ありふれた約束

かわむらけんたろう

エピソード1(脚本)

ありふれた約束

かわむらけんたろう

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〇モヤイ像
  ・・・そうだ
  あれから12年も経つのか
  俺が初めてユキと二人だけで
  渋谷に来た日から

〇大学の広場
  ユキと出会ったのは
  サークルの新歓シーズンだった
ユキ「あのー 見学したいんですけど」
ヒロ「新入生? それなら来週 新歓ライブあるから 観にきてよ」
ユキ「じゃあ チラシください!」

〇ライブハウスのステージ
  一週間後
ヒロ「おっ 来てくれたの?」
ユキ「あちこち検討中なので 他のサークルのライブも 観て回ってるんですけどね」
ヒロ「比べるのは当たり前だからね 来てくれてありがとう!」
ヒロ「よかったら 終わった後の打ち上げにも 参加してよ」
ユキ「はい!」

〇大衆居酒屋
ヒロ「へー ユキちゃんは マスコミ志望なんだ」
ユキ「そうなんです 音楽はあくまで趣味で」
ヒロ「ウチのサークルにも プロミュージシャン志望はいないなあ」
マサ「おいヒロ! お前、今なんつったあ!?」
ヒロ「げっ マサさん・・・」
マサ「俺は ビッグなミュージシャンになるぞお!」
ヒロ「あーはいはい すいませんでした」
ヒロ(この人酔うと これだからなあ)
マサ「ところでそこの新入生」
ユキ「は、はい」
マサ「実はうちのサークルに テレビの観覧の依頼が来ていてな」
マサ「マッスルガールズがゲスト出演する 番組の観客をやってみないか?」
「えっ マッスルガールズ?」
マサ「そういや ヒロも好きだったな」
マサ「いかにもバンドやってる っていう感じの観客が欲しいそうだ」
マサ「来週土曜の13時に 渋谷のテレビ局に行ってくれ」
ユキ「昨日 私の部屋にも 受信料払えって人が来たんです」
ユキ「受信料分は 楽しんできますよ!」

〇モヤイ像
「センパーイ」
ユキ「お待たせしましたー って」
ユキ「また随分 ベタな格好ですね」
ヒロ「そういう自分こそ」
「ベタな待ち合わせ場所に ベタな服装・・・」
ユキ「ふふっ」
ヒロ「ハハッ」
「ハッハッハッ・・・」

〇大学の広場
  その日から俺とユキは
  恋愛関係には至らなかったが
  仲のよいサークル仲間になった
  それから半年後の
  ことだったろうか

〇男の子の一人部屋
ヒロ(ん? ユキから?)
ヒロ(こんな時間に 一体何だ?)
ユキ「もしもし ヒロさん?」
ユキ「今起きてました?」
ヒロ「寝てたとしても 今ので起こされてたけどな」
ユキ「ご、 ごめんなさい! もう、いいです」
ヒロ「ちょっ ちょっと待った」
ヒロ「ごめん そういうつもりじゃなかった」
ヒロ「何かあったの?」
ユキ「実は」
ユキ「同じ語学のクラスの男子に 告られて」
ユキ「どうしたらいいのかなって」
  その時
  俺の胸が少しチクッとした
ヒロ「どうって言われても」
ユキ「ヒロさんは 私が誰かと付き合っても 別になんとも思わないですか?」
ヒロ「そ、それは」
  この時の俺には
  勇気が足りなかったのだ
ヒロ「ユキが誰と付き合うかなんて 俺がとやかく言えることじゃないよ」
ユキ「そうですよね」
ユキ「遅い時間にすみませんでした」
ユキ「おやすみなさい」

〇大学の広場
  その電話の後も
  ユキが俺に対する態度を
  変えることはなく
  それまで通りの
  友人関係は続いた

〇大学の広場
  程なくして
  俺はサークルの後輩から告られて
  付き合うことになった
  カノジョは
  俺とユキが付き合っているものと
  思っていたが
  ユキが彼氏と歩いているのを目撃して
  チャンスがあると思ったのだそうだ

〇男の子の一人部屋
  あれは俺が地元の銀行に
  就職が決まった頃のことだった
ヒロ(何だ? こんな夜中に)
ヒロ「もしもし」
「ビロ゛ざーん?」
ヒロ「なんだユキか お前酔っ払ってるのか?」
ユキ「そりゃあ 飲まなきゃやってらんないですよ」
ユキ「どうして男ってのは ああいう・・・」
ユキ「ねえ」
ヒロ「うん?」
ユキ「もしもですよ」
ユキ「お互い30歳過ぎても独身だったら」
ユキ「私たち結婚しましょうよ」
ヒロ「はあ?」
ユキ「あ、く、ま、で!」
ユキ「独身だったら、ですよ」
ヒロ「は、はあ」
ユキ「どーなんですか?」
ユキ「私ごときじゃ駄目ですか!」
ヒロ「いや そんなことはないけど」
ヒロ「でも俺カノジョいるし」
ユキ「だーかーらー! 独身だったらです!」
ユキ「カノジョがいても 入籍してなかったら」
ユキ「渋谷のモヤイ像に来てください!」
ユキ「それで!」
ユキ「私と結婚するんです!」
ユキ「わかりましたね!?」
ヒロ(電話切られた)

〇オフィスビル
  卒業後の俺は
  カノジョとは別れてしまったが
  ユキとも何とはなしに
  連絡の回数が減り
  段々と疎遠になってしまった

〇一戸建て
  俺は職場の同僚と結婚し
  家を買ったが
  妻の浮気が原因で離婚し
  ローン付きの家だけが残った

〇モヤイ像
  久しぶりに渋谷に来たのは
  新しくなった渋谷公会堂で
  マッスルガールズの解散ライブが
  あるからだ
ヒロ「そういや昔ユキの奴」
ヒロ「30歳で独身だったら モヤイ像の前に来いとか言ってたな」
ヒロ「バツイチでも」
ヒロ「独身に該当するんだろうか?」
ヒロ「そもそも俺が 立っているかどうか」
ヒロ「どうやって確認するつもりだったんだろうか」
ヒロ「って 何を考えてるんだ俺は」
ヒロ「そろそろ開場の時間だ 急がないと!」

〇モヤイ像
  ライブ終了後
ヒロ「青春が終わっちまった」
ヒロ「って感じだな」
ヒロ「ま、明日からも社畜として」
ヒロ「キビキビ働くしかねーんだけどな!」

〇モヤイ像
ユキ(あれ、今の人って)
ユキ「まさか、ね」
ユキ「また明日から仕事して」
ユキ「来週の合コンで いい男を捕まえよっと!」

〇モヤイ像

〇モヤイ像

〇モヤイ像
  END

コメント

  • 最後の終わり方に「あーっ!」とどこか奥ゆかしい歯がゆい感情になりましたが、案外こういうもどかしさが日常に溢れているのかも知れませんね🥲お互いが幸せと思う道を歩いて欲しいです😌

  • えー!って最後に叫んでしまいました。どこまでも上手く交わらない二人の関係に歯がゆさを感じてしまいます。それでもお互いの事を気にしている二人、いつか結ばれてほしいなあ。

  • 学生時代からすれ違っていた2人最後もお2人らしいななんて思ってしまいました笑出会えてればもっと良かっただろうけど出会えなかったってのが2人らしいオチだなって思いました!笑

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