渋谷スクランブルマッチング(脚本)
〇渋谷駅前
おめでとうございます!
今回の渋谷スクランブルマッチングに選ばれたのは、佐野裕也さんと、深海真衣さんです!
佐野裕也「は・・・!?」
渋谷スクランブル交差点前の大型ビジョンには、裕也の顔と名前、そして隣には知らない女性の顔と名前が並んでいた。
渋谷マッチングガイド「佐野裕也さんですね?」
佐野裕也「あ、え? はい、そうですけど・・・」
渋谷マッチングガイド「おめでとうございます、あなたは渋谷スクランブルマッチングに当選しました」
渋谷マッチングガイド「私はマッチング当選者のガイドを行うアンドロイドです」
渋谷マッチングガイド「貴方には今から、相手の当選者である深海真衣さんと会っていただきます」
佐野裕也「・・・?」
渋谷マッチングガイド「貴方には今から、深海真衣さんと会って──」
佐野裕也「いや、聞こえてはいましたけど・・・」
渋谷マッチングガイド「それでは、こちらへどうぞ」
佐野裕也「え、あの・・・普通に困ります これから仕事なので」
渋谷マッチングガイド「・・・?」
渋谷マッチングガイド「渋谷スクランブルマッチングは、東急渋谷駅のハチ公改札を通った人の中から、選ばれた2名の男女に出会いの場を提供する企画です」
渋谷マッチングガイド「開催は不定期、選出が行われる時間帯も都度変更されます」
渋谷マッチングガイド「今回は、貴方と深海真衣さんが選ばれた、ということです」
渋谷マッチングガイド「幸運ですね おめでとうございます」
佐野裕也「いやだから──!!」
道行く男「くっそぉ! 今回こそは俺だと思ったんだけどなぁ・・・!!」
道行く男「兄ちゃん! 俺の分まで幸せになれよ!!」
佐野裕也「いや何が!?」
渋谷マッチングガイド「ほら、みなさんも祝福してくれていますよ」
佐野裕也「いやいや! 俺、これから仕事なんだけど!!」
渋谷マッチングガイド「勤務先への連絡は済んでいます 渋谷スクランブルマッチングは区が運営している公的企画なので、心配いりません」
佐野裕也「公的企画!? こんなアホそうなのが公的!?」
渋谷マッチングガイド「さあ、こちらのリムジンへどうぞ 深海真衣さんがお待ちです」
佐野裕也「ちょ・・・心の準備が・・・!!」
〇レストランの個室
裕也が連れてこられたのは、渋谷の片隅にある高級レストランの個室だった
佐野裕也「・・・・・・」
深海真衣「・・・・・・」
渋谷マッチングガイド「おや? どうしました? せっかくですし、何かお話をしてみては?」
佐野裕也「いや、話せるかこんなん!!」
佐野裕也「いきなり拉致られて、初対面同士並べられて、ニコニコ楽しくやれるわけないだろ!!」
渋谷マッチングガイド「ふむ・・・」
佐野裕也「ね、ねえ、そうですよねー? ふ、深海真衣さん?」
深海真衣「・・・・・・」
深海真衣「プイッ・・・」
佐野裕也「え!?」
佐野裕也(もう既に嫌われてる!?)
佐野裕也(まあそうだよな いきなり知らない男と会って話せとか言われても、普通嫌だよな)
渋谷マッチングガイド「私は席を外した方がよさそうですね」
佐野裕也「ちょ!? 待って──」
ガイドは裕也の引き止めを無視して、部屋を出ていった
佐野裕也「う・・・」
佐野裕也「すみません・・・ 怖いですよね、俺も何が何だか分からなくて・・・」
深海真衣「はぁ・・・」
深海真衣「裕也さん、私達、初対面じゃないです」
佐野裕也「え、嘘だ!?」
深海真衣「嘘じゃない!!」
佐野裕也(ままま待て・・・まずい、全然思い出せない・・・)
深海真衣「3年前! 渋谷のスクランブル交差点! 赤信号!」
佐野裕也「3年前、交差点、赤信号・・・?」
深海真衣「〜〜っ!!」
深海真衣「これ!!」
佐野裕也「これ・・・ハンカチ?」
深海真衣「お返しします」
佐野裕也「返す? 俺に?」
佐野裕也「・・・・・・」
佐野裕也「──ああ!」
深海真衣「思い出しました?」
〇渋谷駅前
──3年前、渋谷スクランブル交差点
真衣は一人、スクランブル交差点で信号待ちをしていた
信号が青になり、大量の人間が一斉に歩き出す
深海真衣「痛っ!?」
誰かに足を思い切り踏まれ、交差点の真ん中で盛大に転ぶ真衣
深海真衣「いたた・・・」
深海真衣「あれ・・・わたしの靴、どこ・・・?」
深海真衣「よいしょ・・・痛っつぅぅ!?」
深海真衣(嘘・・・立てない!?)
