エピソード1(脚本)
〇駐車車両
2070年11月11日千葉県で制限速度30キロの道を200キロで暴走し
運転をしていた20代男性と助手席に座っていた30代の男性と後部座席に座っていた10代の少年が亡くなる事件が起きた
それから今日まで全国各地で似たような事件が多発しているが
それ以降奇妙なことに運転手以外の死者は1人も確認されていない(2080年1月現在)
〇駐車車両
10年で分かったことがいくつかある
暴走病という病にかかると自損事故か心臓麻痺で死亡するまで車で暴走することを止められなくなるということ
死亡するまでの時間は個人差があるが、1時間以内で確実に死亡しているということ
暴走を止めようとすると患者の心臓は止まるということ
暴走病にかかって実際に暴走するまで、瞬時に暴走する人もいれば1ヶ月後に暴走する人もいる
後者の場合暴走するまでの期間、自覚症状が一切ないということ
暴走病にかかって暴走をしないで心臓麻痺で亡くなる場合もあるということ
特効薬はなく麻酔で眠らせることも出来ないということ
患者を殺すと天使になって交通違反をした人間を食い殺すということ
※患者が天使になった場合人の力では太刀打ち出来ないため必ず、もののけに天使討伐の依頼をかけなくてはならない
〇駐車車両
特効薬はないが特効薬となる者たちがいる
『説得師』
命がけで暴走病患者に寄り添い身振り手振り、口八丁手八丁あらゆる手段を講じて患者に訴えかけて暴走を止めさせる者たちのこと
説得師でない人間が暴走を止めることは出来ないが妖怪の血を引く説得師たちは暴走を止めるだけでなく
罹っている病気を消すことも出来る
それは彼らにしか出来ない
暗い暴走社会に黎明をもたらす者たち。それが『説得師』
〇ビジネス街
2080年4月
有悟と蓮は株式会社Confidence is powerに入社した。
その1ヶ月前──
〇走行する車内
20代男性「ふーっ、ふーっ 速すぎだろ!!誰か止めてくれ・・・・・・ いや、アイツがいけないンだ ガキのくせになめた顔しやがって」
20代男性「ブツブツブツブツ・・・・・・」
20代男性はずっと何かをつぶやいている
桑井 謙(くわい けん)「200キロ・・・・・・ね はぁ こういうときのためにタバコ持ってたんだよね 君もやるかい?」
20代男性「・・・・・・」
キーーーンというような、サイクロン式掃除機の音を何十倍にしたような胸糞悪い音が響く
桑井 謙「200は初めてだけど正直君を止めることは多分出来る でももう良いんだ。疲れた タバコ美味っ。いつのやつかわからんけど」
桑井 謙「君のために死ぬんじゃない なんていうかもっと自動的なんだよ 君がそうやって無意識に運転するように」
20代男性「いや、自動的ではないね ほら、コントロール出来てるだろ?」
桑井 謙「!?」
20代男性はブレーキを踏んで減速して見せた
その後すぐに元のスピードに戻した
桑井 謙(なんだ?会話?話せる?こんなことって・・・・・・)
20代男性「君が説得師の王なら俺は天使の王かな 君を天使にする。君は天使になるべきだ」
桑井 謙「確かに 交通違反をした人は一掃されるべきだ 交通違反をした人が暴走病にかかりやすいというデータは正しい」
天使の王「キマりだね」
桑井 謙「いや、気が変わった。君を説得したくなった」
天使の王「説得? 笑わせないでよ。天使にはどんな言葉も響かない。君は俺に説得されるんだよ」
桑井 謙「・・・・・・」
天使の王「・・・・・・」
桑井はタバコの火を消して吸い殻を車内に捨てた
桑井 謙「天使の王だかなんだか知らねーけどよォー 交通ルール守れないのはダサくね? お前は良くて他は許さないって理屈は通らないだろ」
桑井 謙「ヘイ!王様!聞いてますか〜? というか聞けお前は! お前みたいなやつがいるから社会がクソになるんだよボケが!自覚してる?」
桑井 謙「自覚してるわけないよね? クソみたいな速度で運転してるんだから 死ぬならお前だけで死ねよ気持ち悪い 他人を巻き込むなよ」
桑井は唐突に車の窓を開けた
桑井 謙「このバカ200キロで運転してまーす! みんな〜このバカ200キロで運転してるよ〜!聞いて!天使の王が200キロ出してるよ」
