女神とねんごろダイニング

冬原千瑞

3.こんにちはミコト屋です(脚本)

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〇海辺
  ザザーン・・・
  絶え間なく打ち寄せては還っていく潮騒の音。
  爽やかな潮風と透き通るような蒼い空、紺碧の海。
  見晴らしの良い景色を堪能しつつ、穏やかな波打ち際をサクサクと歩く。
  私の名前は八雲早苗。
  ごはん食べるのと日向ぼっこが大好きな新人OL!
  今日は有給休暇もぎ取って、浜辺で釣りをしに来たの!
  ところがどっこい、
  肝心の釣りに使う餌を忘れてきちゃったのだ!
八雲 早苗「これは由々しき事態・・・ッ」
「にゃーん」
  助けて、と言いたげに鳴き声がする。
  浜辺のずっと向こうの岩場からだった。

〇海岸の岩場
猫「にゃーん」
チンピラA「オラオラ、にゃめんなよう」
チンピラB「猫のくせに、にゃめんなにゃめんな!」
猫「にゃーん」
八雲 早苗「そこっ! 弱い者いじめはサイテーだよッ!」
チンピラA「何だてめぇは!」
チンピラB「やんのかコラァ!」
八雲 早苗「これでもかぶって反省しなさいッ」
八雲 早苗「日輪の力を借りてッ! 今、必殺のッ! 入浜式塩田法・かん水シャワーッッ!!」

〇海岸の岩場
  ザァ────ッ!!!
  天からふりそそぐものがチンピラたちをおそう!
チンピラA「ひゃ~~! しょっぺ~~~~ッ!」
チンピラB「錆びるッ! 身がたちまち錆びていく~~ッ!」
  悪漢共はすたこら逃げ出していった!

〇海岸の岩場
八雲 早苗「ふふっ 塩分20パーセントの潮水の味、思い知ったかッ!」
猫「にゃ~~ん」
  危ないところを助けていただきありがとうございます、と言いたげに鳴かれた。
八雲 早苗「いえいえ、困ったときはお互い様ですから」
猫「にゃー」
  それではお礼にこれを差し上げます、と言いたげに鳴き、背に抱えていた籠を差し出した。
八雲 早苗「こ、これは・・・!」
  籠の中には・・・海老──らしきもの。
  (海老の画像がなかったので今後追加されることを期待します♡)
八雲 早苗「これさえあれば・・・ これで・・・この海老で・・・」

〇古風な和室
八雲 早苗「──海老で鯛を釣るッ!」
八雲 早苗「・・・・・・・・・」
八雲 早苗「・・・あれ? ・・・・・・海老は??」
ヒマワリさん「・・・極めて前衛的な寝言よのう」
ヒマワリさん「もしくは、単に食い意地が張ってるのか」
八雲 早苗「あれ・・・夢だったんだ」
八雲 早苗「おはようございます、ヒマワリさん」
ミケ「にゃー」
八雲 早苗「ミケもおはよう」
八雲 早苗(そっか、そうだった)
八雲 早苗(私は、ミケに連れられて御食つ国に来て――ヒマワリさんの家に御厄介になることになったんだった)
ヒマワリさん「起きたなら早う顔でも洗え、寝坊娘 さすがに寝起きの面倒までは見きれぬ」
ヒマワリさん「わらわはもう仕事に出るからの」
八雲 早苗「えっ、朝ごはんは食べたんですか?」
ヒマワリさん「別に朝から口にする道理はなかろう それでなくても、食材は昨日で使い切ったのであろうが」
八雲 早苗「そっか、昨日のお米はもう食べちゃったんだった・・・・・・」
ヒマワリさん「心配するな、腹ぺこ小娘」
ヒマワリさん「昼前には御用聞きが食材を届けに来る その際に追加の食材も頼むと良い」
八雲 早苗「おおう! マジですか! これで今日も人生の大勝利!」
ミケ「にゃー」
  良かったね、とでも言いたげに鳴かれた。
八雲 早苗「いってらっしゃい、ヒマワリさん! お仕事頑張ってくださいね!」
ヒマワリさん「・・・・・・いってくる」
  ヒマワリさんはぶすっとしながらも、そう呟くのだった。

