雪の降った日

おさかな

雪の降った日(脚本)

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雪の降った日
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〇荒廃した街
リック「おい相棒、知ってっか?俺らの国じゃあ雪が降ると何かが終わるって言い伝えがあんだとよ」
レイ「・・・お前の3番目の彼女の話か?」
リック「うっせぇよ!たしかにあの日も雪降ってたけどな!」
  そう言って、リックは肩に担いだズタ袋をひび割れた地に投げつけた。
  空は恨めしいほどの快晴で、空からならさぞ地を這い回る歩兵も見やすいだろう。
  前はのどかな村だっただろう廃墟に身を隠しながら、リックはズタ袋を漁る。
  俺もその横に滑り込んだ。
  リックはなんの肉かも分からない干し肉をしゃぶって、気持ち程度に濾した泥水を啜った。
レイ「・・・よく躊躇わずに食えるよな」
リック「ばーか、んな事言ってたら飢えて死んじまうぞ。ほれ、お前の分だ。早く食え」
レイ「・・・うえ」
  渡された肉は干からびているのにどこか生臭い。
  牛や豚などの、食べたことのあるような味ではない。
  だったら、とその先に行きそうになって俺は考えるのをやめた。
  濁った水を啜る。
  臭いが死ぬよりはマシだった。
レイ「・・・で?」
リック「あ?」
レイ「・・・お前が始めたんだろ。雪がなんだよ?」
リック「おー。 こんな天気じゃ雪も降らねぇだろうなって」
  そう言ってリックは晴れた空を恨めしそうに見上げた。
  俺も釣られて空を見る。
  と、敵国の戦闘機が見えて俺たちは慌てて廃墟の奥へ飛び込んだ。
  上からは見えてなかったのか、鉛玉は落ちて来ない。
リック「・・・あぶね」
レイ「つーか、雪ってクソ寒いとこにしか降んねぇんだろ?こんなとこで降るわけねぇだろ」
リック「だよなー」
  リックは肩をすくめて干し肉に歯を立てる。
  俺も肉を引きちぎりながら、リックの言う雪とやらに考えを馳せた。
  ぺったんこの防弾装備の上から胸元に垂らしたペンダントに触れる。
リック「・・・もしかして、とっくに戦いは終わってたりしてな」
レイ「は?」
リック「中央とかお偉いさんの間じゃとっくに終わってて、田舎に駆り出された俺らがそれを知らないだけだったりしてな」
レイ「・・・お前どうした?頭イカれたか?」
リック「そんで俺やお前や、部隊みんなの家族とかがさ、こう普通に買い物とかしてたりしてさ」
レイ「・・・やめろよ」
  思わず俺は唸った。
  なんで今そういうことを言いやがる。
  強く睨んでやると、リックは肩をすくめて両手を上げた。
  ペンダントを押さえつける手に力がこもる。
  俺だって帰りたい。
  でもそんな事言ってられる状況じゃないのはお前だって分かってるはずだろうが。
  そう言うのが顔に出ていたのか、リックは肩の高さであげていた手の片方を、あろう事か俺の頭に乗せて撫でてきた。
レイ「おいっ・・・」
リック「悪かったよ。 ・・・お前は妹さんが中央に残ってるんだっけか?」
レイ「・・・ああ」
リック「じゃあ帰った時に何て言うか考えとけよ?ちなみに俺は、いつもお兄さんと宜しくさせていただいてます、だな」
レイ「待て待て待て。なんで妹に会う前提なんだ、しかもなんだ宜しくって?!」
リック「いやー、宜しくしちゃってるからなぁ?」
レイ「してねぇよ馬鹿!」
  なんてこと言いやがる!

〇荒廃した街
  そう怒鳴ろうとして、次の瞬間には俺の頭が地に押さえつけられていた。
  ドスンと音が響く。
  続けて、俺たちの愛銃の古ぼけた砲声が立て続けに起こり、すぐに静かになった。
  俺は愛銃に手をかけ、その体制のまましばらく耳を澄ませてみるが、何かが動くような音は聞こえて来ない。
  ぼろぼろの壁に体を押し付けて、小窓から外を覗いていたリックの顔は険しいままだった。
レイ「・・・おい、何が」
リック「・・・よぉ、怪我ねぇか?」
レイ「あ? ・・・お前のせいでデコが擦れた」
リック「はは、それなら大丈夫だな」
  そう言ってリックは小窓から離れて、ぐるりと身体を反転させる。
  リックの肋より下が真っ赤に染まっていた。
  擦り切れた防弾装備は役に立たなかったらしい。
レイ「・・・は?」
リック「お前は・・・デコ以外は平気だな。 俺の荷物もお前のとこに詰めて早く行け。 チッ、さっきの戦闘機に見られてたか」
  リックは忌々しそうに空を見上げるが、そこには何もいない。
  俺は震える手で荷物を探って、手当に使えるものがないか必死に頭を回転させる。
レイ「お、おい。 手当するからちょっと待てって」
リック「馬鹿、見りゃ分かるだろ。 俺はもうダメだから早く行け」
リック「さっき撃ち殺したやつからあっちに連絡行かなきゃ別のやつがここに来るぞ」
レイ「だけど!」
リック「行けって。 妹が待ってんだろ? くそ、目が霞んできやがった」
レイ「止血を、」
リック「行けよ馬鹿! 俺はもう死ぬしかねぇんだから、せめて逃げるお前の背中くらい守らせろ!」
レイ「でも、お前を置いていけるかよ・・・!」
  リックが正しいことは頭では分かっていた。
  そうしなければならないことも分かってはいた。
  手当に使えそうな物資もない。
  俺にできることは何もない。
  だけど、帰った後の妹への挨拶を考えてへらへら笑っていたこいつを置いていくことはどうしてもできなかった。
リック「・・・雪、が」
レイ「え?」
  掠れた声に振り返ると、リックが空を見上げている。
  つられて見上げると、俺たちの上を白い鳥が何十と群れて飛び去っていくのが見えた。
  そいつらから抜けた白い羽根が、まるで雪のようにふらふらと落ちてくるのが見える。
  ぼんやりとそれを見上げていると、ちょうど俺たちの上を通過しようとしていた一羽が悲鳴を上げて真っ逆さまに落ちてきた。
  ほぼ同時に銃声が聞こえてくる。

〇荒廃した街

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コメント

  • こういう二人の兵士の会話は今まで幾度ともなく繰り返されたきたのだろうと胸が痛みます。この先、雪が舞う季節はとくにリックを想うでしょうね。切なくもとても美しいストーリーでした。

  • 話の流れがすごく良かったです。
    でも、もう少し早くそれが降ってきてたら…と思うと切ないですね。
    最後の方読んでて胸が痛みました。

  • それならそうともっと早く伝えてくれれば…。
    雪という名のビラですか…発想がとても良いと思いました!
    子供の頃にみたクレヨンしんちゃんの戦国なんとかって映画で、戦後に殺されたアレを思い出しました…!

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