読切(脚本)
〇教室
菜々「この世は地獄だぜ!!」
葉月「うん」
葉月「続けて」
葉月「いただきます」
菜々「限られた資源を必死に奪い合う日々、 他の人を蹴落として何かを得ることになれてしまった人々・・・」
菜々「手の届く場所にあるのに、食べたいものを 食べれないわたし・・・!」
菜々「これを地獄と言わず なんと言う!!」
葉月「・・・・・・」
葉月「また買えなかったんだ。 弁当」
菜々「そうなんだよ~」
菜々「またアンパンしか 買えなかったんだよぉ」
葉月「アンパン美味しいでしょ」
菜々「美味しいけど、お昼ご飯には物足りないよ・・・」
菜々「はぁ・・・」
菜々「・・・どうして葉月ちゃんは いつもお弁当買えてるの? 普段こんなにのんびりしてるのに」
葉月「弁当を買うのに速さはいらない。 買えそうなものを見極めることが大事」
菜々「それじゃ、食べたいもの買えないじゃん」
葉月「買えたものを食べたいと思えばいい」
菜々「えー それにしては毎日美味しそうなもの食べてる気がするけど・・・」
葉月「気のせい」
菜々「その唐揚げ美味しそうだな・・・」
葉月「一個あげるから」
菜々「本当!? 葉月ちゃん天使!!」
葉月「私が天使だったらこの世は天国になるんじゃない?」
菜々「葉月ちゃんは天使だし、ここは地獄なんだよ!」
葉月「どっちも違うと思うけど」
葉月「それで、どうしたの? 購買の弁当争奪戦に地獄を見た?」
菜々「見ちゃいました。 この世の真理を・・・」
菜々「もしこの世界を神様が作ったなら、もっと満たされていたっていいし、弁当も希望してる人の数あってもいい!」
菜々「そう思わない!?」
葉月「神様もそんな小さなこと気にしてられないと思うよ」
菜々「そう! そこなんだよ! 人がいっぱい いたらみんなのことを見るなんて無理」
菜々「だからこの世がつくられたんだよ!!」
葉月「話が見えないんだけど」
菜々「つまりここは神様じゃなくて、閻魔様がつくったんだよ!」
葉月「はぁ」
菜々「閻魔様は日に日に増え続ける罪人に頭を抱えていた」
菜々「もう鬼たちの手だけで地獄を運営するのが難しいと判断した閻魔様は、罪人が自分たちだけで罪を償う方法を考えた」
菜々「それがこの世なんだよ!」
菜々「だから、弁当の数がたりないんだよ!!」
葉月「話はわかったけど、地獄にしては満たされてるんじゃないの。 弁当も買えてる人もいるわけだし」
菜々「ちっちっち、 わかってないなぁ葉月ちゃんは」
菜々「そんなんじゃ立派な閻魔様になれないよ」
葉月「ならないよ」
菜々「わたしも弁当が初めから売って無かったら。弁当を一回も買えたことが無いなら、こんなこと思わなかったんだよ」
菜々「弁当があるからパンで満足できなくなるし、弁当を買えたことがあるから、今日は買えるかもと思う」
菜々「これこそが閻魔様の狙い!」
菜々「この世界を作ったとき、幸せを作っても それを全員分用意しない。 人には幸せを求める心を与える」
菜々「後は放っておいても人は奪い合ったり、欲しいものが手に入らなくて勝手に落ち込んだりする。それで罪を償わせる」
菜々「そして、罪人の管理という仕事から解き放たれた閻魔様は今頃遊び呆けてるんだよ!」
菜々「職務怠慢だ!」
葉月「ごちそうさまでした」
葉月「でも私たちが地獄の人なら閻魔様が働いたらもっと辛くなるんじゃない? もっと弁当が減ったり」
菜々「働くな! 遊んでろ!」
葉月「まあ話は分かったけど、この世を地獄だと思ったなら菜々はこの世界を嫌になった?」
菜々「いいや。好きだよ」
菜々「ぶっちゃけ思い付きで喋ってただけだし。天国でも地獄でもそれ以外でも、生きてる私たちには関係ないしね」
菜々「それにもし地獄だったとしても、足りてないからこそ、葉月ちゃんみたいに自分の分をわけてくれる優しい人に出会えるわけだし」
葉月「そう」
菜々「と、いうわけで唐揚げ頂戴!」
葉月「・・・あ、ごめん。 全部たべちゃった」
菜々「え!? ひどいよ葉月ちゃん!」
葉月「菜々の話が面白いから、つい」
菜々「うー・・・それじゃ、アンパンだけで午後の授業を乗り切らないといけないの・・・」
キーンコーンカーンコーン
葉月「あー、次移動教室だから、もう食べてる時間ないかも」
菜々「神は私を見放した・・・!!」
葉月「閻魔様は遊んでて見てないんでしょ」
菜々「・・・・・・」
菜々「・・・葉月ちゃんも、私にパン食べないのって聞いてよぉ・・・」
葉月「凄い楽しそうにしゃべってたから、止めたら悪いかなと」
菜々「とめてよー」
葉月「ごめん。放課後美味しいもの食べに行こ、おごるから」
菜々「それは行くし、嬉しいけど。 こんなお腹空いた状態で後二時間も授業を受けなきゃいけないなんて・・・」
菜々「やっぱりこの世は地獄だよ!!」
葉月「ふふっ」
葉月「そうかも」
二人のやりとりが楽しかったです。
気のおけない友達との雑談って楽しいですよね。
あまり話してないのに、ツッコミが的確な彼女が好きです。笑
かわいらしい、良いお話しですね。時がタイムスリップしたような、昔を思い出しながら読ませて頂きました。すべてが純粋で、真っ直ぐだったあの頃、戻りたいです(笑)
弁当を買いそこなった菜々の思いつきの話を、うんうん・・と聞いている友達はいつのまにか弁当を完食していたのが、この話のおちでしょうか。この年代って、ちょっとした出来事にも一喜一憂して、そういう活気が伝わりました。