保健室の渋谷

危機綺羅

保健室の渋谷(脚本)

保健室の渋谷

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保健室の渋谷
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〇保健室
ヒトミ「──おはよう、ヨーコ」
ヨーコ「おはよう、ヒトミちゃん」
ヒトミ「ベッドに座っていい?」
ヨーコ「いいよ。少し寄るから・・・」
ヒトミ「寄らなくたって座れるわよ」
ヨーコ「大丈夫? 端っこで落ちない?」
ヒトミ「先生と違って、私のお尻は大きくないのよ」
先生「ヒトミちゃん、元気なら教室に行きなさいな」
ヒトミ「うわ! なんでいるの!?」
先生「ここが保健室だから」
先生「──お腹の調子はどうなの?」
ヒトミ「え? あー・・・痛い、ですね・・・」
先生「そう。調子が良いなら、教室に行くようにね?」
ヨーコ「今日もお腹痛いの? 寝てなくて大丈夫?」
ヒトミ「おしゃべりくらいはできるってば!」
ヨーコ「う、うん・・・痛かったら、ベッドに行っていいからね?」
ヒトミ「いいから、ほら、なにが聞きたい?」
ヒトミ「土日も色んなところに行ったし、なんだって話してあげる!」
ヨーコ「それなら、また渋谷の話が聞きたいな」
ヒトミ「渋谷・・・? これで何回目よ?」
ヨーコ「ヨーコちゃんの渋谷の話、好きだから・・・」
ヒトミ「ふーん・・・まあ、いいけどさ・・・」

〇渋谷駅前
ヒトミ「──何度も言うけど渋谷ってね、建物がものすごく高いのよ」
ヒトミ「しかも歩道でたくさん人が歩いてるの」
ヒトミ「ヨーコが行ったら、そこで迷子になって死んじゃうかもしれないわ」

〇保健室
ヨーコ「でも、ヒトミちゃんと一緒なら大丈夫なんだよね?」
ヒトミ「そうね。私は何度も行ってるから、私がいれば大丈夫!」
ヒトミ「──それで、これは言ったことあったっけ?」

〇モヤイ像
ヒトミ「渋谷にはね、モアイ像がたくさんあるの」
ヒトミ「でっかい顔の石なんだけど、それがもうたくさんよ!」
ヒトミ「宇宙人が作ったとか、いろいろな話があるけど・・・」
ヒトミ「本当は渋谷の偉い人が作ったらしいわ。自分の顔をそこら中に置きたかったのよ」

〇保健室
ヨーコ「ふふっ・・・本当?」
ヒトミ「本当の本当よ! 私は見てきたんだもの」
ヒトミ「ヨーコも元気になったら行くといいわ」
ヨーコ「・・・うん。絶対に行ってみる」
ヨーコ「渋谷って服もたくさん売ってるんだよね? いっぱい買って、おしゃれもしたいんだ」
ヒトミ「その時は私がプレゼントしてあげる」
ヨーコ「え!? い、いいよ・・・悪いから・・・」
ヒトミ「いいのよ。お小遣いはたくさんあるんだから!」
ヨーコ「・・・ありがとう、ヨーコちゃん」
ヒトミ「いいの、いいの!」
ヒトミ「──それよりほら、私、大阪にも行ったのよ!」
ヒトミ「大阪も人がたくさんいてね、ヨーコがいたらはぐれて死んじゃいそうだったわ!」
ヨーコ「私、ヒトミちゃんの話でいつも死んでる気がする・・・」

〇保健室
ヒトミ「──おはよー!」
ヒトミ「ヨーコ? ・・・今日は休みかな?」
先生「おはよう、ヒトミちゃん」
ヒトミ「・・・おはようございます」
先生「今日はどう? 教室には行けそう?」
ヒトミ「えっと、お腹が痛いから寝てたいです」
先生「そう。無理はしないようにね」
先生「・・・ねえ、ヒトミちゃん。ヨーコちゃんのことなんだけど」
先生「もう、学校には来ないかもしれないの」
ヒトミ「え? ・・・死んじゃったの?」
先生「──ち、違う違う!」
先生「良い病院が見つかって、そこに入院したのよ」
ヒトミ「じゃあ、ヨーコは・・・病院にずっといるんですか?」
先生「ずっとじゃないけど、すぐには学校に来れないと思う」
ヒトミ「そっか・・・」
先生「これ、ヨーコちゃんから預かったの。読んであげてね」
ヒトミ「・・・ベッドで読んでいいですか?」
先生「うん。大丈夫よ」
ヒトミ「手紙・・・」
ヒトミ(ヨーコは病院に行って、いつか元気になる・・・)
ヒトミ(死んじゃうと、思ってたのになぁ)

