エピソード30『番外編・グリーン・パル』(脚本)
〇荒廃したセンター街
ブラック・ダド「大丈夫だ、私がきっと救ってみせる!」
荒く息をする彼に、ボクは運ばれた。
彼の背で揺れに揺れる。
〇空
・・・いつしかボクは高い空を飛んでいた。
2034年、アラスカ『ホーム』。『グリーン・ブラザー』
〇魔法陣のある研究室
気がついた時、ボクは培養液に浸かっていた。動かせる四肢は無い。
・・・匂いを感じることも、
・・・味を覚える事も出来なくなっていた。
ブラック・ダド「絶対に、絶対に救ってみせる!!」
白髪の混じった頭髪を掻き毟り、
『父さん』は必死に電子パネルを弄っていた。
眼下にはボクを大事にしてくれた
『レッド・ボーイ』もやって来ている。
レッド・ボーイ「大丈夫だ『ブラザー』。お前を選んでくれた父さんだ。 絶対に、絶対にお前は助かる! 安心して眠っていろ」
〇黒背景
・・・・・・一瞬ごとに記憶は飛んだ。
〇魔法陣のある研究室
気が付くと、いつも『ダド』がボクの前でパネルを弄っている。
その隣へ、
今度は『ピンク・ガール』がやって来た。
ピンク・ガール「・・・・・・言ったっけ。あんたに」
────何を?
ピンク・ガール「あたしたち3人、みんな拾われっ子なんだよね」
ピンク・ガール「『ボーイ』も『マム』もあたしも、 みんな、みんな『ダド』に拾ってもらったの」
ピンク・ガール「何も持たないあたしたちを、『ダド』は選び拾ってくれたの」
──『ジャンク』なのか? キミたちは。
ピンク・ガール「まぁ、あんたたちの言葉を借りるなら、そうなんだろうね。 別に恥ちゃいないけど」
ピンク・ガール「・・・まぁ、」
ピンク・ガール「あんた、選ばれたんだよ。『ダド』に。 だから・・・」
ピンク・ガール「安心しなよ。『グリーン・ブラザー』」
照れくさそうに頭をかいて、
『ガール』もここから去っていく。
〇黒背景
記憶は飛び、どれだけの時間が経過したのか解らない。
パネルを叩く『ダド』の姿ばかりが眼に映った。
全てに、感謝しか無い。
しかし、・・・・・・
〇魔法陣のある研究室
身体の培養は、──成功しなかった。
『ダド』がボクに懺悔する。
一因に、頭骨内まで侵した『ペスト』の浸食部位が大きい、との事だ。
言葉にならないけど。ボクは必死に訴えた。
別にボクは生きていたくない。
薄汚い『ヒト』として生きるなら死んだ方がましだ!
もう、もう、『ヒト』は嫌だ!!
『ダド』はボクの目をずっと視ていた。助かる事の無いボクをずっと。
泣くことも無く、ずっと、じっと、ボクを視ていた。
この場から去った『ダド』は、
ボクの前に小さな基盤を持ってきた。
首を折り悔しそうに俯いて、
ブラック・ダド「この身体で、・・・許してくれるかい?」
・・・って。
〇魔法陣のある研究室
『ダド』が本を片手に基盤を睨む。電子ペンで細かい回路と格闘を続けた。
その間ボクは『ガール』に訊ねた。
培養液の器の中、崩れた口角を必死に動かし1つだけ問うた。
──『マム』は?
それに、
『ガール』は苦々しく微笑むだけだった。
ピンク・ガール「『マム』は、『奈夢《なゆめ》 』を殺されて戦意喪失。 それを誤魔化すように職務へ没頭してるよ」
ピンク・ガール「あんたの事を話したらもしかしたら変わるかも? 伝えようか?」
ボクは首を振った。
支点を持たずに、ただ液体の中を回っただけだけれど。
ピンク・ガール「あっそ」
自嘲気味に笑い『ガール』は去っていく。
〇魔法陣のある研究室
『ボーイ』が来て教えてくれた。彼は首の後ろを掻きながら話した。
レッド・ボーイ「『マム』のインコ『奈夢《なゆめ》 』は『フォーチュン』に殺された。 クレー射撃、と称してヤツに撃たれた」
レッド・ボーイ「ヤツが騒ぎを起こした前の日の事だ。 それからヤツの討伐に『ダド』が向かい、後は知ってるよな」
『ボーイ』は真剣な眼差しでボクを睨みつける。
培養タンク下部のパネルに手のひらを押し付け、懇願した。
レッド・ボーイ「おまえ、『マム』のチカラになってくれないか? ・・・いや、これは俺が言う事じゃないな。今のは忘れてくれ」
レッド・ボーイ「『ブラザー』。 もし、もし体が元に戻ったら、また一緒にゲームしようぜ! 楽しみにしてる!」
片手を挙げて『ボーイ』も去っていく。
『ダド』は気が付くといつもボクの管理をしていた。
きっと職務を皆に任せているのだろう。
『ダド』はボクの身体の事ばかりに時間を費やしてくれた。
『ホーム・ホルダー』の皆に、全ての皆に感謝の想いばかりが募った。
そしてボクは、『ブラック・ダド』自らの手で、
──『不細工な電子チップ』へと生まれ変わった。
〇豪華な部屋
身体の全てを失った。行動することも出来なくなった。
