道玄坂渋谷怪談

つんこ

スクランブル少女(脚本)

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〇簡素な一人部屋
  俺は新田 悟(にった さとる)
  自宅で働く在宅ワーカーだ
  殆どの仕事はオンラインで片付いてしまうのだから、いい時代になったものだ
  仕事の合間に音楽を聴いても、映画を見ていても、誰に怒られることもない
  そんな俺が最近ハマってるのがライブ映像だった
  ライブと言ってもユーチューバーやアイドルではない

〇渋谷駅前
  俺が見るのは渋谷スクランブル交差点のライブ映像だ
  特に集中して見る必要なんかないし、たまに面白いものも映る
  例えばアレ
  仲間4人がベッドを運び、グループの中心となる男が交差点のど真ん中でベッドの上で寝ている
  カメラで撮影してるみたいだから、もしかしたらユーチューバーかもしれない
  アッチではコスプレ撮影会か?
  信号が変わるまでの短い間に撮影会が始まるのはよくあることだ
  ライブ映像だから渋谷で何が起きてるかリアルタイムで知ることができる
  ライブ映像に事故現場が映ったこともあったらしい

〇渋谷の雑踏
  クリスマスや大晦日、ハロウィンなんてイベントの日はお祭りだ
  バカ騒ぎしたい若者と勤勉な公務員のカオスなパーティーが始まる

〇簡素な一人部屋
  こうしてライブ映像をツマミに仕事をしてるわけだ

〇渋谷のスクランブル交差点
  渋谷スクランブル交差点のライブ映像に、誰も映らない時があると思うか?
  実はたまにあるんだ
  始発の発車前後になると、だーれも映らない時が稀にある
  だがその日は始発の時間ではなく、深夜2時を過ぎた時間帯だった──

〇簡素な一人部屋
  俺は夜型の人間だから、仕事も夜から始めている
  流石” 眠らない街”だけあって深夜になってもそれなりに人通りがある
  ある時、フッとなんの音も聞こえなくなった
  ちょっと気になり、仕事の手を止めてモニターの方を見ると

〇渋谷のスクランブル交差点
「こんな時間に珍しいな・・・」
  無人の渋谷だ
  どれくらい人が映らないか興味が出た俺は、映像を凝視していた
  そしたらなんか・・・
  ビルの影あたりに、人が映ってるような気がしたんだ

〇渋谷のスクランブル交差点
  その時は気のせいだと思ったんだ
  すぐに人が戻りはじめたから、その日は仕事に戻ったよ

〇簡素な一人部屋
  その次の日もいつも通り仕事を始めた
  すると・・・

〇渋谷のスクランブル交差点
  同じ時間に渋谷から人が消えた
  正確には人が消えたわけではない
  人の形をしたものが見える
  映像が荒くてよく分からないが、子供のような容姿だ
「こんな時間に子供が・・・?」
  通報すべきか考えているうちに・・・

〇渋谷のスクランブル交差点
  元の渋谷が姿を取り戻す
  子供の姿も見失ってしまった
  頭の中で気にしながらも、俺は仕事に戻ることにした

〇簡素な一人部屋
  この現象が奇怪なものだと気付いたのは、3日目だった
さとる「二度あることは三度あると言うが・・・」

〇渋谷のスクランブル交差点
  またも渋谷の時間が止まっていた
  今回もあの子供が画面に見える
  どうやら毎回違う場所に出現するらしい
  前回よりも少しハッキリ見え、その佇まいから少女のような印象を受ける
  もう1つ気付いたことがある
「動かない・・・」
  信号を渡るワケでなく、スマホをイジるワケでなく、途方に暮れる様子もない
  ただ一点を見つめているような・・・
  どこを見ているのだろう?

〇簡素な一人部屋
  冷や汗が背中を伝い、全身に悪寒が走る
  ソレがコッチを見ていた気がしたから

〇渋谷の雑踏
  4日目、あの現象の時間も分かった
  2時30分になると、約1分間少女が現れる
  最早仕事そっちのけで時間になるのを待ち続けていた
  そして、その時が訪れる──

〇渋谷のスクランブル交差点
  先程までは確かに人がいたのに、忽然とその姿が消えた
  まるで映像が切り替わるように・・・
  いや、異常はそれだけではない
  照明も何もかも、信号機さえ動いていない
「これまでと様子が違う・・・」
  月明かりの光を頼りにあの少女を探すが、意外とすぐに見つけることができた
  暗闇にあるハズが、その姿はより鮮明さを増している
  そうか・・・
  ハッキリ映るようになったんじゃない、この少女は近付いているのだ
  最初はビルの影、電柱、横断歩道前、そして今、交差点のど真ん中でカメラを見つめている

〇簡素な一人部屋
  俺はあまりの恐ろしさにPCを電源ごと落として映像を止めた
  これ以上アレを見るのは危険だ
  脳が危険シグナルを出していた

〇簡素な一人部屋
  突然部屋の電気が消えた
さとる「何だ?停電か・・・?」

〇渋谷のスクランブル交差点
  いつの間にか電源を落としたハズのPCが起動し、例の映像が映し出される
  そしてヤツが・・・
  遂に画面の前で俺を見続けている
  逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい

〇簡素な一人部屋
  金縛りにあったように身体が硬直していた
  とにかく朝、朝さえ来れば必ず助かるハズ!
  藁にもすがる思いで強引に身体を動かし、その場から逃げ出そうとした

〇黒
  だが、後ろを振り返った瞬間見てしまったのだ
  そうか・・・
  一度目線を外し、再び少女を見た時・・・
  ヤツは近付くんだ・・・
  窓ガラスに反射するモニターの画面が、一瞬視界に入っただけなのに・・・
  もう、ソイツは渋谷にいない・・・
  動いている・・・ヤツは確実に近付いてきている・・・
  見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない
  これ以上ヤツを見たら一体何が起きるのか・・・
  俺は両目を手で覆う以上のことができなくなっていた
  一歩、また一歩、近付く音が聞こえる
  怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
  見たくない見たくない見たくない見たくない
  ワタシヲ
  ミナイデ

〇血しぶき
  完。

コメント

  • おもしろかったです!
    本文で「おいおい、語り手が死んでるのに語られてるよ」とか思ったところでの作者コメント! 見事でした!

  • モノローグの使い方が上手いですね!TapNovelではあまり見かけないスタイルですが、こういった形でも読みやすく面白いものが作れるのかと勉強になりました
    画面効果の使い方も的確かつ工夫があってとても良かったです
    切り口を変えた作者コメントも一粒で二度美味しい感じでお見事でした!

  • 夜中に読んだ事を後悔しました(笑)
    PC、テレワーク、ライブカメラ…怪談とは無縁そうな所からじりじりと近づいてくる恐怖の演出にやられました😨
    主人公が見たものは本当に存在したのか?あとがきの後日談込みで面白かったです☺️

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