エピソード23『血溜まりの中で』(脚本)
〇荒廃したセンター街
【2034年、モンガル『ホビロン』。『ヒト腹 創』】
歯車フォーチュン「あらあら。この御嬢さん、私にバースデープレゼントですか? ずいぶんと汚い燃えカスになりましたけど」
『フォーチュン』が嬉々とした足取りで爆発の跡から『青い宝・蒼猫ファジー』を取り出す。
ツクル「『みれい』が・・・・・・爆死した?」
「あっさり死んだ御嬢さん、爆発から貴重なお宝を守ってくれてアリガタウ♪」
『フォーチュン』が『剛《クズ》』 の声でボクたちを嗤う。
その時、『みれい』の使った爆薬とは比較にならない程の閃光《ひかり》 が、視界先の敵味方を巻き込んだ。
広がる光の中から現れたのは、父さん『ブラック・ダド』だった。
ブラック・ダド「私が選んだ私の息子、決して殺させはしない」
頼もしいボクの、ボク1番の父さんが助けに来てくれた。
首を振り迷いを払う。放心気味の『緋色』を怒鳴りつけた。
ツクル「死んでる場合かよ、『緋色』! 『みれい』の言葉、聞いてなかったとは言わせないぞ!」
親友を罵り、その背を起こそうとして、
その時、自身の右腕が無い事に気が付いた。
風の鳴る音に視線を巡らす。
〇空
『マム』だ!
『マム』が助けに来てくれた!
空を舞う無人機《イースター》から『パープル・マム』がボクたちへ向けて、
ツクル「え? な、なんで!!」
銃口を?!
気付いた時には飛び込んでいた。
『ダド』《父さん》を押し飛ばして。
身体を貫通する痛みと共に、ボクは胸糞悪い言葉を聞いた。
「・・・・・・fish《つれた》 ♪」
って・・・・・・。
〇荒廃したセンター街
【2034年、モンガル『ホビロン』。『泉 緋色』】
『みれい』の最期。
そして、続け様に『創』が体を撃ち抜かれた。
頭を振って『ブロウ』を構える。
今は、今だけは考えなくていい。ただ、此処から逃げちゃいけない。
空を舞うヘリから敵キメラの只中に『白衣の人』が放り投げられた。
今は何も考えたくない。考えたくないのに、その人はどうしても『剛おじちゃん』のようにしか見えなかった。
この大陸に、こんな違和感ばかりの地に、おじちゃんが居る筈ない。罠だということは分かっていた。
けれど! けれど見捨てるなんて絶対に出来なかった!
緋色「『人魔』! みんなを頼む!」
今度は、おじちゃんを同じ顔の女たちが囲んでいる。その手に銃剣を携え、笑っていた。
そしてドミノ倒しのように一斉に銃口を傾ける。
憎らしい、ハズむような声が背後から響いた。『フォーチュン』だ!