〇黒背景

〇女の子の一人部屋
ヒトミ「──お母さーん、喉乾いたからジュース!」
ヒトミ「持ってきてくれなきゃ死んじゃうぞー!」
ヒトミ「・・・あれ?」
ヒトミ(買い物でも行ったかな?)
???「──持ってきたから、開けてくれる?」
ヒトミ「もー、いるなら早く・・・ん? 誰?」
ヒトミ「もしかして、また相談所の人?」
ヒトミ「開けるけどさ、私、もうこのまま生きるって決めてるんだけど──」
ヒトミ「・・・は?」
ヨーコ「えっと、ひ、久しぶり・・・」
ヨーコ「分かる、かな?」
ヒトミ「──ヨーコでしょ?」
ヒトミ「うわ、生きてたんだ・・・」
ヨーコ「いや、言われても仕方ないけど・・・そこまで言う・・・?」
ヒトミ「なんか用? 私にもんくでも言いに来た?」
ヨーコ「もんく?」
ヒトミ「ヨーコさー、小学校のころなんて水に流そうよ」
ヒトミ「若さゆえの過ちってやつよ。ちょっと嘘ついただけじゃん!」
ヨーコ「・・・あの、ヒトミちゃん?」
ヒトミ「なに?」
ヨーコ「子供のころさ、保険の先生から手紙貰ってない?」
ヒトミ「──あー、ごめん。それ読まずに捨てたの」
ヨーコ「す、捨てた!?」
ヒトミ「正直さ、ヨーコのことそんなに好きじゃなかったんだよね」
ヒトミ「私と違って教室に行けとか言われないし、ずるいなーって思ってさ」
ヒトミ「だから手紙も読まずに捨てちゃった! ごめんね!」
ヨーコ「・・・よかった」
ヒトミ「え?」
ヨーコ「私もヒトミちゃんのこと、全然好きじゃなかったんだ」

〇保健室
ヨーコ「元気なくせに保健室にいて」
ヨーコ「行ったことのない場所の話をして」

〇女の子の一人部屋
ヨーコ「──ずっと、嫌いだったんだ」
ヨーコ「だから最後に、ヒトミちゃんの嫌いな所を手紙に書いちゃったの」
ヒトミ「うわ・・・性格悪い・・・」
ヨーコ「そ、それはお互い様でしょ!?」
ヨーコ「私が知らないと思ってさんざん嘘ついたんだから!」
ヒトミ「だから、それは水に流そうってば・・・」
ヒトミ「──というか、それならなにしに来たの?」
ヨーコ「・・・渋谷に行きたいんだけど」
ヒトミ「行けばいいじゃん」
ヨーコ「一人じゃ心細くて、その・・・」
ヨーコ「ヒトミちゃんなら、迷惑かけてもいいかなって」
ヒトミ「なにそれ!? 行くわけないじゃん!」
ヨーコ「だってほら、ヒトミちゃんがいないと死んじゃうらしいし・・・」
ヒトミ「死んじゃえばいいよ!」
ヨーコ「あ、酷い・・・服も買ってくれるって言ったのに!」
ヒトミ「ニートにそんな金あるか!」

〇女の子の一人部屋
  ──ともかく、嘘つきなヒトミちゃんは嫌いです
  だから私が元気になって、ヒトミちゃんが正直になったら
  一緒に渋谷へ遊びに行こうね
  ヨーコより

コメント

  • あぁ、女の子同士ってこんな感じかなぁと思います。おじさんが描いていたら驚愕です。適度な腹黒さが、微笑ましく、リアルな感じでした。

  • 所々子どもながらのドストレートな表現に、読みながら少しヒヤヒヤしました笑
    こんなこと言いつつも、なんやかんやで2人は仲良くやっていくんだろうなぁと思いました😌

  • 最初は子どものほのぼのした話か、ちょっと切ない話にでもなるのかと思ったのですが、そのどちらでもなくて…。単なる仲良しでない二人の関係がすごく好きです。

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