〇古いアパートの居間
  手早く身支度を済ませた後は、居間でお茶を入れてくつろぐ。
  特に寒いわけではないけれど、温かいものを口に入れると自然と安心したような息が零れる。
八雲 早苗「早く来るといいね、御用聞きさん」
八雲 早苗「一食抜いたぐらいじゃ死なないけど、 朝ごはん食べないとなんかこう、テンションが上がらない・・・」
ミケ「みゃうーん・・・」
  そうだね、と言いたげに鳴かれた。
「ちわ~~! ミコト屋で~す!」
  活気ある声が、裏口側から聞こえてくる。
八雲 早苗「おお! 噂をすればなんとやら!」
  瞬時に、膝がしゃきんと立ち上がった。

〇安アパートの台所
  台所の狭い勝手口には、木製の高台に米を盛る一人の女性。
  早苗の姿に気付くと、はつらつとした笑顔を見せる。
???「おッ! キミが噂の招かれビトだね~!」
???「御食つ国へようこそネギとろカルパッチョ!!」
  ・・・威勢が良すぎる女性である。
八雲 早苗「こんにちは、私は八雲早苗です。 あなたが御用聞きさんですか?」
???「そ~とも~!」
???「アタシは食べ物を司る神、トヨちゃんッ!」
八雲 早苗「トヨちゃん・・・」
トヨちゃん「生鮮スーパー『ミコト屋』の、スーパーバイザー兼エグゼクティブプロデューサーってところねッ!」
八雲 早苗「スー・・・? エグ・・・ブプ・・・?」
トヨちゃん「平たく言えばちょびっとばかしエライ人ってことッ! よろしくねッ☆セニョリータッ☆」
八雲 早苗「よろしくお願いします、トヨちゃん」
八雲 早苗「私、ヒマワリさんのご厚意で、 この家に御厄介になることになりました」
八雲 早苗「なので、今後は二人分と、ミケの分を含めた三人前の量をお願いしたいんです」
トヨちゃん「い~とも~!」
  トヨちゃんは、背後にあった真っ白な布袋の中から2キロ程の米袋を取り出した。
  それから塩袋、昆布数枚、焼き海苔の束。
  すべてを床にどでんと置く。
トヨちゃん「ごめんね~ヒマちゃんは小食でさ~ 他の配達分も終わっちゃってるし 元から手持ちが少ないのよね~」
トヨちゃん「後日に改めて配達するから とりあえずこんだけあればよろしいかな?」
八雲 早苗「充分です、ありがとうございます」
トヨちゃん「あーそうそう、 これは、引っ越し祝いということで・・・」
  トヨちゃんがまた袋から取り出したのは、一匹の立派な鯛だった。
  獲れたてなのかピチピチ跳ねて、透き通るような鱗がまばゆく光っている。
トヨちゃん「鯛は鯛でも、これは眠鯛(ネムタイ)」
トヨちゃん「あまりの旨さにエンドルフィンがドバドバ! とてつもない多幸感に浸りきって泥のように眠っちゃうくらい美味しいのよ!」
  ・・・それは本当に食べても大丈夫なサカナなんだろうか。
トヨちゃん「お近づきのシルシによろしくどうぞッ!」
八雲 早苗「おおう! 海老が無くても鯛が釣れたッ!?」
ミケ「にゃー」
  良かったね、と言いたげに鳴かれた。
八雲 早苗「ありがとうございます! 今日の晩ご飯のおかずがとっても贅沢になりました」
トヨちゃん「なんのなんの」
トヨちゃん「サナちゃんがヒマちゃんちの子になるのなら、こっちもそれ相応の投資はせにゃならん」
八雲 早苗「サナちゃん・・・」
ミケ「にゃー」
  トヨちゃんはとってもフレンドリーなんだ、とでも言いたげに鳴かれた。
トヨちゃん「そう、サナちゃんを見込んでお願いがあるの」
トヨちゃん「ヒマちゃんのこと、どうか親身に見てやってほしいな」
八雲 早苗「ヒマワリさんを・・・?」
トヨちゃん「ヒマちゃんてば、ここんとこ働きづめでね~~ ってもまあ、働きづめなのは千年前から変わんないんだけどさ」
八雲 早苗「千年・・・」
  神さまの時間基準は壮大すぎて、
  それが長いのか短いのか良く分からない。
トヨちゃん「前はもうちょいのんびりリラックスしてたのよ」
トヨちゃん「神々爆笑ライブアライブバトルとか見ながら、『出オチの割にボケツッコミ両脇共に甘い』とか酷評たれつつスルメかじってさ~」
八雲 早苗「おっ、私もスルメ好きですね 気が合いそう」
トヨちゃん「そうなのそうなの」
トヨちゃん「そういうスルメでキュっとやるゆる~いお時間を、ヒマちゃんに取り戻させてもらいたいの」
トヨちゃん「仕事が忙しいのを理由にして、 アタシの秘蔵の純米吟醸酒さえ吞んでくれない・・・」
トヨちゃん「そんないけずなことを・・・ これ以上、過剰在庫を膨れ上がらせるわけにはいかないのッ!!」
  トヨちゃんの口振りに鬼気迫るものを感じる。
  もしかしてこっちが本音なのだろうか。
トヨちゃん「今季の売り上げアップも兼ねて、 ぜひぜひサナちゃんのご助力を仰ぎたく!」
トヨちゃん「上手くいったら何か素敵なモノをお礼するわ!」
八雲 早苗「ほほう・・・?」
八雲 早苗「つまり、せかせかしてるヒマワリさんを、 のんびりゆっくりさせればいいんですね」
八雲 早苗「やれるか分かりませんが、やれる範囲でやってみます」
トヨちゃん「んん~ッ その返事を待っていたッ!」
トヨちゃん「それじゃあよろしくサナちゃん! お互いに安からんことをッ!」
  二本指でピッと軽い礼の仕草をするトヨちゃんは、勝手口から颯爽と出ていった。
八雲 早苗「・・・なんというか、 面白い神さまだね、ミケ」
ミケ「にゃー」
八雲 早苗「何はともあれ、腹が減っては戦は出来ぬ」
八雲 早苗「ブランチになっちゃうけど、とりあえずおにぎりを作ろう」
八雲 早苗「この眠鯛は冷蔵庫に・・・」
  開けた冷蔵庫には、清々しい程にさっぱりと何も置かれていない。
  ヒマワリさんが普段何を食べているのか、ちっとも想像が働かなかった。
八雲 早苗「のんびりまったりするなら、 やっぱり美味しいもの食べさせるのがいいよね」
八雲 早苗「鯛メシもいいけど、やっぱりここは正統なる塩焼きかな・・・」
  夕ご飯に思いを馳せながら、
  とりあえず朝兼昼ご飯の支度にとりかかったのだった。

