渋谷は、尾崎豊の聖地(脚本)
〇渋谷駅前
スクランブル交差点、ハチ公、109、センター街、ヒカリエ、マークシティ、スクランブルスクエア、渋谷川・・・
〇渋谷の雑踏
人が集まる。
渋谷のスクランブル交差点に。
渋谷川の上に。
〇SHIBUYA SKY
人がひとり消えた翌朝も。
何も変わることはない。
〇渋谷のスクランブル交差点
毎日新しいニュースが流れ
すぐに忘れられる。
〇渋谷のスクランブル交差点
ネオンが輝き、
群衆があふれる。
〇山中の滝
川のせせらぎのように。
〇モヤモヤ
ぎゃああああ!
きゃーーっ!
〇血しぶき
誰でもいい 殺したかった
誰でもいい 愛してほしかった
〇炎
幸せそうな女を殺したい
〇モヤモヤ
昼間の渋谷のスクランブル交差点で起きた
通り魔殺傷事件。
〇渋谷駅前
鬼のような怖い形相の男が
私の前に迫ってきた。
私は何が起きているのかまったくわからなくて、
あちこちに、悲鳴や絶叫が聞こえて、
でも、私の目の前には、
大きなナイフを持った男が、もう迫っていた。
〇渋谷駅前
恐怖を感じる間もない。
静かだった。
死ぬときって、こんなものなんだと思った。
〇水たまり
こんなに簡単に
自分は死ぬんだ。
〇渋谷駅前
うわー!
ぎゃー!
〇渋谷駅前
その時、男に突撃し、
彼は私を救った。
刺した男は逃げ去った。
〇渋谷駅前
渋谷スクランブル交差点のまん中
〇渋谷の雑踏
群衆がとりまくなか、
彼が倒れていた。
〇黒
白いシャツは破れて、
赤黒い、深い傷が見えて、
血が、
信じられない量の血が、
噴き出していた。
〇黒
私は駆け寄り、
必死でハンカチで抑えた。
〇幻想
彼は白い微笑を浮かべた。
彼は最初、私に向けて元気な顔で笑った。
〇水の中
彼は少し照れて
やがて彼の笑顔が、
表情が、
消えていった。
〇星座
彼の唇が痙攣している。
何か言おうとして。
〇氷
私の腕の中で、
彼の命は
ひょんと消えた。
〇水たまり
最期に彼は
私に何を伝えたかったのか。
〇リンドウ
彼が最期に逢う人は
私でいいはずはない。
〇水たまり
〇リンドウ
〇ハイテクな学校
彼はエリート高校に通っていた。
〇歩道橋
でも、彼はいつも一人ぼっちで、
この歩道橋から、渋谷の夕日を見ていた。
〇渋谷のスクランブル交差点
都会の片隅に
ひっそりたたずむテラス。
〇ハチ公前
学校に行かず、友だちもいず、
心を通わせる人はなく、
〇SHIBUYA SKY
彼は歌が上手で、ギターを弾いていた。
私は、彼の歌を、歌声を聴いたことはない。
〇センター街
私も同じ。
〇SHIBUYA109
みんな独りぼっち。
〇渋谷駅前
渋谷は、東京の谷の底。
〇SHIBUYA109
孤独の重力に引かれて。
人は集まる。
渋谷の谷、底へと。
〇水たまり
私も彼と同じ。
学校に行かず、友だちもいず、
心を通わせる人はなく、
いつも何かに怯えていた。
〇川に架かる橋
恵比寿橋から、並木橋へと歩く。
あの時と同じ道のりで。
〇渋谷駅前
あの時、学校の帰り、
なぜか渋谷駅まで歩きたかった。
〇黒
あの時、そんなことを思わなかったら、
あの時・・・・・・
〇川に架かる橋
川に沿って歩いていたら
涙がぽろぽろ出てきた。
クルシイ
ツライ、カナシイ、サミシイ
〇SHIBUYA SKY
眼下に渋谷のスクランブル交差点が見える
風になろう
血の花になろう
血の風に
〇渋谷の雑踏
死にたい
生きていてもいいことなんてない
〇黒
かたく目を閉じ、
人の不幸を、強く、強く願った。
〇黒
人々のざわめきが、車の音が、都会の喧騒が消えた。
私は、そっと目を開けた。
