〇村の眺望
　　【2034年、イバラキ。『飼葉　タタミ』】
緋色「これしか手に入らなかった。ほんと、ごめん！」
　　その夜、先生は『棒』を持って帰ってきた。農場の建屋の外で独り頭を下げている。
　　・・・な、なんというか、すごいシュールだ。
タタミ「あ、あぁ。先生が棒を」
みれい「ぼ、棒？」
楽々「『緋色隊長』の鋼の棒だ！」
　　先生は隣町の隣町の工場《こうば》で、長さ１ｍ程の太い『鋼の棒』を手に入れた。
　　数枚の紙幣で粘って交渉したという。
　　うん。それは鋼、その材質の値段だった。・・・うん。なんか、うん。
　　それから、先生を強くする為に、わたしたちは皆で先生を鍛えた。
　　一言で言うと。
　　
　　──先生はてんで弱かった。
　　・・・本当に弱かった。
　　巨大猫キメラの『ぶっち』相手に、有効打を一撃も与えることが出来ない。
　　
　　巨体ながら俊敏な彼女に触れる事すら出来なかった。

〇村の眺望
　　１日後。待っていた先生を、眠い目を擦りながら前にする。今日はわたしが、先生の相手だ。
　　攻撃を仕掛けたわたし、その鞭をかわすことが出来ずにシャツをボロボロにする。貴重な服が無駄になった。当然わたしはおこ、だ。
　　更に１日後。
　　
　　やはり、誰よりも早く起きて先生は皆を待っていた。
　　その大きさが魅力の巨大猫キメラ『みぃちゃん』を含むキメラ達とあの『みれい』相手に、先生は、『チカラ』だけで打ち勝った。

〇村の眺望
　　休んで、

〇村の眺望
　　食べて、寝て、

〇村の眺望
　　訓練して、訓練して、西の国の手勢を相手に戦って、守って、寝て、休んで、空いた時間は全て農作業に明け暮れた。

〇村の眺望
　　──そんな１カ月が過ぎた頃、

〇村の眺望
　　先生は強化した『キメラ』全員を相手にして、誰も傷つける事なく、全てを『棒』で制した。
タタミ「話にならないよっ、先生」
　　そう。先生は話にならない程、・・・強かった。
　　
　　片手しかないことがその筋力を最大限に鍛えていた、としても強すぎた！
　　『みれい』も『楽々』も、あの『コージ』さえもが泣いていた。先生の強さは、
　　
　　たった１つ、わたしたちに残された希望だった。

〇古民家の蔵
みれい「『緋色』って、なんか『オーガ』みたい」
楽々「副隊長！　『オーガ』ってアレでしょ？」
タタミ「お話に出てくる化け物。先生、化け物！」
楽々「な、ならさ、あの棒をトゲトゲにして『ペスティス』の菌を塗りたくれば！」
みれい「『楽々』覚えてるでしょ？　『フォーチュン』の大ネズミを。 あの時、私たちがどれだけの土地を焼く事になったのか？」
　　そうだ。あの時は町を全て焼いて廻った。滅菌する為に何日も『わたしたちの手で』街を焼く事になった。
　　『タマちゃん』は本当に例外だった。
　　
　　『タマちゃん』は『ペスト菌』を自身でコントロール出来た。その知恵もあった。
　　あの時『タマちゃん』が居てくれたら・・・、そう思っても過去は代えられない。
　　皆が気持ち沈ませる中、先生だけは冷静だった。
緋色「──使える、かもしれないな」
　　先生は言う。『真衣ちゃん』を背負いながら腕立て伏せを行って。
緋色「『タマ』のあの一撃は、『死の恐怖』を刻み込んだはずだ」
緋色「それはあの『ブラック・ダド』にも、きっと例外なく」

〇村の眺望
　　そう言って先生は『真衣ちゃん』を下ろし畑へ向かった。
　　今日は『トマト』と『キュウリ』を収穫できると言う。
　　畑へ向かうその姿を追いかけて皆が朝陽の中を奔る。
　　
　　それが今のわたしたち『化け物クリエイターズ』の姿だった。
　　𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