才能を売る少女(脚本)
〇黒
規則的な揺れと共に、面接官の言葉が頭の中で反響していた。
『あなたという人の魅力がいまいち伝わらないんですよねぇ・・・・・・』
『もっと、こう、わかりやすい『なにか』ありませんか?』
────それが俺にあったなら、こんな年の瀬まで就職活動なんてしていない。
〇ネオン街
がらがらの電車を降り、ホームを抜けると十二月の寒風が襲いかかってきた。
普段は人通りの多い駅前通りも人はまばらで、行きかう人はどこか忙しない。
行きつけのラーメン屋もシャッターが下り、『年始営業のご案内』が雑に貼られていた。
主人公(気が早いな。 ・・・・・・いや、そんなことはないか)
主人公(クリスマスも正月も、毎年変わらずやってくる。俺が置いて行かれているだけだ)
そう気づいて、逃げるように普段は入らない路地へ入る。
〇入り組んだ路地裏
何も考えずに足を進めた。
方向さえ間違えなければ、遠回りになっても家にたどり着くと思ったからだ。
しかし────
〇壁
主人公「────行き止まりか」
たどり着いたのは袋小路だった。
主人公(俺は胸を張れる才能もないくせに、努力をすることも、挑戦をすることもなかった)
主人公(芯の通った考えもなく、のらりくらりとなんとなく生きてきた)
主人公(その結果を突き付けられているみたいだ)
主人公(年の瀬まで来て内定がないのも当然だ。俺にはなにもない)
主人公(ここまできたら就職浪人も視野にいれて、資格取得に励むのもいいかもしれないな)
〇黒
そう自分に言い聞かせ、踵を返すと──
〇入り組んだ路地裏
ミニスカサンタと目があった。
主人公「は?」
思わず目をこするがミニスカサンタは消えなかった。
主人公(就活で弱った心が見せる幻だろうか・・・)
主人公(だとしたら本当にお終いだな・・・)
謎の少女「あの、よかったら見ていってくれませんか?」
主人公「え!? あ、はい!」
主人公(売れ残りのクリスマスケーキでもオススメされるのだろうか?)
『才能、お売りします』
机の上の小さな黒板にはそんな言葉が記されていた。
黒板から顔を上げると少女と目があった。
主人公(逃げられそうにないな・・・・・・)
主人公「才能を売るって、どういう意味ですか?」
主人公「バカ高い教材とかありがたい壺とかは俺、買えませんよ。貧乏学生なんで」
謎の少女「言葉通りの意味ですよ。お代は500って刻まれてる金貨一枚になります」
主人公(その『言葉通りの意味』がわからないから聞いたんだけどな・・・・・・)
主人公(物陰から怖いお兄さんが出てくる気配もないし、これも社会勉強か・・・・・・)
主人公「じゃあ、売っている『才能』を見せてくれますか?」
机の上には小さな黒板しかなく、商品らしきものは見当たらない。
主人公(奇声を上げて『念を送りました!』で終わりじゃないだろうな・・・・・・)
そんな不安をよそに少女は身を屈めると──
謎の少女「よいしょ!」
──大きなアタッシュケースを机の上に置いた
少女はさも一仕事終えたかのように額の汗を手の甲で拭うと留め具を外しにかかった
しかし、カチャカチャと金属音が鳴るだけでアタッシュケースは開かれない。
主人公(あのもこもこした手袋をつけたままならそうなるよなぁ・・・・・・)
主人公「あの、手袋を外されては?」
たまらずそんな言葉をかけると少女は驚いたような顔し、手袋を外しにかかった。
しかし、外れない。少女は片手を小脇に挟んで外そうとする──も外れない。
主人公(・・・・・・非力だ)
とうとう進退窮まったらしい少女はキョンシーみたいに両手を突き出し──
謎の少女「・・・・・・お願いします」
──小声で助けを求めてきた。
紆余曲折あったものの、ようやくアタッシュケースが開いた。
思わず息をのんだ。
アタッシュケースの中は小さな宇宙のようだった。ネックレスにピアスに腕時計──様々なアクセサリーが並んでいた。
少女が鼻の穴をふくらませて薄い胸を張るのもわかる、どれも素人目に見ても良い商品だった。
謎の少女「どうぞ手に取ってお試しください!」
さっきまでの半泣きが嘘のような笑顔の少女に促され、なんとなく気になったネックレスを手に取る。
謎の少女「その子を手にとられるとはお目が高い! それは『無条件で異性に好かれる才能』のネックレスです!」
主人公(『無条件で異性に好かれる才能』をモチーフに作ったハンドメイドアクセサリーっていうことか)
主人公「へぇ、人気商品なんですか?」
謎の少女「そうなんです! ”戻って”くるなり、すぐ売れちゃう子なんですよ!」
謎の少女「今日の朝に戻ってきたばっかりなんです! お兄さんは運がいいですね~」
主人公(”戻ってきた”?)
