第14話「圧死」(脚本)
〇黒背景
来栖兼光「・・・実はね。 何年か前、死霊になる前にアタシは 電車の中でアンタを見かけた事があるのよ」
来栖兼光「その同じ車内に高校生の女の子の グループがいて・・・」
〇電車の座席
女子高生A「なにこのキーホルダー、気色悪」
女子高生B「あんた、こんなのが好きなんだ~、 まじオタクじゃん」
来栖兼光「1人の子をいじめてたのよ。 でも乗客は見て見ぬふりをして・・・」
来栖兼光「もちろんアタシもその一人。 だけど・・・」
レイナ「――うるさいわね」
レイナ「その子が気色悪かろうが、オタクだろうがそれがあんたたちに何か迷惑を掛けてるの?」
来栖兼光「――彼女達を一括したのは、 アンタだったの」
女子高生A「は? なにあんた、いきなり?」
女子高生B「ちょ、ちょっと! こいつ、モデルのレイナじゃない?!」
来栖兼光(本当だわ・・・超人気モデルの子じゃない)
来栖兼光「あの頃のアンタは人気カリスマモデル。 今みたいな色モノ配信者じゃなかった」
女子高生A「有名人だからって調子に乗んなっ!」
逃げだす女子高生をせせら笑うレイナ。
いじめられていた少女は呆然と
レイナを見つめていた。
レイナ「あんたもさぁ、何か言い返しなさいよ」
レイナ「好きなものを好きって胸を張って 言えなくてどうするのよ」
来栖兼光「!」
〇書斎
来栖兼光「この時、アタシはアンタの言葉に 目が覚めた様だったわ」
来栖兼光「アタシは男らしいとは程遠くて・・・」
来栖兼光「でも、普通の男性らしく生きなきゃ いけないって思いこんでいたの」
来栖兼光「だから堅実な会社に務めて、 服装も言葉遣いも普通の男性を意識して」
来栖兼光「でも・・・」
〇電車の座席
来栖兼光(そうよね。 好きなものを好きって言って何が悪いの)
来栖兼光(人と違っても・・・ 自分らしくあるべきだわ)
〇書斎
来栖兼光「アタシはこの瞬間から アンタの大ファンになったわ」
来栖兼光「そして会社を辞めて、 二丁目のバーで働きだした」
来栖兼光「そこは楽しかった。アタシが 本当のアタシでいられる場所だった」
来栖兼光「だけど──」
〇入り組んだ路地裏
バキッ!
来栖兼光「ぐふっ!」
暴漢A「顔面命中~」
暴漢A「しっかし財布の中身すごくね? おかまバーって儲かるんだ」
暴漢B「待ち伏せしといて良かったな。 でも殴り過ぎじゃね?」
暴漢A「あー、死んでも平気だろ」
暴漢A「こんなおっさん、 殺しちゃった方が世間の為になるよなぁ」
〇書斎
来栖兼光「アタシはオヤジ狩りにあって・・・ そのまま殴り殺されたわ」
レイナ「その恨みで・・・あたしを?」
来栖兼光「はぁ?」
レイナ「だって、 あたしと電車で会わなければ・・・」
レイナ「あんたは二丁目にいて、 オヤジ狩りにあう事も無かったじゃない」
来栖兼光「だから、アンタを逆恨みしてるって? そんなわけないじゃない」
来栖兼光「アタシは自分の選んだ人生は 後悔していない」
来栖兼光「あの頃のアンタには 今でも本当に感謝してるの」
来栖兼光「・・・アタシはね、タリスマンにも レッドラムにも、本当に興味が無いの」
来栖兼光「それに終わりのある人生こそ美しいもの」
来栖兼光「それこそゲームも中盤で自分から 幕引きをしようかと思ってたくらいよ」
来栖兼光「――そんな時、スケープゴートに選ばれたアンタと出会って・・・本当に驚いたわ」
来栖兼光「そしてアンタは死ねないって言った」
〇黒背景
レイナ「あたしは死ねない。 ううん、死んではいけないの」
レイナ「だって、 やらなければいけない事があるのよ」
レイナ「スケープゴートに選ばれたのだって、 きっとそのためなんだわ」
