山田真一

オスシトキオ

読切(脚本)

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〇白い校舎
  隣で、山田真一がつぶやいた。
山田真一「兄貴に呪いをかけてやった・・・」
山田真一「ご飯に海苔をぎゅうぎゅうに巻いて(お椀に盛った白米を箸でくるりと海苔で巻いて)」
山田真一「呪いの言葉を心のなかで唱えながら、」
山田真一「噛み砕くように食ってやった・・・」
  学校のグラウンドに下りる階段の、一番下に山田真一と並んで座り、
  お互いに今日は風邪気味で体育の授業を見学していた。
  クラスメイトたちが、サッカーの試合をしているところを能面のような顔色で眺めながら、
山田真一「血の憎きが運命だと言うのならば、」
山田真一「兄弟の図式というものは、虫けらに似て、残酷非道だ」
山田真一「弟は兄によって不当な暴力で虐(しいた)げられる」
山田真一「もう人間とは切り離して考えるしかない」
山田真一「俺はご飯に海苔をぎゅうぎゅうに巻いて、」
山田真一「呪いの言葉を噛み砕きながら、」
山田真一「食ってやった・・・」
山田真一「いつもの働きでとり行うほうが、」
山田真一「いっそうの呪いをかけやすいと思ったからだ・・・」
  山田真一の、激しく高鳴る心音が、
  隣で聞いていても、よくわかった。
  とどまることを知らないと言った様子の、
  何か力強さが感じられた。
  サッカーの試合が、終わった。
  何組かのクラスが集まって行われた試合である。
  体育会系の部活と、文科系の部活とに分かれたよくわからない試合だったが、
  16対4という大差で、
  文科系の部活が勝った。
  それこそが、今日一番の謎である。
  クラスメイトたちは、おのおの悲喜こもごものルツボにいた。
  山田真一は、続けた。
山田真一「じつは、この試合の結果も、」
山田真一「俺が呪いで操作したんだ・・・」
  山田真一が、にやりと笑った。
山田真一「干渉した、といったほうが正しいかもしれないな・・・」
  深海に沈んだものだけが見られるような、
  よどんだ誇らしい顔だった。
山田真一「それだけご飯に海苔をぎゅうぎゅうに巻いて食うことが、」
山田真一「俺の呪いを発動させるに足る箱になっていたわけだ・・・」
山田真一「その箱を開けたわけだから、」
山田真一「はからずも影響を与えてしまうのは、もはや必然だといっても過言ではない・・・」
  砂ぼこりが起こって、瞬間的に止まった。
山田真一「他にも影響を与える可能性は、」
山田真一「かなり濃厚なクリームチーズよりあるだろう・・・」
山田真一「たとえば、今朝の電車のダイヤの乱れとか・・・」
山田真一「その顔は、キミも乗っていたのか・・・」
山田真一「すまないな・・・。だが、まあこういう影響を与えてしまうのが、必然だといっても過言ではないから・・・」
山田真一「校長の鼻毛が遠目からでも、ものすごく多く飛び出していたのも、」
山田真一「俺の影響を受けてのことだろう・・・」
山田真一「ご飯に海苔をぎゅうぎゅうに巻いて、」
山田真一「キミも試してみるかい・・・?」
  体育教師の整列をうながす笛の音が、高らかに響いた。
山田真一「試してみるかい・・・?」
山田真一「ハハハ・・・」
  山田真一は、去って行った。
  教室へと。
  悲喜こもごものルツボにいるクラスメイトたちと、一緒に紛れるように。
山田真一の双子の兄・壮一「・・・」
  山田真一の双子の兄である山田壮一は、ただ黙って弟の話を聞いていたが。
  弟がそんなことを考えていたなんて、大ショックである。
  心当たりのないことばかり。
  一人、空を見上げた。
  ちなみに山田壮一は、隣のクラスである。
  好物は、エビフライ。
  (了)

コメント

  • 発想がとても楽しくて最後までクスッと笑いながら読ませて頂きました。テンポがとてもよくて最後まで一気に読ませて頂きました。

  • ごはんに海苔をぎゅうぎゅう、私は、巻き寿司を想像して読みました。巻き寿司で呪い発動って発想がユニークですね!しかも文系が謎の勝利とか、偶然なのか、地味に呪いかかっててるのか、いやこんなこと起こるはずがない、、、かかってるんだろう、と思いこませに来る感じがおもしろかったです。

  • おにぎり、、、?を連想させる動作ですがまさかそれがトリガーになっていたなんて笑ってそして呪いの話をしていた相手がまさかのオチで笑いました笑

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