エピソード13『星の名を数えましょう』(脚本)
〇村の眺望
【2034年、イバラキ。『言霊 みれい』】
緋色「もう、戦いたくないなぁ。・・・『創』とだけは」
緋色「『創』とだけは、戦いたくないよ」
緋色「こんな、子供たちが争う世界はもう嫌だ。 他の子にはこんな想いさせたくないよ」
みれい「・・・・・・」
『緋色』は私の前で、・・・声を押し殺して泣いていた。
悔しかった。私はなんのチカラにもなれなかったから。
〇村の眺望
緋色「・・・キレイだなぁ」
タタミ「わ、わたひ?」
緋色「違う違う。空だよ! 星だよ」
タタミ(そ、そうでしたか。あはは・・・、わたし、バカだ)
『緋色』が『タタミ』を茶化して笑っている。『タタミ』は恥ずかしさに頭を盛んにかいていた。相変わらず私にダダ漏れの会話だ。
タタミ「それで、星がなんなの? 先生」
緋色「いやな、関係ないけど、これ隣町のおじちゃんから貰ってさ」
タタミ「お酒?」
緋色「し、静かに! 俺だってまだ未成年なんだからな? そんな声出すなよ」
あどけない表情で唇の前に指を立てる。そして徐に注いだお酒の杯を口を前に傾けた。
驚きの表情でその目を見開く。
緋色「お酒って、・・・・・・こんな味がするんだ」
緋色「美味しいなぁ。俺も、・・・早く大人になりたいなぁ」
初めてお酒を嗜んだ彼が、頬を真っ赤に染めてすぐそばに居る『タタミ』を呼ぶ。
その指が煌めく空を指さした。
緋色「星の数、数え終わったか?」
タタミ「・・・先生、星の数なんて数えられるわけない」
緋色「そんな事ないぞ、『タタミ』」
『緋色』が5本の指を折っていく。
──シリウス。──ベテルギウス。──リゲル。星の名前が彼の口から零れ出る。
緋色「星には1つ1つ名前があるんだ。だから、時間を掛ければきっと数えられるさ」
緋色「いつか星の名前を数え終わったら、その時、幾つ在ったか俺に教えてくれよ!」
いつもは培養液の中に居る『真衣ちゃん』を抱いて、『タタミ』が『緋色』の隣に腰掛ける。
そんな『タタミ』は『緋色』を意識してなのか、俯き、そして空を見上げた。
──『スズキコージ』、かつて『コブタ』と呼ばれていた彼がいつの間にか、私の隣りに立っていた。
コージ「解ってましたよ初めから。出会ったその日にはもう、」
コージ「好きな人の、好きな相手くらい」
震えるその手を隠して、苦しそうに息を吐き出す。『コージ』は咽(むせ)ぶように口から零した。
コージ「いいじゃないですか。『コブタ』が夢を見たっていいじゃないですか。『コブタ』がヒトを好きになってもいいじゃないですか!」
コージ「はなから分かっていましたよ。『コブタ』じゃ『英雄《ヒーロー》』に敵わない事くらい!」
コージ「けどいいじゃないですか? 子豚の純情!」
泣きに泣いた『コージ』を見て自身の恋を振り返る。
『私の気持ちは『緋色』に届くのだろうか?』
って。
考えだしたら、・・・どうにも可笑しくて笑えた。
〇村の眺望
──1時間が過ぎただろうか? その時『コージ』が動いた。
コージ「『緋色さん』!」
『コージ』は駆け寄ると深く、深く『緋色』へ頭を下げた。
コージ「『タタミさん』を僕にください!」
緋色「『コージ』、お前いくつだっけ?」
コージ「たぶん13」
緋色「なら7歳サバ読んで、ちょっと、・・・舐めてみないか? 一緒に」
男2人が農場の端、その丘になっている地で杯《さかずき》を交わした。
その日はいつにも増して星がキレイな夜だった。
緋色「きっと、お前じゃないと出来ないことがある」
緋色「お前じゃないと『タタミ』を守れない時がある。きっと」
コージ「・・・僕じゃ、僕には『緋色さん』の代わりなんて、」
緋色「『代わり』じゃない。『スズキコージ』にしか出来ない事がこの先きっと在る。 その時、俺は此処《ここ》に居ないかもしれない」
緋色「その時はお前がみんなを、・・・『タタミ』を守ってくれ」
頭を下げて『緋色』は『コージ』へ頼んだ。その勢いに『コージ』が腰を抜かすようによろけた。
緋色「『コージ』、お前は好きなヒトを守ってくれ! 俺に出来なかったこと、きっとお前になら出来るから!」
𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭
物語の中でも。この現実の世界でも。世界は美しくて。そして変わらぬ人の思い。喉にひりつく酒は甘いか辛いか。短いながらもも。登場人物たちは生きている。それが伝わりました🌿素晴らしい🌿