〇書斎
来栖兼光「レッドラムになったらアンタを生き返らせてあげる、って約束したのも本心よ」
来栖兼光「でも・・・アンタは傲慢過ぎた」
来栖兼光「自分の正義だけを押し通して、承認欲求を満たしたいがために家畜以外の人間を殺し過ぎた」
来栖兼光「アタシの裏切りは復讐なの。 アタシの憧れていたレイナを壊した レイナ、アンタへの復讐」
兼光の長い告白が終わるとただ黙って
話を聞いていたレイナがせせら笑った。
レイナ「はっ! あんただけはあたしの考えを わかってくれてるって思ってたのに」
レイナ「――あたしはアンタの事、 買い被り過ぎてたみたいね」
レイナ「ちょっとお灸をすえてやらないと。 サモン・・・」
来栖兼光「何とでも言いなさい。 それに主導権はアタシにあるのよ」
来栖兼光「――強制終了(シャットダウン)」
レイナ「え? カードが・・・出てこない?」
来栖兼光「そりゃそうよ、だってカードの所有権は アタシになるんだから」
来栖兼光「アンタの意思だけじゃ使えないのよ」
来栖兼光「――つまり、 アンタを生かすも殺すもアタシ次第」
レイナ「ちょっと、カネミツ! 話は終わってないわよっ!」
鍵の掛かる音にレイナは悟る。
密室状態となった、出れない部屋。
レイナ「あんた・・・ 隠者のカードを使うつもりね!」
隠者のカードの能力は「リッサの棺」だ。
リッサの棺とは鉄製の棺の拷問具で、
入れた人間をその蓋で圧縮し
死に至らしめる。
隠者のカードは密室全体をリッサの鉄棺にする事が出来るトラップカードだった。
レイナ(考えるのよ、レイナ。不死身のスケープゴートでも隠者のカードで死ぬって言うのは)
レイナ(・・・あたしが他のスケープゴートで 立証済みだわ)
レイナ(そうだ! あたしにはこのカードがあるじゃない!)
レイナ("無し"には出来ないけど 効果をコントロール出来る・・・)
レイナ(このカードは私自身。だからカードを 取り出せなくても、能力は使える!)
レイナが大きな声で何か叫ぶのと、
大きな音がするのは同時だった。
〇部屋の前
来栖兼光「――愚者解除(キャンセル・ハーミット) ・・・あっけないものだったわ」
ドアノブに手を掛け、
兼光は小さくつぶやいた。
きっと中には押しつぶされ、血にまみれたレイナが横たわっているだろう。
来栖兼光(あの子の死体を見て・・・ アタシは何を感じるのかしら? ・・・自分でもよくわからない)
〇書斎
しかし、兼光の前に広がる光景は
想像と違っていた。
来栖兼光(レイナが、いない?)
部屋の中央には、
鉄の棺桶が安置されている。
来栖兼光(棺桶・・・じゃないわ、あれは・・・)
少女の形をした鉄の棺桶からは赤い液体が溢れ、ゆっくりと流れ床に広がっていく。
ギイ、ガタン!
棺桶の蓋を押し上げる、
赤く染まったほっそりした手。
来栖兼光「・・・まさか」
レイナ「――・・・確証の無い思い付きだったけど 間違ってなかったようね」
鉄の棺桶から出てきたのは
血だらけのレイナだった。
全てを焼き尽くす『太陽』の『業火』を
防いだ節制の『水』。
なんでも貫く『法王』の『杭』を薙ぎ払った『死神』の『鎌』に、その攻撃を防いだ『塔』の『チェンソー』。
レイナ(カード同士はおたがいに干渉しない ・・・ならば)
『女教皇』の『鉄の処女』に入れば
『隠者』の『リッサの鉄棺』に
押しつぶされる事はないのではないか?
とっさに立てた仮説で、レイナは
『鉄の処女』を呼び出し、自ら中に
入ってリッサの棺をやり過ごしたのだ。
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