第13話「無理心中」(脚本)
〇病室
真紅に染まった病室の床の上には
愛良の首と胴体が離れて転がっている。
小早川亜里寿(・・・何てきれいなんだろう)
小早川亜里寿(ましろお姉ちゃんの中にも・・・ これがあるのかな?)
愛良の体から浮かぶ1枚のカードに
亜里寿は見惚れていた。
篠宮青紫郎「――そのカードは君のお姉ちゃん自身だよ」
いつの間にか病室に現れていた青紫郎は
亜里寿に囁く。
篠宮青紫郎「カードになれば、みんな何も言わない、 静かで美しい存在になる」
篠宮青紫郎「カードとして永遠に生き続けられるんだ」
小早川亜里寿「・・・おじさんは、誰?」
篠宮青紫郎「おじさんはストレイシープさ」
小早川亜里寿「そっか・・・じゃあお願いがあるんだ。 僕と契約してくれる?」
小早川亜里寿「ボクね、ましろお姉ちゃんに この綺麗なカードになって貰いたいんだ」
篠宮青紫郎「それは、ましろちゃんを殺すって事に なるけど・・・良いのかい?」
小早川亜里寿「そうだね。でも、スケープゴートは どっちにしても死ぬ運命なんでしょ? そうセルベールが言ってた」
小早川亜里寿「だからましろお姉ちゃんをボクが殺すよ。他の誰かに殺されるなんてやだもん」
小早川亜里寿「そしてボクも最後はカードになってましろお姉ちゃんと・・・ひとつになるんだ」
うっとりと呟く亜里寿に青紫郎は笑う。
篠宮青紫郎「やっぱり僕が思った通りだ。 君は『才能』のある子だね」
篠宮青紫郎「――さすが『世界』のカードの スケープゴートに相応しい選ばれた子だよ」
〇黒背景
青紫郎との戦いの後。
凄惨な現場に家畜達は沈黙し、気まずい
雰囲気の中、セルベールが現れた。
セルベール「セイシローはいないけど、まだこーんなに家畜ドモがいるって事は・・・」
セルベール「もっと死体は増えるわぅ?」
という空気を読めないウキウキとした言葉で、一同は散り散りに解散したのだった。
皆、今夜は戦う気が起きないのは
同じだろう。
青紫郎との圧倒的な力と、
狂い様の差を見せつけられたのだから。
〇綺麗なダイニング
綾瀬静「・・・・・・」
ソファに体を預ける静。
黛ましろ「・・・あの男の人は ・・・篠宮青紫郎さんだよね?」
綾瀬静「・・・ああ」
黛ましろ「じゃあ・・・ あの人が本当の殺人ドクター、なんだ」
綾瀬静(え?)
綾瀬静「――なんでそう思うんだ?」
黛ましろ「なんでって・・・ 当時の状況を調べたらそう思ったんだ」
黛ましろ「犠牲者が見つかった地下室って、 篠宮家の経営する病院だし・・・」
黛ましろ「それに、 静が淡紅子さんを殺すはずないもの」
妙に癇に障る確証めいたましろの言葉。
それでも、静は頷いた。
綾瀬静「そうだな・・・俺は淡紅子を殺さない」
黛ましろ「だよね。ふふ、私は静の事はなんでも 知ってるし、なんでも分かるんだよ」
黛ましろ「だから静は親友だった青紫郎さんを 庇ったんだろうなって思ってたんだ」
綾瀬静(庇う? 俺が・・・青紫郎を ?)
満面の笑みのましろに
静の中の何かが切れた。
綾瀬静「違う! 俺はあいつなんて庇ってない!」
黛ましろ「・・・静?」
急に声を荒げ、自分を睨みつける静に
ましろは戸惑い、泣きそうになる。
綾瀬静「俺があの男を庇ってる? なぜ? どんなメリットがある?」
綾瀬静「俺がそこまであの男に固執してると お前は思っているのか?」
綾瀬静「それに今更俺が殺人鬼でないと 否定してどうなる!」
綾瀬静「どうにもならないし、 淡紅子は生き返らないのに!」
ドン!
