旅する羽根たち

星谷光洋改め、『天巫泰之』

白鳥の家族愛(脚本)

旅する羽根たち

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〇湖畔の自然公園
  びゅうびゅうと、さむい風が吹く、真っ白な冬とともに、大きな湖に、いつものように白鳥がやってきました。
  翼を大きくはばたかせて、ゆっくりと舞いおりてくるのです。
  その沼には、春になってもずっと暮らしている白鳥の家族がいるのです。

〇湖畔の自然公園
  お父さん白鳥と、お母さん白鳥、兄弟白鳥たちの家族が、空をながめています。
  お父さん白鳥は、つい、うつむいて、うれしいような、かなしいような泣き声をあげました。
  お母さん白鳥は、お父さん白鳥の鳴き声を聞いて、空に顔を空にむけて、つらそうな声で鳴きました。
  その声を聞いた、昨年、両親と別れて旅立った若者白鳥が、家族のそばに、ふわりとおりてきました。

〇湖のある公園
  お母さん白鳥は、若者白鳥に近づいて、
「本当に元気そう。本当にりっぱになったわね」
  お母さん白鳥は、喜びながらいいました。
「うん、やっぱりみんなと一緒に旅をしてよかったよ」
  お父さん白鳥は、涙をこぼしながら、うんうんとうなずいていました。お母さん白鳥は悲しそうな顔をして、
「わたしさえ、羽を痛めていなければ、家族いっしょに旅をしていられたのに・・・」
  と、ひとりごとみたいにいいました。

〇森の中の沼
  そうなのです。三年もまえのこと。人間の、いたずらっ子に追いかけられて、
  あわてて飛ぼうとしたお母さん白鳥が、翼を広げきれないままに空に飛ぼうとしましたが、
  土のうえに落ちてしまい、羽を痛めてしまったのです。

〇湖畔の自然公園
「お母さん、おまえが悪いんじゃない。気にしてはいけないよ」
「旅立てないおまえを残してはいけなかった。ただ、それだけのことだよ」
  お父さん白鳥が、やさしく翼を広げて、お母さん白鳥を抱きしめました。
「そうだよ、お母さんがぼくを元気な白鳥に育ててくれたから、今、こうして大空を飛んでいられるんだから・・・・・・」
「来年の春に旅立つ北の国はとてもさむいところだけど、広くてとてもすばらしいところなんだよ」
「でも、ときには、大きな鳥が仲間をおそったりして、怖いこともあったんだよ」
  今まで、お父さん白鳥の背中にかくれていた若者白鳥の弟たちが、おそるおそる顔をだし、若者白鳥のそばにやってきました。
「今年産まれた、あなたの弟と妹よ」
「そうか、ぼくの弟たちだね。来年はみんなといっしょに、旅にだすつもりなの?」
  お父さんとお母さんは顔をみあわせ、くびをなんども横にふりました。
「そうしたいんだが、なにぶん、おまえの弟たちはまだまだひ弱なもんでな。家族でずっとここで暮らすつもりなんだよ」
「そうか・・・・・・、それは残念だな。空のむこうには、ずっと広くてすばらしい世界があるのになぁ」

〇空

〇湖畔の自然公園
  若者白鳥の話を聞いた、少年白鳥たちは、
  ぼくたちもいきたいとだだをこねました。
「いいか、おまえたち。空のむこうには、みたこともない世界がたくさんあるんだが、怖いものたちもいっぱいいるんだよ」
  お父さん白鳥は、少しきびしい顔で話しました。
  それでもいきたいと、少年白鳥たちはいうことを聞きません。
  お父さんとお母さんは困ってしまいました。
  若者白鳥は、よけいなことをいってしまったと、少しばかり反省をしています。
  
  しばらくして、若者白鳥はいいました。
「おまえたち。そんなにいきたいのなら、これから冬のあいだ旅をする練習をしよう」
「それでだいじょうぶだと、お父さんたちに認めてもらえたら、いっしょにいこう」
  お父さんと兄弟たちがうなづきました。

〇山並み
  それから毎日のように、兄弟白鳥たちは、湖のまわりから、街や山、海のほうまで飛んだりして、旅する特訓をつづけました。

〇街の全景

〇海

〇湖畔の自然公園
  それまでふっくらとして、やさしい目をしていた少年白鳥たちも、すっきりとした体になり、目もともりりしくなりました。
  ずっと旅をつづけていたようにみえるほど、たくましい白鳥になったのです。

〇氷
  雪にかわってみぞれが降るようになったころです。
  兄弟白鳥たちがそれぞれに、せめて、わたしとお父さんの羽だけでもいっしょにつれていっておくれといって、
  お父さんとおかあさん白鳥がぬいた、それぞれの羽を口にくわえながら、

〇美しい草原
  若者白鳥たちは、雄々しく翼を広げて空に飛びたちました。
  fin

コメント

  • 後書きに白鳥の絵がなかったとありましたが、丁寧で繊細な描写から白鳥家族が寄り添っている様子が容易に想像できました。時期がくると一斉に旅立っていく鳥達の姿に魅了されることがありますが、沢山のドラマがあるんですね。動物達が育む家族愛は本当に素晴らしいですね。

  • 私にも子どもがおりますので、この白鳥の子どもたちが成長して旅立っていく様子に、白鳥の親たちと同じような気持ちになりました。危険から見を守ってあげたい、でも子どもたちは遠くへ行っていろんなものを見てみたい、彼らを信頼して行かせよう!人間界でも同じですね。旅立ちの日に親白鳥が自分たちの羽をもたせたのは、いつもあなたたちを応援しているよというエールだったように感じます。

  • 人間の子供によって飛べなくなったにも関わらず、人間の子供のせいせず、皆で寄り添っており、1年に1回は両親の湖に戻ってくるという若鳥たちの優しさがいいなぁと思いました。今年は自分の実家に帰ろうと思いました。

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