
さくら「それはそうと、急にどうしたの? 登山に連れてってくれなんて」
さくら「今まで誘っても、あんな苦行に行く理由がわからないって来たためしなかったのにさ」
七海「ねえ、さくら。山ガールって言葉、知ってる?」
さくら「・・・登山する女の子のことでしょ?」
七海「そう。・・・でね、今、ブームらしいんだよね」
さくら「ん? 登山が?」
七海「いや、山ガールが」
さくら「は? どういうこと?」
七海「だーかーら、男子の中で、山ガールの人気が高いって意味」
さくら「・・・そんな理由だったか」
七海「当たり前でしょ、じゃなかったら、こんな苦行、進んでやらないって」
さくら「あっそ。じゃあ、もう休憩終わり。さ、行くよ」
七海「ええー! まだ全然、体力回復してないよ」
さくら「いいから、行くよ」
七海「鬼―!」
七海「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
さくら「ほら、そんなんじゃ、頂上に着く前に日が暮れちゃうよ」
七海「いいの。私の目的は登山することで、頂上に行くことじゃないから」
さくら「うーん。登山は頂上を目指すことだと思うんだけど・・・」
七海「登山している山ガールという肩書があればいいだけだから、いいの」
さくら「登山を舐め腐ってるね」
七海「私は山ガールになって、三十路になるまでに結婚してやるんだから」
さくら「・・・まあ、どうでもいいけど、それなら私とじゃなくて、誰か、男の人と一緒にこないと意味ないんじゃない?」
七海「何言ってるのよ。今の私は登山の初心者。山ガールには程遠いわ」
さくら「たしかに素人感丸出しだね」
七海「だから、さくらに山ガールのいろはを習って、立派な山ガールになってから、男をゲットするのよ」
さくら「なら、ペース上げるよ。登山家なら、これくらいの山、サクサク上らないと」
七海「だーかーらー、私は登山家じゃくて、山ガールを目指してるの!」
さくら「違いがわからないんだけど・・・」
七海「考えてみて。男がへばっている中、女の方がサクサクと登っていく様を見せつけて、モテると思う」
さくら「まあ、引かれて終わりだね」
七海「でしょ?」
さくら「じゃあ、どうすればいいのよ?」
七海「うーん、こういうときは、疲れたよー、ねえ、休もうよーって言って甘えるとか?」
さくら「・・・今のあんたじゃん。それだと山ガールになれないんじゃないの?」
七海「あ、そっか。じゃあ、どうするのが正解なんだろうね? 山ガールって深いわ・・・」
さくら「ねえ、七海。どうして、山ガールが男の人に人気なんだろうね?」
七海「きっとあれじゃない? 一緒の目的を持った男女は恋が芽生えやすいとか」
さくら「だったら、別に登山じゃなくてよくない? 他のスポーツとかでも一緒でしょ?」
七海「たしかに・・・。あ、じゃあさ、高いところだと、怖くてドキドキするじゃない。それが恋と混同してとか?」
さくら「吊り橋効果ってやつ? それなら、頂上に登らないとだね」
七海「うっ! 自爆だったか」
七海「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
さくら「・・・ねえ、七海。少し、休もっか?」
七海「大丈夫・・・。頂上、行くんだから・・・」
さくら「さっきと違って、随分、気合入ったわね」
七海「私ね・・・。お嫁さんになるのが夢なの」
さくら「へえ、随分、乙女な夢ね」
七海「結婚して、寿退社して、旦那に食わせてもらって、毎日、自由気ままに暮らすの」
さくら「前言撤回するね」
七海「だから、私・・・。それを叶えるためなら、どんな苦しいことでも、乗り切ってみせる!」
さくら「山ガールとしても、友達としても、最低だと思うけど、その執念だけは認めるわ」
七海「ありがとう!」
さくら「・・・親指立てて、キメ顔してるけど、褒めてないからね」
七海「ほらほら、早く歩かないと、置いていくわよー」
  七海が歩くスピードを上げる。
さくら「はいはい。それじゃ、ペース上げるね」
七海「あ、ごめんなさい。調子づきました」

〇山の展望台
さくら「お疲れ様! 頂上に到着したよ」
七海「やったー!」
さくら「ふふ。ねえ、どう? 頂上に着いた感想は?」
七海「うーん。そうだね。やっぱり、達成感がすごいかな。あと・・・頂上から見える景色って綺麗だね」
さくら「でしょ? この瞬間が最高だから、私は登山が好きなんだ」
七海「うん。さくらがハマる理由、わかる気がする。私も、登山、好きになれそうかも」
さくら「そっか。それなら、七海も立派な山ガールなのかもね」
七海「やったー! これで彼氏ゲットできる!」
さくら「あのさー、七海」
七海「ん?」
さくら「私、山ガールだよね?」
七海「あんたが違ったら、誰が山ガールなのよ」
さくら「・・・知ってると思うけど、私、今まで彼氏いたことないよ?」
七海「さくら・・・。私、今日で山ガール引退するわ」
さくら「うん。そう言うと思った」
  終わり。

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