静が怒りに任せてローテーブルを
思いっきり殴りつけた。
綾瀬静「それにな、 前から言ってやりたかったんだが・・・」
綾瀬静「俺の過去を勝手に詮索するな! 俺の事をわかったふりをするな!」
綾瀬静「受け止めてやるとは言ったが、 それで愛されると思うのなら大間違いだ!」
黛ましろ(静が怒ってる・・・こんなに怒ってる静を見るのは・・・初めて)
それは静がましろに対して初めてした、
強い否定。
黛ましろ「・・・ごめん・・・なさい」
絶望で目の前が真っ暗になったましろは
この一言を振り絞るだけで精いっぱいだった。
〇綺麗なダイニング
翌日、向かい合って朝食を取る2人の空気はいつになくよそよそしい 。
綾瀬静「・・・ましろ、昨日は悪かった。 言い過ぎたな・・・」
黛ましろ「・・・ううん。謝るのは私の方」
黛ましろ「私が静を怒らせたのがいけないから・・・ ごめんなさい」
綾瀬静「いや、お前は・・・」
悪くない。
俺も心にも無い事を言ってしまった。
そう言えば全て丸く収まる。
――でもその一言が、
どうしても静は言えなかった。
綾瀬静(本当に・・・ 心にも無い事だと言えるのか?)
その後も2人は必要最低限以上の会話を
交わす事無く、朝の時間は過ぎていった。
〇川沿いの公園
黛ましろ(家に・・・帰りたくないな)
とっくに学校は終わり、普段なら家にいる時刻にましろは1人、公園のベンチに座りぼんやりとしていた。
そして思い返すのは昨日、
静に告げられた言葉の数々。
黛ましろ(・・・あれが静の本心なんだ。 私は・・・静を怒らせてしまった)
???「――ちょっと、アンタ。 なに腑抜けてんのよ」
黛ましろ「あ・・・」
レイナ「あ、じゃないでしょ。あの男・・・ 青紫郎を探す手掛かりが無いか、ここに 来てみたらあんたがしょぼくれてるし」
レイナ「もっとシャキッとしなさいな」
レイナ「あたしが卑劣なスケープゴートだったら、 今頃背後から殺されてるわよ」
黛ましろ「・・・私が殺されたら ・・・静は悲しんでくれるかな」
レイナ「はあ? いきなり何言ってんのよ」
黛ましろ「家に帰りたくない・・・」
ましろの瞳がじわりと滲み、
眦にうっすらと涙が溜まり始めた。
レイナ「え? あんた・・・泣いてるの?」
レイナ「ちょっと、やめてよ、あたしそういう 湿っぽいの苦手なんだってば!」
黛ましろ「私、静に・・・」
レイナ「あー、もう! 聞いてあげるわあんたの話。 だから泣き止みなさいよっ!」
ましろはごしごしと袖で涙をぬぐうと
再び口を開いた。
黛ましろ「・・・静に愛を求めるなって言われたんだ」
黛ましろ「でも私は・・・ 静に愛なんて求めてないのに・・・」
レイナ「愛を求めていない? あんた、あんだけ静に依存しているのに?」
黛ましろ「・・・そばにいたいとは思ってる。 でもそれは愛じゃない」
黛ましろ「だって・・・ 愛を求めるなんて卑しい行為だから」
レイナ「卑しいって・・・ 誰がそんな事を言ってたのよ」
黛ましろ「・・・お母さん」
レイナは思わず眉を顰める。
黛ましろ「誰かに愛して欲しいと思った事はあるよ。私を知って欲しいって思った事も」
黛ましろ「でもそれは無理な事だって、 もう分かってるから・・・」
黛ましろ「だから私は静の全てを知りたいの。 傍にいる事を許して欲しいの」
黛ましろ「私の事を知らなくても、 嫌いでも良いから・・・」
黛ましろ「なのに、あんなに静を怒らせちゃった」
レイナ「――あのさぁ、そういう感情が 『愛してる』って言うんじゃないの?」
黛ましろ「そう・・・なの?」
レイナ「第一、愛を求める事は卑しい事じゃないわ」
黛ましろ「・・・あなたは、愛を知ってるの?」
レイナ「当たり前でしょ、 あたしは人間を愛してるの」
レイナ「だから皆のためにこの世界を変えて あげたいから、悪を粛正してるのよ」
レイナ「そしてそんなあたし自身を あたしは愛してるわ・・・」
レイナ「っていうか、自分を愛さないと 他人も愛せないわよ」
レイナ「だから、自分を愛するあたしは もっともっと愛されるべきなのよ」
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