桑井 謙「助けてー殺されちゃうよー 天使の王に殺されちゃうよー お前俺にこんなことさせて恥ずかしくないわけ?ねえ?」
桑井 謙「聞いてますか?クソ天使? 頼むから普通に運転してくんない? 人間の上位互換なんじゃないの? これだと下位互換じゃん」
桑井 謙「人間の下位互換のくせにナメた顔しないでくんない よく偉そうにイキれるよね下位互換のくせによ」
天使の王(くっコイツ・・・・・・ なんかおかしい、俺は天使だぞ? なのに凄い心にズシズシ来るっていうか 意識飛びそう)
天使の王(説得師の王と言われるだけある とても200キロで走ってられん)
桑井 謙「おいおいおいおい!ウオイ!! 30キロだぞ30キロ! なにちんたらちんたら走ってんだよボケがお前もう運転すんな」
桑井 謙「どうやったら60の道を30で走れんだよ 寝ぼけてんのか もうお前今から返納しろ免許 俺もついてってやるからよ」
天使の王(いったん停めよう ちょっと無理、酔ってきた)
天使の王は車を路肩に停めた
桑井 謙「そこ代われ俺が運転する お前じゃ話にならん」
天使の王は、お前が運転してどうすんだと思いつつもなぜか逆らえず言われるがまま助手席に座った
〇走行する車内
桑井 謙「ったく お前だけズルいんだよ 俺にも200キロ出させろよ」
桑井はそう言うとアクセルを思い切り踏んだ
メーターはあっという間に200の表示になった
天使の王「ちょっ怖い怖い怖い怖い 凄いGが!Gが凄いから!! 1回止まってちょっと本当に!」
桑井 謙「止まるわけねーだろボケカスが どれだけ怖いかわかったかクソが 言っとくけど事故るまで止めねーからよ」
桑井 謙「俺は今日死ぬって決めてンだよ こんな感じになる予定ではなかったんだけど」
桑井 謙「最後はめちゃくちゃやって死ぬって欲求はあったんだよね そういう意味では感謝してるよ」
桑井 謙「でも実際お前ら、天使と言うだけあって人を巻き込んだりとかなかったよな 全部自損だし」
桑井 謙「でも俺は天使じゃない だから多分めちゃくちゃになる 法的速度140もオーバーしちまってる」
桑井 謙「サイテーな死に方だよ だけどこんなに気持ちが良いんだな 全てをコントロール出来てる気になってる」
桑井 謙「てか、あのクソ駅員 叩き殺してやる!」
天使の王「え?」
桑井 謙「ん? アレ?ちょっ、え?」
天使の王 説得師の王 桑井「もしかして俺たち」
元天使の王「もしかして」
入れ替わってるー?!
2人が同時に叫んだ瞬間車は廃ビルに突っ込んだ
運転をしていた桑井 謙以外の死者は出なかった怪我人もいない
説得をしていたはずの桑井が運転をして
説得されていたはずの人間の行方がわからない
多くの説得師はそんな謎なんてどうでも良かった
桑井の死
それは平和が絶望に変わった瞬間だった
〇ビジネス街
センパイ「お前らも知っているように丁度1ヶ月前 桑井さんが死んだ」
センパイ「正直俺らに出来ることはない 俺を含めて多くの説得師は100キロ以上出す暴走病患者を説得出来ない」
センパイ「にも関わらず最近は100キロ以上の仕事ばかりだ 死人も多いし辞める人も多い」
センパイ「桑井さん任せだったんだよ わかるだろ? もうめちゃくちゃになるんだよ」
センパイ「って、面接でもさんざん言われたんだろうが、とにかく 俺たちは死んだも同然 次の瞬間には辞めてるか死んでるか そんな世界だ」
センパイ「良いんだな? そんなクソみたいな会社に入社して 悪いことは言わないもっとあるだろお前らが活躍出来る場が」
増田 有悟「気持ちは分かりますよ でも俺は」
工藤 蓮「割に合わないけど そんな次元で入社しようなんて思ってないわよ あんたらは猫の手も借りたいはず」
工藤 蓮「ならつべこべ言わず借りなさいよ いちいち新人社員の心配なんてしてたらきりがないでしょ そんな余裕はないはずだけど」
増田 有悟「俺は死ぬつもりもないし辞めるつもりもない 俺はただ普通の生活がしたいだけなんだ」
増田 有悟「普通の生活っていうのは自分たちが快適に過ごす意味での普通の生活じゃない 皆が快適に過ごすことで皆が安心して暮らせるんだ」
増田 有悟「そういう普通の社会にしたい」
