〇組織のアジト
蛭間九傑「それでおめおめ戻ってきたと」
運転手「すいやせん・・・」
高木誘作「まぁまぁ、彼を責めるのはやめてあげなよ」
高木誘作「ある意味で、最良の選択をしたわけだからね」
蛭間九傑「・・・・・・」
蛭間九傑「あてはあるのか」
高木誘作「もちろん」
蛭間九傑「じゃあ──」
高木誘作「待った」
蛭間九傑「今度は何だよ」
高木誘作「その前に一つお願いを聞いてほしい」
蛭間九傑「お願い？」
高木誘作「そう」
高木誘作「樋口郷也に会わせてほしいな」

〇おしゃれな居間
樋口郷也「それで俺のもとへってわけか」
蛭間九傑「す、すいません」
蛭間九傑「どうしてもってこいつが聞かなくて・・・」
高木誘作「どうもはじめまして。誘拐プランナー、高木誘作です」
高木誘作「以後、お見知りおきを」
樋口郷也「営業しにきたのか？」
蛭間九傑「いえ、そういうわけでは──」
高木誘作「そのとおりです！」
樋口郷也「ほう？」
高木誘作「俺の腕、買いませんか？」
樋口郷也「だが、あんたは誘拐専門だろ？」
樋口郷也「今回、出る幕はないんじゃないか？」
高木誘作「いいえ、そんなことはありません」
高木誘作「見事に誘拐してみせましょう」
高木誘作「樋口様の大事な拳銃をね」
蛭間九傑「お、おい！　何を言ってるんだ！」
樋口郷也「その通りだ。生憎、先約がいるんだよ」
高木誘作「でも彼、一度失敗しましたよ？」
高木誘作「しかも随分と手の込んだ作戦を仕込んで」
蛭間九傑「なっ！」
樋口郷也「・・・確かにな」
蛭間九傑「ちょ、ちょっと！　樋口さんまで！」
高木誘作「いったい彼にいくら払う約束したんですか？」
高木誘作「自分ならそれより下回った価格で引き受けますよ」
蛭間九傑「おい、誘拐屋！」
蛭間九傑「てめぇ、はじめからそのつもりだったのか！」
高木誘作「騙し騙されがこの世の常だ。恨みっこなしだぜ」
蛭間九傑「よくもぬけぬけと！」
樋口郷也「やめろ！　見苦しい！」
（び、ビビったぁ・・・）
樋口郷也「確かに誘拐プランナーの言うとおりだ」
樋口郷也「この世は弱肉強食だ。だというのに、弱者が権利をなんの疑いも持たず主張する風潮には反吐が出る」
樋口郷也「強いやつがより強い権利を主張できる。それがこの世界の言う平等ってやつなんだよ」
蛭間九傑「しかし──」
樋口郷也「お前は失敗した」
樋口郷也「なんのペナルティもないってのは、不平等だよな？」
蛭間九傑「ぐっ・・・」
樋口郷也「だが誘拐プランナー。わかってると思うが、ただ拳銃を奪い返すだけじゃ駄目だ」
樋口郷也「平川盗愛。やつの命も奪え」
高木誘作「もちろんですとも」
樋口郷也「事件屋に約束したのは五千万だ。あんたはいくらでやる？」
高木誘作「四千万で」
樋口郷也「よし。あんたの腕を買おう」
樋口郷也「事件屋。誘拐プランナーに協力しろ」
蛭間九傑「ええ！　なんでですか！」
樋口郷也「文句あるのか？」
蛭間九傑「いえ、ありません・・・」
高木誘作「では交渉成立ですね」
高木誘作「ちなみに一つお願いがあるんですが」
樋口郷也「なんだ」
高木誘作「平川盗愛をここまで連れてきたっていう組員に挨拶しておきたいんですが」
樋口郷也「なんでまた」
高木誘作「いえ、どんな方なのかなと」
高木誘作「単なる興味本位ですが」
樋口郷也「生憎、不在だ」
高木誘作「今、出かけてるんですか？」
樋口郷也「そんなところだ」
高木誘作「何時頃、帰ってくるとかわかりますか？」
樋口郷也「ああ、わかるとも」
樋口郷也「奴は二度と帰ってこない」
高木誘作「あー、なるほど」
高木誘作「それは失礼しました」

〇車内
蛭間九傑「おい、誘拐屋」
蛭間九傑「俺たちは今どこに向かってるんだ？」
高木誘作「～♪」
蛭間九傑「おい！　聞いてんのか誘拐屋！」
高木誘作「なにさ、でかい声出しちゃって」
蛭間九傑「どこに向かってるのかって聞いてるんだよ」
高木誘作「平川盗愛のもとに決まってるじゃないか」
高木誘作「他にどこに行くと思ったのさ」
蛭間九傑「本当に当てがあるんだな？」
高木誘作「さっきからそう言ってるじゃない」
高木誘作「つくづく信用ないなぁ、俺」
蛭間九傑「人から仕事奪っといてよく言う」
高木誘作「資本主義のこの社会。往々にして奪われる方が悪いのさ」
蛭間九傑「ちっ」
高木誘作「あ、そこ右に曲がってね」
高木誘作「時期、夜が明ける」
高木誘作「それまでに片をつけないと」

〇マンションの共用廊下
蛭間九傑「って、ここは！」
高木誘作「心当たりあるみたいだね」
蛭間九傑「当たり前だ」
蛭間九傑「ここは劇団員の一人の家だ」
高木誘作「ふぅん。劇団員の個人情報って秘匿されているらしいけど」
蛭間九傑「・・・・・・」
高木誘作「ということは、蝮田優を殺したのは蛭間さってわけだ」
蛭間九傑「他に誰もいないだろ。何を今更」
高木誘作「一つ気になってたんだよね」
蛭間九傑「何をだ？」
高木誘作「元々、盗愛は劇団員を雇って一芝居打とうとした」
高木誘作「蝮田優と交流のあった蛭間さんはそれを聞きつけて、さらにはその計画をそのまま利用しようとした」
高木誘作「ここまではあってるよね？」
蛭間九傑「ああ、その通りだ」
高木誘作「盗愛の当初の計画でもお父さんに電話が繋がる予定で、それも劇団員の一人だって言ってた」
高木誘作「だけど、電話がつながった瞬間に声で別人ってバレたんだよ」
蛭間九傑「何が言いたいんだ」