歯車フォーチュン「Fire《うて》 ♪」
緋色「おじちゃんッ! 逃げて!!」
一心不乱に駆けた。おじちゃんに向かって撃ち放たれた銃弾を『ブロウ』の鉤爪で打ち払う。
全ては捌けない。腕と腹に焼けつくような痛みが奔る。それでも、全てを優先してこのヒトを助けたかった。
緋色「『剛おじちゃん』、ですか?」
市原剛「『緋色』か? 『創』は? 『創』は何処に?」
八方を囲む十数人の女を見やる。全て同じ顔の女だった。紫の衣を羽織りその手に同じ形状の銃剣を構えている。
歯車フォーチュン「若人《わこうど》 たちよ、トイレ掃除も意外とバカに出来ないものだよ? ふへっへへへはぁ♪」
見上げた地で『フォーチュン』がその指を振るう。おじちゃんから剥《はが》 した顔にその舌を這わせ俺たちを嘲笑った。
歯車フォーチュン「行け。『パープル・クローンズ』」
『パープル・クローンズ』と呼ばれた女たちが刀へと武器の形状を替え襲い掛かってくる。
鋭角に迫る切っ先を鉤爪でいなし、おじちゃんを守りながら鋼の棒で打ち払う。女たちの太刀筋は恐ろしい程正確に首を狙ってきた。
ブラック・ダド「──『フォーチュン』よくも『マム』を愚弄してくれたな。そして我が息子を撃った罪、死をもって替えさせよう」
隣町のおじちゃん『ブラック・ダド』が、後方で『パープル・クローンズ』の面々と刃を交えている。
脳が見ることを怖れた後方、決意して見た其処で、
──『創』が身体を真っ赤に染めていた。そこへ顔を剥がされたおじちゃんが駆けていく。
『創』の背に撃ち込まれようとした弾丸を、『剛おじちゃん』がその身を壁にして受ける。
銃弾の嵐におじちゃんの身体が左右に揺れ、膝から崩れ落ちた。
〇荒廃したセンター街
【2034年、モンガル『ホビロン』。『ヒト腹 創』】
薄れゆく世界に甲高い足音が近づいてくる。銃弾の雨の中、杖の鳴る音もした。
もがき、腕を振り回したくても、そもそも腕がない。神経がいかれる程痛んだ。
ツクル「よくも、こんな! お前のせいだ! よくもッよくも!!」
歯車フォーチュン「ここにきて難癖かい? 死にぞこないがよく喋るね」
ツクル「こ、このヤロウ!!!!」
コイツのせいで、コイツのせいで全てコイツのせいで、ボクたちはこんな酷い目に!! コイツが、コイツが居なければ!!
歯車フォーチュン「私のせいと言ってもね。事の始まりはキミの父親、この肉塊に原因があるじゃないか。──知らないのかい?」
歯車フォーチュン「『緋色』、『みれい』、『奈久留』。何故彼らが選ばれ、育てられたか解るかい?」
確かにそうだ。ボクは、何故彼らが父に選ばれたのか、それを聞かされていない。その真実を知らなかった。
歯車フォーチュン「それは調べる為さ。 調べ、弄り、より良い個体へと導く為さ」
歯車フォーチュン「『奈久留』はその中で特別だった。精製ペストの感染物における優性を決定づける因子を解明し、そして生きた感染体を造り出す為に」
歯車フォーチュン「本来、それは私へと贈られるモノのはずだった。何の気が変わったのか、直前になって気が狂ったように、私を拒んだがね」
〇赤(ダーク)
────流れていく血の中で思った。
ヒトを信じる事の愚かさを。ヒトの真の醜さを。
だが、それはボクだけでいい。
残った子たちには、ステキで決して醜くない未来と、チカラを与えなければならない。
一瞬だけどあの子が見えた! 生き残ったあの子へコブシを振り訴える。
「『タタミ』ッ! 3種の神器を合わせて使うんだ! 3種の神器を全て合わせた時、真の、」
太い金属が腹を貫く。ごりごりと腹の中をこねくる感触が在った。
見上げた先に居たのは『フォーチュン』だった。ヤツから逃れるチカラも、ヤツを打ちのめすチカラも、ボクには残っていない。
悔しかった。悔しくて涙が、血反吐と胃液が零れるのが抑えられない。憎い。憎い! 憎い!! 憎い、憎い憎い!!
心臓が――ハジケル――音がした。
〇黒背景
幾つもの記憶が巡る。
高い高いの肩車、
姉さんそして皆と一緒の朝ご飯、
医療具を勝手に弄って怒られた事、
そして、それ以上に多く、父に褒められた事、
その優しい眼差しが、・・・やっと見えた。
𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭
今後はどういう展開になるんだろってドキドキ
みんな報われてほしいなって思ったよ(´;ω;`)
あぁ……ハートにズキズキ来るのに何度も読んでしまう。
感情移入しちゃうから本当に辛いし憎い。この歯車が。
外道、畜生、どんな蔑称もコイツには生温い。
……と、心底感じてしまう位に、物語に引き込むのが上手いんだよね。ななかくんは。
このままでは散って行った皆が報われない。ここからの逆転劇はあるのか、歯車がその報いを受ける時があるのか。そしてこの世界の行く末と未来は。
続きも期待して待つのだ!