センパイ「他のやつがそんな綺麗事ほざいたら叩き殺してる所だが君なら許そう もののけであり説得師である君なら」
工藤 蓮「!? あり得ない そんなやつ聞いたことないわよ だって・・・・・・」
センパイ「確かにあり得ない その2つが交わって両立するなんて話聞いたことがない でも実際もののけの仕事もこなしているよ」
蓮の言葉を遮るようにセンパイは言った
センパイ「驚くべき話ではあるけど 昔はもののけも妖怪も一つだったんだ それを思えば何も不思議ではないさ」
工藤 蓮「それは何千年も前の話でしょ あーなんか不吉すぎてくらくらしてきた」
〇ビジネス街
センパイ「本当なら今日からすぐに同乗研修をする予定だったんだがちょっと今日はお前ら帰れ 明日からガンガン働いてもらうから覚悟しろよ」
センパイはそう言うと足早に去っていった
増田 有悟「・・・・・・」
工藤 蓮「・・・・・・ めちゃくちゃね」
工藤 蓮「それはそうとあんた、もののけなんだ 一緒に面接したとき、あんたも面接官もあっさりしてたからなんか変だと思ってたのよ」
増田 有悟「君がそう感じたように俺も君にそう感じたけど まぁ一応人格に問題ないかとか、一般常識とか必要なんじゃね」
工藤 蓮「いいや、私とはなんか違った あんたの人格に問題があっても合格通知を郵送したわよ そんな雰囲気だった」
増田 有悟「俺は、確かにセンパイの言った通り俺は叩き殺されるべき人間だ だって俺は叩き殺してでも暴走を止めようと思ってるからな」
増田 有悟「俺にはそれが出来る」
工藤 蓮「あんた人格のやつ嘘書いたでしょ でもまぁ頼もしい限りよね けどそれは放っておいたほうが良いに決まってるわ 労力の無駄よ」
増田 有悟「確かに、説得を放棄して放っておけば結局自損で済むし 止めようするだけで運転手死ぬし 人によっては天使になるやつもいるけど」
増田 有悟「俺には関係ない いずれにしてもいつか人を巻き込む事件が起こる それは避けられないんだ」
工藤 蓮「なんであんたがそんなことわかるのよ」
増田 有悟「わかるさ人身事故がなくならない限り その可能性は否定出来ない 人身事故を起こす危険のある人が」
増田 有悟「暴走病にかかっていなかっただけかもしれない 俺が思うにそういう凶悪な連中には免疫があるのかもしれない」
増田 有悟「いずれにせよ平和は続かない 桑井さんが亡くなったように絶対はないんだ」
工藤 蓮「・・・・・・」
増田 有悟「もし人を巻き込むかもしれないと思ったら俺は患者を天使にして叩き殺す」
工藤 蓮「好きにしなさいな センパイも言ってたでしょ 私たちに出来ることはないのよ あんたはもののけの実績があるから」
工藤 蓮「そんなイキってる感じなんだろうけど いくら天使を殺そうが意味ないんだからね」
工藤 蓮「むしろ違反者全員天使に食われた方が正しい社会になると私は思うわ 勘違いして1人で気持ちよくなってんじゃないわよ」
増田 有悟「それは説得師だってそうだろ 違反者を救った所でまた暴走しないとも限らん」
工藤 蓮「結局私たちのやってることって綺麗事なのよね」
増田 有悟「そうだそんなやつは叩き殺されるべきなんだ」
工藤 蓮「ウケる」
工藤 蓮「キッチンカーが来たわ なにか食べよう」
増田 有悟「ああ」
〇公園のベンチ
工藤 蓮「このハンバーガー美味しい! こっちのケバブも最高!」
増田 有悟「美味そうに食うなぁ」
工藤 蓮「あんたのそれ、ピザよね ちょっと頂戴」
増田 有悟「1ピースでそれやるんだ いや、良いけどさ」
工藤 蓮「うーん、ピザも最高ね!」
増田 有悟「君は一口もくれないんだね」
工藤 蓮「あんたさ自分にどんな妖怪の血が流れてるか調べたことある?」
増田 有悟「あるよ、猫娘だって」
工藤 蓮「ギャハハ、猫娘!? 最高〜」
工藤 蓮「やっぱりさもののけの仕事するとき ブハハッ なっちゃうわけ? ね、猫娘に?」
増田 有悟「ならないよそんな能力ねーし コスプレしても力が倍増したりしねーし」
増田 有悟「いや、仕事以外ならハロウィンで昔あるけど 子供の頃」
工藤 蓮「猫娘になったの?! ハロウィンで? なんか画像ないの画像!」
俺は蓮に画像を見せた
工藤 蓮「まってまって、めっちゃかわいい〜 めっちゃ猫娘」
