渋谷のばあさん

金木犀

エピソード1(脚本)

渋谷のばあさん

金木犀

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〇ハチ公前
  2022年 冬の渋谷ハチ公前
  俺は今日もここで人間観察
  色んな人間が見れて面白い
  ナンパに失敗したやつだったり
  かわいい子を発見したり
  ここで人間観察をするのが好きだった

〇ハチ公前
???「あの、、、まさゆきさん??」
俺「??」
ばあさん「まさゆきさん、こんなところでなにしてるんですか?」
  突然知らないばあさんに話しかけられた
俺「すいません、人違いかと・・・」
  俺はまさゆきではない。完全に人違いだ。
ばあさん「今日はとってもいいお天気ですね」
ばあさん「こんな日は絵を描きたくなるわ」
俺(このばあさんボケてるのか・・・??)
俺「そうですねー」
  俺は適当な相槌をうった
  しばらく、
  ばあさんはたわいもない話をして
  帰っていった

〇黒
  数日後

〇ハチ公前
ばあさん「まさゆきさん、今日もここにいるのね。 会えてよかったわ」
俺「まぁ、ここが好きなんで・・・」
  俺は完全にまさゆきとなっていた
  ハチ公前に来ると必ずばあさんに会うようになり
  いつのまにか俺はばあさんの話し相手となった

〇黒
  数日後のある日

〇ハチ公前
ばあさん「まさゆきさん、寒いでしょマフラー編んできたのよ」
  ばあさんは紙袋に入ったマフラーを俺にくれた
俺「えっ、俺にくれるの・・?」
俺「ありがとう!」
俺「・・・ でも俺まさゆきじゃ──」
ばあさん「まさゆきさん、風邪ひかないように」
ばあさん「寒いから暖かくするのよ」
  ばあさんは俺の言葉をさえぎって
  帰っていった

〇ハチ公前
  俺はもらった紙袋を開けてみた
  暖かそうなマフラー
  なんだか愛情がすごくこもっている気がした
  でも俺はまさゆきではない・・・
俺(なんだこれ・・・?)
  名刺みたいなのが一緒にはいっていた
  名前:霞田きよ子
  電話:●●●-●▲●-●▲▲●
  住所:東京都渋谷区●●××
  これはばあさんの名前なのか・・・?

〇黒
  あの日以来ばあさんは姿を見せなくなった

俺(ばあさんどうしたんだろう・・・)
  気がかりで仕方なかった

〇ハチ公前
  俺はずっとばあさんの事を心配していた
  何かあったんじゃないかと脳裏によぎる
  書いてあった電話番号に
  思い切って電話をかけてみた
  ──────
  おかけになった電話番号は現在使われておりません
  呼び出し音が鳴ることはなかった
俺(・・・)
  俺はふとスマホでばあさんの名前を検索してみた
  とりあえず少しでも手掛かりがほしかった
  霞田きよ子 渋谷|
  霞田きよ子 絵本作家
  代表作は「お空の──
  検索がヒットした・・・
  ばあさんはどうやら有名な人らしい
  顔写真も載っていてばあさんと一致した
  検索結果を読み進めていく
  ────2021年 
  渋谷区××付近で──
  死亡
  夫を探して徘徊し体力消耗が原因か──

〇白
  頭が真っ白になった
  ・・・2021年!?
  1年前ってどういうことだよ・・・
  俺は震える手で調べ続けた

〇黒
  1938年 渋谷──

〇路面電車
  路面電車に人が並び 桜の花が舞う朝
きよ子「まさゆきさん今日も一緒ね」
まさゆき「今日も一緒に行けてうれしいよ」
きよ子「こんな晴れた日は空をスケッチしたくなるわ」
きよ子「今度また一緒に絵を書きにいきましょう」
まさゆき「もちろん!一緒に書きに行こう!」
  幼馴染のきよ子とまさゆき
  二人は数年後に結婚した

〇黒
  結婚してどのくらいの日がたっただろうか
  戦争が次第に激しくなり
  まさゆきは兵隊へと送り出されることになった

〇古い畳部屋
きよ子「いよいよ明日ですね・・・」
きよ子「まさゆきさんが兵隊に行かれること光栄です」
まさゆき「ああ、家のことをよろしく頼むよ」
まさゆき「・・・・・」
まさゆき「私はきよ子と出会えてよかったよ」

〇黒
きよ子(本当は行ってほしくなんかない)
きよ子(ただずっとそばにいて欲しいです)
きよ子(どうかご無事であってください・・・)

  翌日まさゆきは戦地へとおくりだされた
  ──────────
  その後まさゆきは
  二度と家に帰ることはなかった
  それでもきよ子は
  まさゆきが帰ってくるとずっと信じていた

〇黒

〇ハチ公前
  俺は混乱していた・・・
  ばあさんは亡くなっていて──
  まさゆきさんと間違えて俺に会いにきたのか──
  いや・・・俺に何かを頼みたかったのだろうか
  いてもたってもいられなくなり
  俺は名刺に書いてある住所をスマホで調べ
  歩き始めた

〇住宅地の坂道
  30分ぐらい歩いただろうか──
  道路から外れた道へと曲がる
  そこにあったのは──

〇墓石
  お墓だった
  ばあさんの名前の墓を見つけた
  俺は思った
  自分が死んだって気づいてないばあさんは、まだまさゆきさんを探していたのかも知れない──
俺(ばあさん・・・俺の思い違いだったらごめん)
  ばあさんからもらった
  ふわふわのマフラーをお墓にかけた
  そして手を合わせて願った
俺(まさゆきさんへ 素敵なマフラーをもらいました)
俺(天国できよ子さんをみつけてあげてください そして2人で幸せになれますように・・・)

〇渋谷のスクランブル交差点
  俺は渋谷の雑踏の中へ帰ってきた
  消えない明かり
  なりやまない音
  スクランブル交差点の数え切れない人
  一人一人が色んな思いでここを歩き
  また明日を迎える
  誰が今どんな思いで歩いているかなんて
  他人には分からない
  ばあさんがどんな思いで
  まさゆきさんを待ち続けていたかなんて
  誰も分からない
  俺は知る事もない
  渋谷で生きた1人のばあさんの人生を
  少しだけ知れた不思議な体験をした
  大好きな人をずっと待っていただなんて──
  なんだかハチ公みたいだな──
  ばあさん、まさゆきさん
  次は戦争などない時代に
  出会えるといいね・・・
  そう願って
  俺は明日も渋谷へ向かう──

〇黒

〇宇宙空間
(ありがとう──)

〇黒

コメント

  • 切なくて、温かいお話でした。
    雑踏の中、たくさん人がいる中で、おばあさんが無意識に彼を選んだ理由がわかるような気がします。
    優しいんですよね。

  • 色々な世代が絡みあっている大都会、みんなに色々なドラマがあって、色々考えて進んでいる。そう思うと、人生って素敵ですね。いいストーリーでした。

  • 戦争の時代を生きた人々にはこんな悲しい物語がたくさんあるんじゃないかなあと感じました。
    こんなことはもう一生起こってほしくないし、世界でも戦争がなくなってほしいです。

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