その代わり、回路と目、耳、そして電子音声を手に入れた。
ブラック・ダド「『ブラザー』、私はキミを『王留』の核《コア》 に移そうと考えているんだ」
ブラック・ダド「どうだい? 世界最強のチカラの源《もと》 と成るのは」
ブラック・ダド「そうすれば、キミはどんな敵にも、どんな不条理にも負けることは無くなる。最強となれる」
「父さん」
ブラック・ダド「なんだい? 『ブラザー』」
「ボクを、ふかふかな『ぬいぐるみ』の中へ容れてくれないかな?」
ブラック・ダド「何を言っているんだい。キミは唯一無二の存在に成れるのだよ? 人形の中に入ってどうす・・・」
ブラック・ダド「・・・そうかい。キミが望むなら好きにするといい。 一番可愛い、世界一ふかふかな『インコ』の身体を用意しよう」
──数日後、
ボクは特注ふかふかモフモフの『緑色のインコぬいぐるみ』に入り『ダド』の手で『マム』の元へと届けられた。
〇貴族の部屋
ヒト腹 創《ヒトハラ ツクル》「やぁ♪ はじめまして!」
『マム』はゴミを見るような眼でボクを視ていた。
ヒト腹 創《ヒトハラ ツクル》「ボクは世界一賢いインコさ♪ よろしくね『パープル・マム』」
パープル・マム「『ダド』ね」
パープル・マム「アナタ、『奈夢(なゆめ)』の代わりとして来てくれたのでしょうけど無駄よ。 あの子の代わりなんて誰も出来ない」
パープル・マム「どんなに時間を経てもアナタがあの子の代わりになることは無い。 ・・・消えなさい」
〇おしゃれな居間
ボクは丁重に、梱包に梱包を重ねて『ダド』の元へ送り返された。
〇貴族の部屋
ヒト腹 創《ヒトハラ ツクル》「おはよう『マム』♪ 今日は日差しが気持ちいいね!」
〇洋館の廊下
完璧な身支度を終えた完璧な『マム』に無視され、
職務へ向かう彼女に廊下へ置いていかれる。
〇貴族の部屋
ヒト腹 創《ヒトハラ ツクル》「今夜はどんな食事が出るだろうね? ボクは食べる事が出来ないからキミが羨ましいよ!」
ラッピングごと、部屋の外へ足蹴にされた。
〇貴族の部屋
ヒト腹 創《ヒトハラ ツクル》「おはよう♪」
パープル・マム「・・・・・・」
〇貴族の部屋
ヒト腹 創《ヒトハラ ツクル》「お疲れ様♪」
パープル・マム「・・・」
〇貴族の部屋
ヒト腹 創《ヒトハラ ツクル》「おやすみ♪」
パープル・マム「・・・・・・・・・」
〇洋館の廊下
掃除に来るおばさんもボクを避けている。
怪訝な顔で皆がボクを観ていた。
ヒト腹 創《ヒトハラ ツクル》「・・・・・・」
〇洋館の廊下
────ボクに埃が積もり始めた、そんな冬の日の事だ。
世間は寒くともボクにはどうという事は無い。
・・・それに、空腹というものも無い。
何か負の感情があるとするなら、
それは回路をすかすかにする『寂しさ』だけだ。
全然苦でも無い。
そもそもボクは、何も持ってなかったから。
〇貴族の部屋
けれど初めて『マム』が、
自室へボクを迎えてくれた。
パープル・マム「さ、寒くなかった?」
ヒト腹 創《ヒトハラ ツクル》「ううん。ありがとう♪ ボクなんかを心配してくれて」
パープル・マム「・・・ほんと、おかしな子ね」
ヒト腹 創《ヒトハラ ツクル》「でしょ!」
それからボクたち2人は、友達になった。
パープル・マム「今更だけど、 ・・・アナタ、お名前は?」
ヒト腹 創《ヒトハラ ツクル》「ぱ、・・・・・・友達《パル》?」
パープル・マム「名前、・・・無いの?」
ヒト腹 創《ヒトハラ ツクル》「恥ずかしながら、名前なんて、」
パープル・マム「なら、 私が名前をつけてあげましょうか?」
パープル・マム「うん、──しっくりきた」
パープル・マム「アナタの名前は、『グリーン・パル』」
パープル・マム「昔、少しだけ気になった男の子から引用。 ・・・気に入ってくれたら、嬉しいな♪」
ヒト腹 創《ヒトハラ ツクル》「ぴ、ぴ、 ピャーーーーーー!!!!」
ボクは回路が切れるほどの音で鳴いた。
ボクは『グリーン・パル』として、いつまでもこの人の傍に居ようと! 声を掛け続けようと!
この脳、電子回路で決めたんだ。
〇沖合
夕陽がまるで、ボクを笑うかのようにキラキラと、アラスカの海へ赤を映している。
こんなボクの姿を、認め、見守ってくれているかのように煌めいていた。
それは、いつか、何処かであった、
・・・アイツの笑顔のようにも見えた。
番外編『グリーン・パル』・・・おしまい。
ツクルの思いがマムの心を徐々に癒していって友達になっていく過程があたたかくて感動した😭👏✨
やっぱりななちゃんは凄いや( *˙0˙*)おぉ✨
続き楽しみに待ってるよ❗ななちゃんファイトー(o⚑'▽')o⚑*゚フレーフレー