対戦ありがとうございました。(脚本)
〇川に架かる橋の下
──最終ラウンド開始。
開幕直後、両者は共に前歩き。即座に打撃戦が始まる。
状況は拮抗。どちらが先に相手を"捕まえる"かの勝負。
ハートイーターの下段蹴りが、フライデイを捉えた。
哀川はヒットを確認し、必殺技に繋ぐ。
ハートイーター「『死んじまいな!』」
闇を纏ったパンチが、フライデイを吹き飛ばす。フライデイはダウン。
女子高生ちゃん(一手、先行されたか)
哀川(まずは一手。どうする? お姫様)
ハートイーターはフライデイの起き上がりを攻める。――投げを仕掛ける。
フライデイは投げ抜け。両者は弾かれ、距離が離れる。
女子高生ちゃん(すぐ後ろは画面端──)
哀川(こっちが有利、上手くやろうか──)
ハートイーター「『焼けろッ!』」
ダークボールの牽制。
女子高生ちゃん(飛びを誘っている? 突進も警戒されている?)
哀川(それでも飛びそうな予感はある。あるいは強引に突進か?)
弾は一発だけで終わった。――フライデイは、前歩き。
再び、"差し合い"が始まる。牽制、歩き、状況を計算した心理戦。
ハートイーター、下段蹴りを当てに行く。――空振り。外れた。
技の硬直。その隙を、フライデイは"大足払い"で咎めた。ハートイーターはダウン。
哀川(中足に大足で差し返し・・・・・・、よく見えている)
女子高生ちゃん(よく見えてる。指が勝手に動く・・・・・・!)
フライデイはハートイーターの起き上がりを攻める。それは打撃と投げの択。すべてを防ぐことは不可能。
ハートイーター(ボムシュガー・・・・・・)
哀川はコマンド投げを警戒し、バックステップを選択。
しかし、彼女が選んだ択は"打撃"――バックステップでは防げない。
哀川「チッ・・・・・・!」
女子高生ちゃん「・・・・・・通る」
通った。彼女は連続打撃からのコマンドを入力、この状況での最大コンボを叩きこむ!
フライデイ「『シュガーアタック!』」
――二連続のハイキック。ハートイーターはダウン、画面端が近い。
フライデイは攻めを継続――起き上がりに、択を仕掛ける。
哀川(クソ、ゲージがあるか・・・・・・!)
女子高生ちゃん(この択で、殺す・・・・・・!)
択。打撃か、投げか。
――レバーを、半回転。パンチボタンを二つ同時押し。フライデイは、コマンド投げを仕掛けた。
ハートイーター「・・・・・・!」
フライデイ「『これで終わりね!』」
ゲージを使って強化されたボムシュガーガーが、ハートイーターを捉えた。
フライデイはハートイーターを掴み、上空へとジャンプ。縦回転で勢いをつけ、地面に叩きつける!
爆発の演出と共に、ハートイーターの体力はゼロになった。
・・・・・・
〇ゲームセンター
女子高生ちゃん「・・・・・・」
女子高生ちゃん「勝った・・・・・・」
画面が切り替わる。
A new challenger has arrived !
女子高生ちゃん「あ・・・・・・」
次の対戦が始まる。相手は再びハートイーター。――ここまで、わずか数秒。つまり。
女子高生ちゃん「・・・・・・」
女子高生ちゃん「ふ、ふふふふ!」
女子高生ちゃん「哀川さん、まだ足りないっていうんだね。いいよ、泣きたくなるまで付き合ってあげる!」
夜は流れていく。いつものように。
〇宇宙空間
閉店時間となった。ゲームセンターの住人が店を出て、街の中へと散っていく。
空には星々、煌めいている。
女子高生ちゃん「空、きれいだなー・・・・・・」
彼女は空を見上げて呟く。煙草の匂いがする。
『煙草の匂いは、嫌いじゃない』
女子高生ちゃん「泣きたくなる風景だ。世界はこんなにきれいなのに、」
『なんで、現実は――』
哀川「ポエムは嫌いじゃないぜ、お姫様」
女子高生ちゃん「む・・・・・・」
ルルの手には煙草。哀川はバニラアイスを食べている。
女子高生ちゃん「馬鹿にしてるでしょ」
哀川「別に?」
女子高生ちゃん「・・・・・・。哀川さん、夜にアイス食べると太るよ」
女子高生ちゃん「っていうか、哀川さんはアイス食べ過ぎ。太るよ」
哀川「俺は体質的に太らないから。お前と違ってさ」
女子高生ちゃん「・・・・・・なんで私が太ったこと知ってるんですか」
哀川「顔見れば分かるだろーが」
女子高生ちゃん「はあ? そんなに私のことを見てたんですか? 私のことが好きなんですか?」
哀川「怒んなよ、自意識過剰か?」
口喧嘩は続く。
ルル「本当に仲が良いね、君たちは」
女子高生ちゃん「いやいや、ルルさん、知ってます? こいつ、ゴミですよ」
哀川「待て、ゴミは酷くないか? ちょっと勝ったくらいで調子に乗った? 俺の方が勝ち越したからな?」
女子高生ちゃん「んー、今日の感じで言うと、すぐ私の方が強くなるなーって」
哀川「はあ!?」
ルルは煙草の煙を吐き出す。二人は数分口喧嘩を続けて、疲れてしまった。
熱を冷まして、しばらく雑談して、じゃあもう帰ろうか、みたいな空気になった。
哀川は自転車に乗る。去り際に、彼は言った。
哀川「俺がお前を評価するとすれば──」
哀川「二十歳になってもセーラー服を着ているなら、クールな奴だと思うね」
女子高生ちゃん「・・・・・・」
女子高生ちゃん「似合ってるでしょ?」
哀川「似合ってるよ。キャラも立ってるし。じゃあ、またな」
彼は手を振り、自転車を走らせた。
女子高生ちゃん「またね・・・・・・」
女子高生ちゃん「次は、自殺したくなるような負け方をさせてあげるから!」
彼女は、後ろ姿に手を振った。
女子高生ちゃん「じゃあ、私も消えるかな・・・・・・」
ルル「女子高生ちゃん。私も世界はきれいだと思うよ。君たちを見ているとね」
女子高生ちゃん「なんですか、それ」
女子高生ちゃん「・・・・・・」
女子高生ちゃん「こんな日々が続く。私は幸福なのかな? 最低なのかな?」
女子高生ちゃん「何もかもがダメになる時があると思えば、それだけで生きている意味があるって感じる瞬間もあって・・・・・・」
女子高生ちゃん「・・・・・・」
女子高生ちゃん「とりあえず、今日は終わりだ。帰って、シャワー浴びて、明日に向かおう」
女子高生ちゃん「・・・・・・」
女子高生ちゃん「対戦、ありがとうございました」
希望の持てる終わり方でホッとしました。
可能であればもっと読みたいです。
対ありでした❤
弱P弱P→弱K強P