主人公「返品されたってことですか?」
謎の少女「いえ、うちは返品はいっさい受け付けていません。単純に持ち主の方が亡くなって戻ってきたんです。『才能』なので」
少女の至極真面目な口ぶりに言葉が詰まる
主人公(あれ、このネックレス──)
〇血しぶき
ふと、今朝見た人気男性アイドル殺害のニュースが頭をよぎる。
少女が紹介してきたネックレスはそのアイドルが肌身離さず持ち歩いているというネックレスに酷似していたからだ。
〇血まみれの部屋
あくまでネットのニュースの情報だが、現場にはネックレスがなかったらしい。
そのため、ネットでは痴情のもつれだとか過激なファンの犯行など様々な憶測が流れていた。
〇入り組んだ路地裏
主人公(まぁ、よくあるデザインだし、たまたま似ていただけだろうけど・・・・・・)
ネックレスをそっと戻す。
謎の少女「あれ? お気に召しませんでしたか」
主人公「実は自分のことにかかりっきりで彼女と別れたばかりでして・・・・・・」
主人公「だから、モテモテになったところで手に余るなぁ、なんて」
謎の少女「それでは、こちらなどはいかがですか?」
それから、『忘れない才能』のブレスレット
『人の心を開かせる才能』の鍵
『不幸を察知する才能』のキーホルダー
いくつもの商品を紹介されて手に取り、それを戻した。
主人公(この子の商品の語りが真に迫っているからか、もし本物だったら・・・なんて考えてしまうな)
主人公(500円のハンドメイドアクセサリーなのにな・・・)
主人公「・・・すみません。優柔不断で」
謎の少女「いえいえ、私の子達をちゃんと見てくれて私は嬉しいですよ」
主人公(趣味か仕事なのかはわからないけど、俺より年下に見えるのに立派だな・・・)
主人公(・・・俺も見習わなきゃな)
主人公「・・・何か『頑張れる』、みたいな才能はありますか?」
自然とそんな言葉が口からこぼれていた。
謎の少女「『頑張れる才能』・・・ですか?」
主人公「・・・実は俺、大学四年生なんですけど、まだ内定が一つもなくて」
主人公「今日、ここを歩いていたのもほんと偶然というか、逃げた結果で──」
それから、初対面の、しかも年下でもおかしくない少女に洗いざらい吐き出していた。
謎の少女「・・・なるほど、なるほど。それは、さぞお辛かったでしょう。それなら──」
謎の少女「『時を操る才能』の懐中時計はどうですか?」
〇時計
謎の少女「──過去へ戻ったり、未来へ行ったり、思いのままですよ?」
少女が差し出したのは、鈍い光を放つ銀細工の懐中時計だった。
重厚な作りの懐中時計は、確かに『時を操る才能』を与えてくれそうな気がした。
〇入り組んだ路地裏
主人公「・・・せっかくですけど、それはやめておきます」
主人公「過去をやり直せば色々と上手くいくんでしょうけど、今までの全部を捨てたいわけじゃないんです」
主人公「・・・その、いまの自分のまま頑張りたい、といいますか」
謎の少女「・・・これは失礼しました」
謎の少女「そうですねぇ・・・お兄さんはまっすぐな人だから、この子なんかいいと思います」
少女は簡素な腕時計を差し出した。
主人公「これも時間を?」
謎の少女「いえ、これは『少しだけ前向きになれる才能』の腕時計です」
謎の少女「ほら、ここの文字盤によーく見ると青い鳥がいるのがポイントなんです!」
主人公(いままでのとんでもない『才能』と比べれば地味な才能だな)
主人公(・・・でも、俺には”このくらい”が丁度いいよな)
試しに腕時計をつけ、腕を動かす。不思議と腕になじむ気がした。
主人公「これにします」
謎の少女「え!? 本当ですか!?」
謎の少女「うわぁ、嬉しいです! これ、私がはじめて作った子なんです!」
謎の少女「・・・でも、『才能』がその、控えめといいますか、なかなか売れなくてですね」
謎の少女「だから、その、すごく嬉しいです! ありがとうございます!」
財布を開き、お金を払う。
腕時計に500円では安すぎると思い、多めに払おうとしたが少女は頑なに受け取ろうとしなかった。
あまり押し問答をして好意を無下にするのも申し訳ないと思い、引き下がる。
謎の少女「今日はありがとうございましたー!」
店を後をする背中に少女が笑顔で手を振る。
主人公「こちらこそいいものをありがとうございました。よいお年を!」
腕時計をつけた手で控えめに振り返す。
謎の少女「ええ、お兄さんも”よい人生”を」
〇センター街
表通りにでると空はすっかり明るくなっていた。
腕時計に視線を落とす。
時計の針は止まることなく時を刻み続けていた。
主人公(〝よい人生〟か。・・・苦しみも、楽しみもすべて等しく過ぎ去っていくなら──)
文字盤の青い鳥を撫でる。
少しだけ、前向きに生きられる気がした。
すごく誠実な人ですね。
誰しも過去に戻れるなら…なんて考えがちですが、過去も大切にして苦しくても今を生きようとしてるところが好きです。
腕時計の効果はあったのかな?
不幸を察知する才能が可愛らしいにゃんこで動揺しました…!
これは買ってしまいますね(真顔)
世界を変えるボーイミーツガールも良いですが、
世界は変わらなくとも自分が変わることで
世界が違って見えるボーイミーツガール良きです…✨
絵がついたことで、魅力が何倍にも膨れあがってらっしゃって
つよいなぁと思いました。
じんわりてのひらをあたためるような読後感が好きです
モテモテになるネックレスやタイムトラベルができる時計を選ばなかった主人公。
なんて欲無き優しい男なんだ!
彼に幸ありますように。