仕方なく始まった僕たちのラブゲーム

悠々とマイペース

始まりの話(脚本)

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〇通学路
  今日から始まる新学期に憂鬱さ全開で猫背のまま通学路へと向かっていた。
(帰りたい・・・。 帰って2度寝したい)
  嘆息を何度も吐き出しながら、変わらない風景が嫌でも視線に入る。

〇学校脇の道
  通う学園の場所まで後、坂1つといった所で俺の肩を軽く叩く奴が現れた。
木枯 春人「いよっす、成行(なりゆき)! そんな朝から暗い顔じゃ新学期そうそう大変だぞ〜」
「春人(はると)か。 お前は朝から元気いいな」
木枯 春人「そりゃあ、元気ないと空気も暗くなるからな!」
  ガッツポーズでハイテンションのこの男は、古くからの友人・・・いや、幼馴染の木枯(こがらし) 春人(はると)である。
  俺とは真逆の元気の塊にしてスポーツ万能の高校球児だ。
「それで、春人はどうしてこんな遅い時間に?」
木枯 春人「そりゃあ、お前を待っていたからさ」
「えっ?」
木枯 春人「なんてな〜。 今日は自主練してたら遅くなったついでにお前を見つけただけさ」
  相変わらず冗談を言って笑う春人に笑みを返し、談笑しながら坂を登る。

〇合否発表の掲示板
  合否発表をクラスの学園証と同じ番号に使い回すため、合否発表が降ろされていない。
木枯 春人「おー、今年はクラス違うか〜」
「毎年同じクラスだったら、逆に怖いだろ?」
木枯 春人「ふっ、そりゃあ運命だな」
「そんな下らない事言ってる暇あるなら、さっさと部室に行ったらどうだ?」
木枯 春人「やばっ! そうだった、今日のミーティング忘れてた!」
木枯 春人「ナイスアシスト」
  鞄片手に走り去る春人を見送り、俺はゆっくりと校内へ進む。

〇空
「あー、さぼりてぇ〜」
  空を見ながら屋上に居る俺は、誰も居ない場所で呟きをする。
  始業までの時間、大抵はこの屋上で過ごす。
  なぜなら──
(ここで、主人公を登場させるべきか・・・)
  小説家を夢見る者だからである。
  夢という名のノート手帳をメモ代わりに昼休みや朝の始業までの時間をこの屋上で小説を描いていた。
「やべっ! そろそろ戻らないと・・・」
  携帯のアラーム機能が鳴り、電源を落として屋上を後にする。

〇体育館の舞台
校長「・・・で、あるからして、本年度も──」
  相変わらず長い校長の話にうんざりしながら、ふとある違和感に気が付く。
(・・・あれ?)
(あれあれあれ?)
  いつも欠かさず胸ポケットに入れているはずの手帳が無い。
  血の気が引いた感覚が身体中に巡り、今からでも飛び出して行きたい気持ちを必死に抑えながら思考を巡らす・・・

〇学校の屋上

〇学校の廊下

〇階段の踊り場

〇教室
教師「それで、今年の2年生だが・・・」
  教師の言葉も耳に入っていない。
(あの時か〜!!)
  窓側の最後尾の席で叫び声を出しかけるが、何とか留まった。
  そう、数時間前に学園一の美少女と漫画のようなぶつかり方をしたのである。
(あの時しかあり得ん! いや、まてまて、まだ屋上で落とした可能性もある!)
(だが、もし、もしもあの時手帳を落としたのなると、中身も当然・・・)
教師「それで、2年生初のテストを・・・」
「えー!?」
教師「テストと言っても去年のおさらいみたいなものだ」
「ぐぬぬぬっ・・・」
教師「でも、小テストみたいなものだから、気楽にチャレンジしてほしい」
  ──いや、確かあの手帳にはブックカバーとフェイクの手帳の二段構えのはず・・・
  そうそうバレる事なんかない・・・はずだ。
(ふむ・・・)
教師「──と、いう事を守ってほしい。 今回は以上、来週からまた普段通りの授業になるから忘れるな!」

〇学校の廊下

〇階段の踊り場

〇学校の屋上
  何年か振りの全力ダッシュで階段を登りきった俺は、すぐさま屋上を見て回る。
「・・・ぜいっ・・・ぜいっ──」
北川 奈子「あら、春人さん。 こんにちは、そんなに肩で息をするほど走って何か御用でしょうか?」
「あ・・・あの、この辺に手帳みたいなもの、落ちてませんでしたか?」
北川 奈子「手帳ですか? さぁ、この辺りにはありませんでしたわ?」
「そうでしたか、よかっ──」
  次の瞬間、胸ポケットから取り出した手帳を彼女はまるで新しいおもちゃを手に入れた子どものような笑みを浮かべ・・・
北川 奈子「夢の小説家志望さんの手帳なら偶然階段下でぶつかった拍子に拾いましたわ」
「─────んなっ!?」
北川 奈子「とても面白い手法でしたわ。 ダミー用の手帳の裏にブックカバーと一緒に本命を隠すなんて──」
北川 奈子「まるで子供だましみたいですぐに気付きましたわ」
「そ、それって他に誰かに?」
北川 奈子「ご安心下さい。 誰にも言ってませんわ、”まだ”」
「まだ、という事は、何かと交換ですか?」
北川 奈子「あら、もう気付きましたのね?」
「わかりやすいように最後に付け足して言いましたから・・・」
「でも残念ながら、金持ちでお嬢様の貴方に渡せるものは一つもありませんが・・・?」
北川 奈子「あるじゃない、貴方自身よ」
「は?」

〇空
  私には好きな人が居る。
  その人は、明るく賢い、その上スポーツも万能だ。
  逆に悪く言えば、模範的な人。
木枯 春人「いよっす成行!」
「────」
  成行と呼ばれた人物は、勉学も中の下で運動もそこまで出来るような人でもない。
  ただ昔からの馴染程度だけ、そう思っていたのに・・・
木枯 春人「いよっす成行、帰ろうぜ〜」
「──だ──?」
木枯 春人「いやいや、今日は部活休めって言われてさ〜」
  どうして、あの人は彼と会う時だけあんなに楽しそうな顔をするのだろう・・・
  私には分からなかった。
  だから・・・

〇階段の踊り場
「急いでて、すみません!」
北川 奈子「い、いえ。 大丈夫ですので」
  あの時、手帳を拾って秘密を知ったのは、奇跡だと思った。
  だからこそ、この奇跡を存分に利用させて貰うわ・・・。

〇学校の屋上
北川 奈子「──という事にしたいからよろしくね?」
「・・・・・・”庶民生活”を体験?」
北川 奈子「そうよ。 何か問題ある?」
「ちなみに、拒否権は──」
北川 奈子「うふっ」
  笑顔で手帳を見せびらかす彼女に首を縦に振るしか選択肢がない。
(・・・悪魔め)
北川 奈子(絶対利用するんだから・・・)
  こうして、秘密を握られた者と秘密を握る者の関係が始まった・・・。

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