信号が点滅を始める
深海真衣「あ、あの・・・誰か・・・!!」
真衣の呼びかけに応える人はいない
深海真衣「う、うぅ──」
ただの一人を除いては
佐野裕也「大丈夫ですか!?」
深海真衣「あ・・・」
佐野裕也「これ、貴女の靴です」
深海真衣「す、すみませ──」
信号は赤になっていた
心無い運転手がクラクションを鳴らしている
深海真衣「ひっ・・・!!」
佐野裕也「大丈夫、流石に突っ込んできたりしませんよ」
佐野裕也「さあ、俺の背中にどうぞ」
裕也は真衣をおんぶして、なんとか交差点を渡り切る
佐野裕也「膝から血が出てる・・・これ、使ってください」
深海真衣「何から何まで、すみません・・・」
佐野裕也「いいんですよ。これぐらい」
これが、裕也と真衣の出会いだった
〇レストランの個室
深海真衣「3年間、ずっと探しました」
深海真衣「連絡先ぐらい、勇気を出して聞いておけばよかった」
佐野裕也「そっか、ハンカチ、貸したままだったっけ」
深海真衣「・・・はい」
深海真衣「渋谷駅に通っていれば、また会えると信じてました」
渋谷マッチングガイド「やっと、出会うべき二人に、再開の場を提供することができました」
佐野裕也「うおっ! いたのか!?」
深海真衣「出会うべき二人・・・」
渋谷マッチングガイド「さあ、後悔のないように」
深海真衣「──!!」
深海真衣「あ、あ・・・」
佐野裕也「待ってくれ」
深海真衣「え・・・」
佐野裕也「3年間も捜してもらったんだ、ここは俺から言わせてくれ」
佐野裕也「俺と、付き合ってください」
深海真衣「──!!」
深海真衣「も、もちろんですっ!!」
〇渋谷駅前
渋谷スクランブル交差点の大型ビジョンに、裕也達が映し出されている
渋谷マッチングガイド「と、いうことで、渋谷スクランブルマッチング、5ヶ月ぶりにカップル成立です」
渋谷マッチングガイド「信号待ちの皆様、裕也さんと真衣さんに盛大な拍手をお送りください」
スクランブル交差点が、拍手で包まれる
深海真衣「え!? これ、見られてるの!?」
渋谷マッチングガイド「告白の辺りから、上映しておりました」
佐野裕也「マジかよ!!」
キース、キース、キース!!
渋谷マッチングガイド「キスコール、来ましたね」
佐野裕也「いやいや──」
深海真衣「こんな大勢の前で!?」
渋谷マッチングガイド「さあ、早く 信号が変わってしまいますよ」
佐野裕也「ま、真衣さんっ!」
深海真衣「は、はいぃっ!?」
スクランブル交差点の信号が青に変わる
うつむいている人は一人もいない
皆、今から始まる二人を見上げ、微笑んでいた
いや、なんて強引な!でも3年も自分の事を想っていてくれたのは純粋に嬉しいでしょうし、どんな形であれこうなる運命だったような気がします。
この企画絶対、今の日本社会の救世主になりそう! 止まっている流れに水を注ぎ勢いをつけて又流れ出す。そんなイメージが沸いてくるような、とても躍動感のあるお話でした。
きっとハンカチを渡したあの時の優しさから
物語は始まっていたのでしょう😌
こんなマッチングもありかも知れないと思いつつ、
最後のキスコールで「やっぱり恥ずかしいかも!!」となりました😂笑