〇渋谷のスクランブル交差点
人々が消えた。
〇センター街
渋谷の谷は、どこにも人がいなくて、
干上がった海の底にいるみたい。
〇モヤイ像
街から人が消えた。
〇公園通り
新しいウイルスによって
人々は消えた。
〇黒
私の願いがかなった。
〇黒
けれど、私は楽しくなかった。
うれしくなかった。
〇山中の滝
どこからか、
小川のせせらぎが聞こえてきた。
「知っている?」と、
声が聞こえた。
〇黒
「渋谷の下には、春の小川が流れている」
目の前に彼が立っていた。
やさしい笑顔で。
〇黒
女子高生「あなたは」
女子高生「あの時、私を助けてくれた人?」
渋谷川「僕?」
渋谷川「僕のことは気にしなくていい」
渋谷川「ただの化身さ」
渋谷川「渋谷川の、」
女子高生「渋谷川?」
渋谷川「そう。君が歩いてきた川は、渋谷川。何万年もの時をかけて谷をつくり、坂をつくった」
渋谷川「ひとつは宮益坂で、もうひとつが道玄坂」
渋谷川「その間にある谷が、渋谷」
〇桜の見える丘
彼の歌が聴こえる。
〇花模様
すみれ、れんげ、春の花
〇山中の滝
えび、めだか、こぶなの群れ
〇花模様
姿やさしく
色うつくしく
〇キラキラ
懐かしい。
童謡の『春の小川』だ。
〇山中の滝
彼が美しい声で、
春の小川を歌っている。
〇風
彼が歌うと、渋谷の空に大きな
綺麗なブルーの虹の橋が架かった。
〇幻想
僕は病気だったんだ。
もう生きられなかった。
〇山中の滝
だから、何かの役に立ちたい。
一度でいい。
人の心に響くものを残したい。
そう思って生きていた。
〇風
渋谷川「君を見た時、この人だと思った」
渋谷川「この人なら、命を捨ててもいい」
渋谷川「ただ、ひとつの恋」
渋谷川「最初で、最後の」
〇山中の滝
渋谷川「川は流れている」
渋谷川「見えないだけだよ」
渋谷川「最期に君に逢えてよかった」
「好きだよ」と
言いたかった。
〇渋谷駅前
その瞬間、私は日常に戻った。
車のクラクションが怒鳴り、私はスクランブル交差点を渡り切った。
〇渋谷の雑踏
目の前に、たくさんの人が流れている。
〇渋谷のスクランブル交差点
私には何の関係もない
生涯、交わることも
口をきくことのない人たち。
けれど、私は愛おしい。
〇SHIBUYA SKY
私は彼が好きだった場所に行った。
彼がいつも一人で見ていた。
渋谷の夕日。
〇歩道橋
あの歩道橋。
〇SHIBUYA SKY
彼はもういない。
私は独りぼっち。
渋谷川「いや、ひとりじゃないよ」
渋谷川「渋谷川のように、」
渋谷川「見えない僕が、」
〇SHIBUYA SKY
渋谷川「見えないブルーの虹の橋となって、」
渋谷川「渋谷の谷を渡ってゆくよ」
渋谷川「渋谷川のせせらぎが、」
渋谷川「光が、」
渋谷川「虹の橋が、」
渋谷川「ここに在って」
〇キラキラ
独りぼっちじゃないよ。
みんな
君の心の中にいるよ。
〇山中の滝
女子高生「彼のせせらぎが、」
女子高生「彼の光が、」
女子高生「彼の虹の橋が、」
ここに在って。
〇キラキラ
女子高生「私きっと、あの虹の橋を渡り、」
女子高生「あなたに逢いにゆく」
きっと、逢いにゆく。
映画を見終わった後の、しばらく立てない、今、そんな感じです。余韻や間が新鮮で、朗読、弾き語り、うまく表現できません。感動です、感謝。
物語の始まり方がとても衝撃的でした🤭
そこからの話の持っていき方、
モーションの使い方などに魅了される作品です☺️
今までに読んだ事のない感じの作品で短編小説にも関わらずすごく満足感のある読み応えのある作品で非常に面白かったです。文章もとても綺麗で画像とのリンクが素晴らしかったです。