増田 有悟「そういう君はなんなんだよ!」
工藤 蓮「えー、私? 私はね、メドゥーサ」
増田 有悟「神話レベル?!」
工藤 蓮「内緒ね? なんか不安になるのよ神話レベルだと 拉致られたり殺されるんじゃないかみたいな」
増田 有悟「確かに」
増田 有悟「てかメドゥーサって聞くと猫娘が霞むわ なんか嫌だ恥ずかしい もともと恥ずかしいのに恥ずかしさ倍増だよ」
工藤 蓮「恥ずかしがることないわよ 私は好きよ猫娘普通じゃん 羨ましいくらいよ」
増田 有悟「俺はメドゥーサの方がよかったよ 俺にぴったりだろ?」
工藤 蓮「確かに」
〇渋谷の雑踏
バーーンという明らかに車が建物に勢いよく突っ込んだ音が聞こえて人の叫び声も聞こえてきた
工藤 蓮「この気配・・・・・・」
増田 有悟「天使だ しかもこの感じ100クラス」
工藤 蓮「私も行く」
増田 有悟「良いけど命の保証はないからな」
有悟と蓮が現場に着くと天使の姿はなく 人が何人か倒れていた
車によるものではなく明らかに天使によるものだった
工藤 蓮「酷い」
増田 有悟「どこだ!」
天使「車の中にいるよ」
天使は燃える車の中から有悟と蓮の前に姿を現した
全身黒色をしていてその黒さは光も吸い込むかのような黒さだった
工藤 蓮「初めて見た、あれが天使」
天使「君たちくるの遅いよ あまりに遅いんで車に戻っちゃったよ」
増田 有悟「それは悪かったね 謝るよ それと同時に君を叩き切る」
有悟は小太刀の携帯を国から認められている
刀の携帯は認められていないが、警察がもののけに天使討伐を依頼して
警察と、もののけの双方が必要だと判断した場合にのみ一時的に扱うことが許されている
今回の場合警察よりも早く現場に着いたため刀が現場にくるまで少なくとも20分から30分はかかる
有悟は小太刀を取り出して天使を切りつけた
天使「なめられたものだね そんな果物ナイフのようなものでどうにか出来るわけないだろ」
天使はそう言うと同時に蓮の後ろに回って腕で首を締めた
工藤 蓮「ぐぁ!?」
増田 有悟「なんのまねだ? 彼女が交通違反なんてするわけないだろ お前に彼女は殺せない」
工藤 蓮「私めちゃくちゃ違反してる」
増田 有悟「ッッ・・・・・・」
天使「そういうこと♪ 煮るなり食うなり好きに出来んだよクソアホがよ な〜にが説得師だ馬鹿が 違反してたら世話ねーな? オイ!」
工藤 蓮「ぐうの音も出ないわ」
増田 有悟「お前みたいなやつがいるから・・・・・・ クソ! うああ、もう! めちゃくちゃだよ」
天使「愉快だね 罪悪感なく人食えるとか最高かよ そう思わない?」
増田 有悟「そうだな」
工藤 蓮「は? え、ウソでしょ? 私を見捨てる気?」
増田 有悟「・・・・・・」
天使「見捨てる気? じゃねーよ 当たり前だろアホが 違反者は食われるべきなンだよォー!」
天使が叫んだ瞬間
天使の頭が飛んだ
増田 有悟「最下葬」
有悟はそうつぶやいて小太刀をふところにしまった
増田 有悟「最下層と火葬をかけてんだよ この技をくらった者は燃えながら最下層に堕ちて行くんだ 刀を使った場合だけどね」
増田 有悟「小太刀でもそれなりにパワーあるでしょ?」
工藤 蓮「なんで、なんで助けてくれたの 私みたいな叩き殺されるべき人間を」
増田 有悟「わからん 多くの人が説得師をやる理由と一緒だよ よくわからんけど助けたいっていう」
増田 有悟「君もそうだろ? もうそういう病気なんだろうな 助けたい病みたいな 助けた所で意味なんてないのに 自分を苦しめるだけなのに」
工藤 蓮「ありがとう」
増田 有悟「これを機に違反は止めろ なんか嫌なんだよ君みたいな人が暴走したりとか天使になったりとか見たくないし」
工藤 蓮「もし私が暴走病になったら説得してくれる?」
増田 有悟「天使にして叩き殺す」
工藤 蓮「ギャハハ最高」
増田 有悟「ハハハッ」
増田 有悟「マジで最下層に堕とすから覚悟しとけよ」
工藤 蓮「こわっ」
この暴走社会に必要なのは人情なのか
排除なのか
二分化された普通が普通なのか
普通とはなんなのか
抗うしかない
暴走病がなくならない限り
天使がいなくならない限り
叩き切れもののけ
立ち向かえ説得師
明日の平和は彼らにかかっている!