〇古いアパートの居間
  テーブルの中央には、眠鯛の塩焼きがでかでかと置かれている。
  それを囲むのは、伏せられた茶碗三つと箸が二組。
  夕暮れ時を通り越してもヒマワリさんは帰ってこない。
  おひつに入れたご飯は、そろそろ冷めそうだ。
八雲 早苗「ヒマワリさん遅いね・・・」
ミケ「にゃー」
八雲 早苗「神さまも忙しくて大変なんだね・・・ まるで会社で働いてる私みたい」
ミケ「にゃー」
  どす・・・どす・・・
  緩慢な重い足取りが、居間へと向かってくる。
ヒマワリさん「・・・なんじゃ、小娘 まだ起きておったのか」
八雲 早苗「お帰りなさい、ヒマワリさん 今日はごちそうですよ」
八雲 早苗「トヨちゃんから貰った鯛の塩焼きがあるんです」
  ヒマワリさんは、ちゃぶ台の上に置かれた鯛を興味なさそうに見やった。
ヒマワリさん「・・・わらわはいらぬ」
八雲 早苗「・・・え?」
ヒマワリさん「言ったであろう、わらわは炊事はせぬと つまり、さして食わずとも生きられる身ぞ」
  しかめ面は青白く、生気がない。
  誰が見ても疲労困憊といった様子だった。
八雲 早苗「でも、食べられるんですよね」
八雲 早苗「少しだけ、お口に入れませんか? きっと疲れも取れますよ」
ヒマワリさん「・・・だからいらぬと──」
  その時、立ち眩みに眉をひそめるヒマワリさんの足が、途端にもつれた。
  その拍子でちゃぶ台ががたつき、鯛の塩焼きの載った皿が端へと滑っていく。
八雲 早苗「あっ・・・!」
ミケ「にゃー・・・!」
  大変だ、と無我夢中に手を伸ばした。
八雲 早苗(どうか間に合って・・・!)

次のエピソード:4.すまない、世話になる

コメント

  • 新キャラのトヨちゃんに圧倒されました。楽しすぎです!御食つ国のトヨちゃんというと、外宮におわす神様をイメージしてしまいますね。こんな神様なら足繁く参拝したくなります!

  • 超ハイテンションなトヨちゃん、独特なワードセンスで捲し立てつつもヒマワリさんを思いやったり在庫処理の本音がポロっと出たり…
    なんとも魅力的なキャラですね☺︎

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